15
「リアは優しいよ。本当に……わたしたちと違って」
暗くはなりたくはないが、笑い飛ばせるほどにはなれず紅耶は陰鬱に溜息をついた。
「純粋で優しい子ほど苦しまなければならないっていうのは、ほんと……どうなんだろうね」
テーブルに肘を突き握って組んだ両手に額を乗せる。そのまま二三度とんとんと自分の額をこずいてから、紅耶は呟いた。
「おかしいよね」
「そうね……」
割り切れない思いに、シリスは視線を落とした。今に始まった思いではない……それは紅耶も理解していることだろう。
だが、理解していても割り切れるものではなかった。そう、理屈じゃないのだ。
「リアは『ママとパパを嫌いになれない』って言ってた。それは、もっと深く言えば……『裏切れない』ってことだと思う」
「……そう」
顔を上げて話を続ける紅耶に、シリスは短く答えた。
リアの父は魔法使いを嫌悪していた。だが、リア自身は魔法使いを嫌いになれなかった。
それは、自分が魔法使いになったからかもしれない。だからといって、魔法使いを好きとはいえなかった。好きといえば、魔法使いを嫌悪している父を裏切ってしまうと思ったから。
だから、魔法使いを拒絶しようとした。魔法都市へ来ても一人でいようとした。自分が嫌悪されても当たり前だと思った。
父も魔法使いもどちらも好きといえなかった。そして、どちらかに割り切ることも……それは、九歳という少女にはまだ辛いことだろう。
そして――
「多分、リアは全部分かってる」
まだ何日かだが、ルームメイトとして一緒に過ごしていればだいたいのことは分かってくる。
いや、それは初めてリアに会ったときから感じていたことだった。あれだけ聡い子なら、全部分かっているだろう。
自分の父がいかに理不尽なことをしているかを……それで作り上げられた自分の状況を。
「分かって、自分一人で耐えようとした」
リアは何も悪くない。それでも、耐えなければならなかった。
理屈じゃない……理屈じゃなにも解決しない。
「だから、わたしはリアと一緒にいるよ。そして――」
「そして、この世の理不尽を無くす」
紅耶の言葉の続きを口にして、シリスはにこっと微笑んだ。




