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「あ、あの、答えにくかったらいいよ。内容が分かるんだったら、それで……」
「……学校に行ってなかったから」
「え?」
表情を見つめていなければ聞き逃していただろう……そう思うほど、小さく、本当に小さく呟いたリアの一言。
言いかけた言葉を止めて、水沙が反射的に聞き返そうと口を開きかけたその時、
「みんな席についてー、授業始めるよー」
およそ国語の先生という単語からは想像できないような若い声が教室に響いた。
「あっと……先生が来たね」
疑問を飲み込んで……だが、心のどこかで聞き返さなかったことに少しほっとしながら、水沙は教卓のほうへと顔を向けた。
教卓には、授業を始めるという言葉の通り先生が立っていた。ただし、水沙たちと同じ制服を着た先生が。
「制服?」
水沙の代わりに今度はリアが疑問の声を上げた。表情では分かりにくいが、今の口調はいつものリアの口調に戻っている。
そのことにまたほっとしながら、水沙は口を開いた。
「そうだよ。あ、そうか。リアちゃんは知らなくて当然だよね」
号令にあわせて礼をした後、椅子に座りなおしながら水沙は小声で説明を続けた。ちなみに、クラス委員長は別にいて、代表の水沙が号令をかけることはない。
「幼等部は大学部が、初等部と中等部は高等部と大学部の人たちが先生をやってくれているの。高等部からはちゃんとした先生もいるけど、それでも何人かは大学部の人が入ってるかな。大学部ではさすがに専門の先生ばかりだけどね」
「いま授業してるお姉さんは、高等部の人だよ」
水沙を補佐するように、というよりは単に授業よりも話に混ざりたかっただけかもしれないが、横から鈴も付け加えてくる。
「そうなんだ」
頷くリアに水沙が話を続ける。
「先生で魔法使いになっている人が少ないから、学生を先生にしたって会長が話してた。このほうがいいからって……なにがいいのかは私もよく分からないけど。でも、授業もちゃんとしてるし、先生っていうよりも兄弟みたいな感じで教えてくれるから楽しいよ」
「そう……」
もう一度小さく頷いて、リアは黒板に授業内容を書いている高等部の先生を見つめた。慣れているのか口調にも態度にも戸惑いや緊張は見えない。そして、聞いている生徒たちも静かに授業を受けていた。つまりは、この学園ではこれが日常で自然なことなのだろう。




