14
――カチャ
日が傾き始めた頃、ドアを開けてオレンジ色に染まった生徒会室へと入ると、窓からの夕陽を背に受けながらシリスが席を立った。
「紅耶」
呼びかけに紅耶は軽く手を上げて答える。ドアを閉めて部屋の中に入っていくとシリスも近づいてきた。そのお陰で、逆光のせいで影になっていた表情が見えてくる。
シリスは安堵と苦笑が混じった複雑な表情をしながら、さっきまで紅耶の部屋で様子を見ていた少女のことを問いかけてきた。
「リアは?」
「寝てるよ。水沙と鈴がずっと付き添いたがっていたけど帰らせた。魔力の暴走による身体的な異常はなかったし、寝顔を見ても精神的に安定してるみたいだったから」
「そう……あなたのほうは?」
「わたし? ああ、怪我ね」
聞かれて気付いたように、紅耶は笑って怪我をした左腕を回した。
「瑞姉の治癒であらかた治ってる。一応、傷が破れないように手当てはしているけど」
瑞穂は魔法使いの中でも数少ない治癒魔法が使える人間だった。病気を治すことはできないが、ひどい傷でなければほぼ治すことができた。
つまり、瑞穂の手に負えるくらい紅耶の傷は深くはなかったということだった。そのことに安心して、シリスはほっと息をついた。
「よかった。安心したわ」
「ごめん、心配かけた」
「まったくよ。役所で散々嫌味言われてこっちが寝込みたい気分だったのに、帰ってきたら紅耶が寝込んでるんだもの。先越されたって思ったわ」
いつもの表情に戻って微笑むと、シリスはテーブルの方へと足を向けた。後に続いて、紅耶も歩き出す。
「紅茶を用意するから座ってて。それから話を聞きましょうか」
「ありがと」
「瑞穂ほどおいしくはできないけど我慢して」
席につく紅耶に、シリスは笑いながら紅茶の準備を用意していった。
――しばらくして、甘い香りと湯気を立ち上らせた二つのティーカップをテーブルに置くと、シリスは紅耶の向かいに座る。
「浮かない顔ね」
カップに手を伸ばし一口飲んでから、シリスは紅耶を見つめてそういった。
「まあ、ね」
否定せず頷いてから、紅耶は背もたれに体重を預け天井を仰ぐ。
分かっていたことを改めて理解し、その上で様々なことが浮かぶ。だが、結局いくら理解し分かったとしてもなんの解決にもならなかった。つまり、物事が分かってもなにも解決しないことを確認しただけだ。
紅耶は天井に向けていた目線を下ろし、シリスに向かって口を開いた。
「理屈じゃないからね」
「そうね」
今度はシリスが頷く。
紅耶が何を言いたいのかを全て分かったわけではない。だが、『理屈じゃない』という言葉の意味はシリスもよく分かっていた。




