12
リアの問いはもっとものように見えて実は間違っている。『父親のことを嫌いと言ったのに、自分のことは何故嫌いにならないの?』とリアは言っているのだ。
そのおかしさはリアも気付いているのは知っていた。だからといって、それを一言で言うのは難しい。
しばらくの間、春の風だけが二人の間を通り過ぎていく。その間紅耶はずっと考えていた。自分の気持ちをどう伝えるかを。
道徳でも同情でもない。女の子だから、子供だからでもない。友達だから……というのは間違ってはいないかもしれないが、それではまだ浅い。
頭の中でいくつもの言葉が浮かび消えていく中――紅耶はやっとその答えを見つけた。
思いついてみればもっとも簡単で、単純な答え。でも、一番強くリアと自分を結びつける答え。
「――言ったでしょ」
紅耶は一度だけ瞳を閉じ、真っ直ぐにリアを見つめると静かに口を開いた。
「わたしとリアは一緒だから」
「――――」
「リアと同じ気持ちだからだよ」
その言葉に――
「…………」
リアは胸で両手を握り締め、何かを耐えるように一歩後ろへと下がった。身体を縮こませ、小刻みに震えながら。
その握り締めた両手に雫が落ちる。一つ二つと、俯き震える頬から。
「…………私は……」
小さく囁く声……そこには嗚咽が混じっていた。
「……リア」
「近づかないでっ!」
叫び、顔を上げる。
「…………」
紅耶は黙ってリアを見つめた。歯を食いしばり、涙を流し続けるリアを。
肩を震わせ涙を拭うこともせずに紅耶を睨みつけ、さらにリアは叫んだ。
「私、ママもパパも嫌いになれないもの!」
息を切らせて、リアはなおも何かを叫ぼうと口を開けた。
「私……私っ!」
しゃくりあげ、叫ぼうとするが感情に言葉が追いついてこない。それでも、叫ばずにはいられなかった。
「――分かってる」
「っ!」
紅耶の言葉に、リアは叫びを止めた。
「分かってるよ」
紅耶は静かにリアを見つめる。重く深い一言だけを言って
「…………」
息を飲み、リアも紅耶を見つめた。叫びを止めたのは……紅耶も泣いているように見えたからだ。
涙は流していない。でも、泣いているように見える。
それは悲しみでも同情でもない。分かっている――それは、さっき言ったとおり――。
(私と……一緒だから)
――同じだから。
「私……」
リアはその場に膝をつき、そのまま座りこんだ。溢れ出る涙はそのままに、感情に満たされた身体を震わせたまま。
このまま……このまま紅耶の胸に飛び込めばどんなに楽だろう。きっとそれで救われる。自分の全部を受け止めて助けてくれる。




