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急いで携帯を切ったのだろう、リアの驚いた顔がそう物語っていた。誰と話していたかは分からないが、おそらく水沙や鈴ではないはずだった……水沙や鈴であれば急いで切る必要はないし、そもそもこの二人なら電話やメールなどせずに直接会いに来るだろう。
急いで切ったということは、聞かれたくない話だったのかもしれない……かかってきたのか、それともリアがかけたのかは分からないが。
「遅くなってごめんね、リア」
だが、紅耶は電話のことは触れずに微笑んでから部屋に入ると、電気の明かりを付けてからドアを閉めた。そのまま歩いていき、リアの机の上に夕食の乗ったトレイを置く。
「ご飯まだでしょ。駄目だよ、ちゃんと食べないと」
「ぁ……あの」
「なに?」
優しく聞き返すと、リアはそのまま口をつぐんで俯いてしまった。
もしかしたら、むしろ電話のことを聞いてほしいのかもしれない。こちらから聞かれるのを待っているのかもしれない――一瞬、そんな思いがよぎる。
「……なんでもない」
だが、こちらが答えを出すよりも早くにリアは聞かれる事を拒んだ。
「そう」
紅耶もそれ以上なにかをいう事はなく頷く。
多分、拒んだといっても、聞けば話してくれるだろうということは予想できた。そのほうがいいのかもしれない……リアの心の重りを取り除こうと考えれば。
「……リア」
しかし、紅耶は問いかけることをしなかった。呼びかけて、俯いたままベッドに座っているリアの横に紅耶も座る。
そして、リアの顔に手を伸ばすと、親指で頬をなぞった。
「泣いてたの?」
「…………」
紅耶の言葉にリアはますます俯く。だが、横から見える赤い目と涙の跡は隠しようがなかった。
――さっき電話のことを問いかけなかったのは、リアの瞳を見つめて泣いていたことが分かったから。
悩みの答えを聞くことが大切じゃない。それは、リアが話してくれるときに全部聞いてあげればいい。
今は、泣いているリアに触れてあげることが大切だ――そう思ったから、問いかけなかった。
「…………」
黙ったまま俯いているリアの小さな身体を抱きしめた。リアはなにも言ってこない。泣くことも、拒絶することもない。
――ギュ
だが一つだけ、たった一つだけ、リアの震える小さな手が服を握ってきた。
そのことで初めて分かる。泣くのを我慢しているのだと。
紅耶は抱きしめる腕に力を込めた。
そして、リアが服を握る手を緩めるまで、そのままずっと抱きしめていた。




