―― 詩鳳紅耶 一年前 ―― 5
「まあ、その前に、あなたたちはそもそも悪いことなんてしていないけど。売られた恨みで傷つけた以外は」
少女は一歩一歩ゆっくりと男たちに近づきながら言葉を続ける。その声には緊張も何もない。世間話でもするように自然とこちらの事情を話していく。
その事が更に男たちを混乱させていた。内容は、完全にこちらの状況について話している。だが、状況を知っていて話しかけてくる敵――警察であるようにはどうしても思えない。
「でも、おかしいよね。友達を売るほうが人間的にどうかと思うのに、法律じゃその人間を守って傷つけたほうが犯罪になる。同情はされても犯罪にね。売った人間はお咎めなしで」
男たちの混乱をよそに、少女は五メートルほど間を空けて止まり、そして、
「ね、おかしいと思わない?」
にこりと微笑み、男たちへと同意を求めてきた。
「……なんだ、お前」
意味の分からないことに、気味の悪さと共に警戒を強める。それはそうだろう。近くに来て分かったが、顔立ちも姿も中学生くらいの女の子にしか見えない。そんな少女がこの場にいて、急に今のような話をし始めたら、敵などとは関係なく警戒しないほうがおかしい。
対照的に、少女は自然そのものだった。なんの気負いもなく警戒すらしていない。普通であれば、年端も行かない少女が八人の男に対してたった一人で話しかけるだけでも緊張するものだろうが、そんなことは全くなく少女は男の質問に答えた。
「わたし? わたしは、あなたたちを守りにきたの」
「守りに? ……お前、魔法使いなのか?」
「いいえ」
「っ! じゃあ、『敵』だなっ!」
(それもどうなのよ)
内で呟く。魔法使いじゃない人間は、全員魔法使いの敵なのか。
(……しょうがないけど)
自分で言った内心の言葉に、即座に陰鬱に呟いて認める。社会はそういう風潮になっている。それでも――
「敵じゃない」
本心でそう伝えた。伝わることを祈りながら願いながら、はっきりと言い切る。
「言ったでしょ。わたしは、あなたたちを守りに来たの」
「信じられるか! だったら、なんで俺たちのことを知ってる!!」
当然の疑問だろう。その質問に少女は一拍の間を空けた。
自分の答えの後、男たちはどういう行動に移るだろうか――などと、選択を考える必要もない。二択しかない、逃げるか、対抗するか。
ただ一つ分かることは、今から答える言葉が確実に引き鉄になるということだ。説得できればいいのだが、男たちの精神状態を考えると難しい。何より落ち着かせるだけの時間がない。




