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「…………」
黙ったまま見上げると、紅耶は春の風を気持ちよさそうに受けていた。
このまま逃げ出したい衝動にかられる――そんな時だった。
「おっと、もうこんな時間か」
授業終了のチャイムが鳴る。時間を考えるなら今から昼休みだった。
「わたしたちも、ご飯にしようか」
そういって、微笑む紅耶になにも言えず……。
リアは黙ったまま、歩き始めた紅耶の後ろについていった。
「さーて、今度はどこにいこうか」
昼食が終り、食堂を出てから紅耶は満足そうにんっと背を伸ばした。
「…………」
リアは屋上から黙ったまま、紅耶の少し後ろを歩いていた。紅耶から話しかけられなかったというのもあったが、今はそのほうがよかった。話せる気持ちじゃなかったから。
昼休みの喧騒の中、不自然な静寂だけが自分の周りにあった。喧騒の中にある視線と囁き。疑問に思うまでもなく、答えは分かっている。その視線と囁きは、自分に対してのものだと。
誰かが広めたものではなく、自然に広まったものだろう。もう、ほとんどの生徒がリアの父のことを知っているようだった。それだけの視線と囁きが自分の周りを支配している。
疑問に思うことはなかった。覚悟していたことだったから。
……だが、その決心が揺らいでいることを自覚し、リアはぐっと唇を噛み締めた。我慢ができず、足を止め紅耶の背中に向かって鋭く呟いた。
「……部屋に戻る」
声に紅耶が振り向いた。感情を抑えながら……そうしないと怒鳴りそうなるのを抑えながら、言葉を続けた。
「私と一緒じゃない方がいい……一人にして」
「それは、みんながリアのことを嫌っているから?」
喉が震え、『そうよ!』と叫びそうになるのを飲み込む。
ぐっと拳を握りひたすら我慢する……と、そんな時、紅耶はぽんっとリアの頭を叩いた。
「気にしなくていい。わたしも一緒だから」
「――――」
その言葉に、はっと顔をあげる。
「せっかくだし、もうちょっと付き合ってよ」
そのまま頭に置いた手でぽんぽんと二回ほど叩くと、紅耶は先を歩き始めた。
「…………」
なんと言っていいか分からず……でも、そのまま部屋に帰ることもできないまま、再びリアは紅耶の後について歩き始めた。




