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「やっぱり屋上は気持ちいいねー」
ぽかぽかな陽気に包まれながら、紅耶は気持ちよさそうに目を細めた。それに習って、リアも空を見上げて大きく深呼吸をする。
春の匂いというものがあるかどうかは分からないが、今感じている陽光や暖かい風が春を意識させるとしたら、まさにこの空気が春の匂いというものなのだろう。
そんな春の息吹を胸いっぱいにおさめ、ゆっくりと出していくと紅耶はさっきと同じように唐突にリアに聞いてきた。
「今日、リアが授業を受けなくてもいい理由は分かった?」
「え?」
一瞬、どういうことか分からず聞き返す。そういえば、さっきから唐突な質問ばかりされている気がする。いや、そもそもこうして二人で散歩をしていることをまず最初に疑問に思わなければいけなかったのだが。
「今、授業を受けてもあまり意味がないってこと」
「どういうこと?」
「言ったでしょ。心の成長が一番大事だって」
紅耶は歩きながら、さっきリアにしたように自分の胸をとんっと叩いた。
「授業を受ければ知識は増えるかもしれない。でも、リアのことを考えるなら、今知識だけを与えてもなんの意味がない。それよりかは、散歩したほうがよほどリアのためにはいい」
そこまで言って、紅耶はにこっと笑った。
「と、思ったんだけど」
「…………」
咄嗟にどう答えていいかわからず、リアは黙った。
紅耶のいいたいことはやはり分かるようで分からない。
(……ううん)
心の中で首を振る。紅耶の言いたいことは分かっている。ただ、それを理解するのが……そう、怖いだけだ。
確かに勉強はできる。いや、今リアにできることは授業を真面目に受けることだけだった。
周りを拒絶し拒絶され、ただ時間を消費させるように学園生活を続けるしかない。それに意味があるかといえば、確かに意味がなかった。自分自身が意味を見出そうとしていないのだから。
つまり――
(紅耶は……)
胸が苦しくなり、そこで思考が止めた。
言葉では言い表せない紅耶の気持ちが胸に灯る。だが……それを認めるわけにはいかなかった。
(駄目……駄目)
私のことを本当に……本当に考えてくれる紅耶。分かる、この人なら助けてくれるかもしれない、全部を受け止めてくれるかもしれないと。
でも……でも、それを認めてしまえば、私は全部を投げ出して、紅耶の胸に飛び込んでしまう。
そして、きっと二度と引き返せなくなる。それが怖い。




