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『――大丈夫よ。今はそう……パパは少し悩んでいるだけだから』
『パパもリアも私は大好き。だから、リアもパパを大好きでいてね』
聴き慣れた音に私は目を開けた。目尻が冷たい……泣いている。また、泣いている。
……いつも泣いている。
夜になったばかりなのか、それとも夜中なのか、もしくはもうすぐ明け方なのかは分からなかったが、窓の外も部屋も暗かった。
身体を起こし、音の方へと顔を向ける。
目覚ましの音じゃない……そもそも目覚ましはかけない。自然と起きることができたから。
だが、もしこの音が目覚ましの音だとしたら、それは一番いい目覚ましの音だと思う。
夢から冷める音。寝ている夢も、現実の夢もすべて霧のようになくしてしまう音。
でも、その音には喜びもあった。母の想いを共通することができる音でもあったから。
「もう大丈夫」
そう思えたのは何故だろう? ここに来てから、この音を聞くたびに苦しかったのに……。
部屋を見渡し、まだ帰ってきていないもう一人の住人を思い起こす。
桜の舞う空、抱きしめられた胸の中で一枚の花弁のように心の奥に灯った暖かい光。
私の全部を受け止めてくれて、苦しみを分かってくれた人。苦しむなといってくれた人。
――一緒にいるって言ってくれた人。
それだけでよかった。もう、それだけで私は進んでいける。
「ありがとう……」
――そして、
「……ごめんなさい」
私は手を伸ばし、鳴り続ける携帯電話を取ると、通話のボタンを押した。
――――――――――
「…………」
――紅耶は静かに瞳を開くと、組んでいた腕を外しながら自分の部屋の扉に預けていた背中を離し顔を上げた。
この時間に電話がかかってくることを知っていたわけではない。だが、予想はしていた。近いうちに電話がかかってくることは。
(いや、『近いうちに』っていうのは違うかもしれない。おそらくは、わたしが居ない時に毎日……)
本当なら傍に居たかった。眠っている時は手を繋いでいたかった。
だが、そうするわけにもいかない。リアの為にも、しばらく離れていないといけない。
(本当にリアと一緒に居るために)
リア自身が居ることを決めるために――




