―― 詩鳳紅耶 一年前 ―― 4
「はあはあはあ……くそっ!」
男は息を切らせ吐き捨てると、壁に拳を打ちつけた。
「くそ、くそっ! おいっ、魔法を使うなっていっただろうが!!」
「じゃあ、あのまま大人しくしとけばよかったのかよ! ふざけんなっ! 悪いのはアイツだろうがっ!!」
次に立ち止まった男が、同様に息を切らせて怒りの声を上げる。その後も狭い路地に次々と男が集まり、八人の男たちは道を塞ぐように立ち止まった。
横に三人も並べば完全に道を塞いでしまうような狭い路地。八人も集まれば道を塞ぐというよりは詰まるというほうが正しいのかもしれない。何の染みかは分からない湿ったコンクリートの壁、いつ濡れたかも分からずいつ乾くかも分からない所々濡れた道。常に影にあるこの路地には、暗さと冷たさと鼻に付くカビのような匂いが満ちている。
詰まった――やはりそういったほうが正しいのかもしれない。ここに逃げ込んだところで助かる見込みはない。隠れられる場所もない。どうしようもなく、こんなところで立ち止まらなければならなかった。
逃げ道に、そして、自分の人生に詰まった。
「くそっ! なんだっていうんだよ!!」
頭をかき乱し、最初に声を上げた男がもう一度吐き捨てる。今はまだ全員の顔は分かっていないだろうが、それもすぐに把握されるだろう。外は敵だらけになった。逃げても味方はいない。いや、そもそも最初から――魔法使いになった時から、ここには味方はいなかったのかもしれない。
「なんだってこんな……普通に暮らしたかっただけなのにアイツのせいで……」
好きで魔法使いになったわけではないのに、魔法使いというだけで悪人とされてしまう。
「俺たちが悪いのかよ。悪いのはアイツだろうが……俺たちを裏切ってアイツは」
続く男の言葉には誰も応えなかった。同意することも、文句をいうこともない。しかし、応えない理由も分かっている。同じ気持ちを共有しているからこそ、応える気力もなくなっているのだ。だから、誰も口を開くことはない。
――そう思っていた時だった。
「――そうだね、悪いのはあなたたちじゃない」
「っ!!??」
急に聞こえた声に、男たちは緊張で顔を強張らせながら視線を向けた。こんなタイミングで、男の呟きに答えるように発せられた言葉。偶然では絶対にない。となれば、
――敵か。
男たちの頭に、同じ考えが過ぎる。敵ならばすぐに逃げなければならない……もしくは力を使って対抗するか。
だが、そういう選択が思い浮かんでも、男たちはすぐに行動には移せなかった。それは、相手が一人であり、しかも――
「どう考えたって悪いのはその男よ。わたしなら、友達を売るなんて絶対にしない。その友達が悪いことをしててもね。止めはしても、売りはしない」
明らかに自分たちよりも年下に見える少女だからだった。




