13
「……っ」
手をぎゅっと握る。
――じゃあ、ママとパパはどうなるの?
「分からない……」
座りこんだまま、搾り出すようにリアは声を震わせた。
「分からないよ……」
――どうしたらいいか……わからない。
「リア……」
呼びかける声。紅耶の声。
「嫌……」
言葉を止めるようにリアは囁いた。
――この続きを聞いてはいけない……聞いたらきっと私はもう……。
「嫌……嫌……」
「リアはそのままでいい。わたしが――」
――私はもう帰れない。
「いやぁぁぁあああっ!!」
バチィ!!
リアが叫んだ瞬間、風が逆巻き空気が弾けとんだ。
「――――」
左肩が弾かれ、紅耶は疾風の中体勢を立て直した。衝撃で肩の肉が裂け、血が大量に流れ落ちていく。
「…………ぁ」
起こったことに理解できないまま、リアは小さく呟き、目を見開いたままガタガタと震え始めた。
「……私……私……」
今だ疾風が逆巻く中、呆然と呟き続けるリアに、紅耶は安心させるように少しだけ微笑んだ。
魔力の暴走……リアが魔法実技を受けていないことで予想していたことではあった。威力は予想以上だったが。
魔法実技を受けたくなかったのも、この理由だろう。つまり、魔法を使おうとすれば暴走することを知っていたから。
「リア」
見つめ、呼びかける。腕の怪我などまるでないように、ただ真っ直ぐに。
「……駄目……」
一歩、踏み出す。
「駄目っ! 止められないの! 近づいちゃ駄目っ!!」
「リア」
「だめぇっ!!」
ビチィッ!!
かまいたちが紅耶の身体を凪いだ。袈裟斬り裂かれた身体から鮮血が飛び散り白い制服を染めていく。
「――っ!!」
リアが引きつったように息を飲んだ。涙を流し、座ったまま動けずに身体を震わせる。
「お願い……来ないで……。紅耶、死んじゃう……」
「…………」
もう一歩踏み出す。痛みは感じない。この程度、痛みともいえない。
リアの背負ってきた痛みに比べれば。
「来ないで――!!」
「リアッ!!」
叫ぶ。その時には、紅耶はリアの前に立っていた。
「……こ……うや」
リアは見上げ、かすれた声で名前を呟いた。
流れる血はそのままに紅耶は膝をついた。そして――
「――ぁ」
ぎゅっと、右手だけでリアを抱き寄せる。強く――優しく。
「リア」
名前を呼ぶ。何度目かも分からない――それでも、求めるように応えるように、リアの名前を呼ぶ。
――その時には、もう風は止まっていた。
「こうや……」
風で運ばれてきた桜の花弁が舞い落ちる中、紅耶は口を開いた。誓うように、凛と。
「わたしが受け止める」
「――――」
「リアはそのままでいい……わたしがすべて受け止める。一緒にいる。だから――」
リアは目を見開き……そして、ゆっくりと瞼を下ろした。
「だから、もう苦しむな」
握っていた手を緩めて、強く優しく包まれるまま紅耶の身体に身を預ける。
――これでいいんだよね。きっと――
胸に浮かんだ一片の花弁。それだけで、きっともう大丈夫。
「…………ありがとう、紅耶」
小さく囁き、リアは紅耶の胸の中で眠るように瞳を閉じた。




