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事件というのは、いつも突然起こる。本人が望むと望まざると関係なく、突然に容赦なく環境を変えてしまう。
それは、リアの転入初日から十日後。
「じゃあ、また放課後にね」
「うん」
「それじゃあね、紅耶ちゃん」
いつも通り水沙、鈴、リアと朝食をとった後、紅耶は軽く手を振って別れ、それぞれに教室に歩き出した。
と、同時に、ずっと感じていたこちらを見つめる視線がなくなる。
(――リアを注目してたんだから、当たり前か)
分かっていたことだったが、改めて確認できてしまうと陰鬱な気持ちになってしまう。
リアが転入してから九日、つまり昨日まで。
それまでは何事もなく――そう、文字通り『何事もなく』リアは生活していた。
リアは授業初日から回りに対して拒絶した態度をとり、ほとんど一人でいるようにしていた。もちろん紅耶をはじめ、水沙も鈴も出来る限りリアと一緒にいたが、それでも拒絶しようとするリアの態度が変わることはなかった。
本来ならずっと側にいたい気持ちがあるが、生徒会役員である紅耶も、代表である水沙も鈴も、その役割上ずっと一緒にはいられなかった。魔法使いの問題――魔法を使った様々なトラブルに転入したばかりのリアを巻き込むわけにはいかない。
水沙や鈴以外のクラスメイトも話しかけたり遊びに誘ったりとしていたが、リアの拒絶した態度にだんだんと話しかける生徒が少なくなり……やがて紅耶たちが生徒会や代表の仕事で出ているときは、リアはずっと部屋に篭る様になっていた。
なので、正確にいえば『何事も起こり様がないまま』リアの生活は九日間経っていった。
だが、十日目の今日、何事もなかった日々に変化が現れた。
それは、朝、リアと一緒に寮の部屋を出たときから感じていたことだった。明らかに、昨日とは周りの空気が違う。
(……さて)
教室に向かって歩きながら、紅耶は心で呟いた。戸惑う必要も悩む必要もない。こういうことがいつか起こるかもしれないことは予想していたし、この後どういう風にするのかも考えていた。
――できることなら、こういう事態になってほしくはなかったのだが。
「紅耶」
聴き慣れた声に呼びかけられ、紅耶は顔を向けた。声で分かっていた通り、シリスがこちらに歩いてきていた。
「リアは?」
「水沙と鈴と一緒に授業にいったよ」
「そう。じゃあ、紅耶も教室に行くんでしょ。行きましょ、歩きながら話すから」
『なんの話?』とは聞かなかった。シリスが自分に会いに来た理由も想像はできていた。




