―― 詩鳳紅耶 一年前 ―― 2
『――はんちょぉ~~、準備整ったよ~~』
「ありがと。いつも通りお願い」
『りょぉかい~~、安心安全の通常運転で任せて~~』
「よろしく」
緊張感のない声がイヤホンから聞こえ思わず笑いつつ、知らず暗くなっていた心から目の前の任務に切り換えて真紅の布で綺麗な黒髪をポニーテールに結んでいる少女は返事を返した。同じように緊張感のない平常通りの声で。
緊張感がない……意識一つでこちらを殺すこともできる化物を相手にして、今のように気が緩んでいることを上司に感づかれでもしたら後で説教だろう。悪ければ始末書。上司と上層部の機嫌が極度に悪ければ、『また』謹慎になるかもしれない。嫌味と嫌がらせはすでに日常だ――などと、そんなどうでもいいことが浮かぶ。
つまりは、それほど気が緩んでいるということだった。
(同じ人間だからね)
相手は化物ではない。つまり『手に負えない未知の生き物ではない』。魔法犯罪の現場に行く度に考えていることだ。同じ人間だからこそ向き合えるし、だからこそ、自分は勝てる。
むしろ化物というのなら、同じ人間である魔法使いを化物と呼ぶ人間のほうがよほどの――
「――さてと」
思わず愚痴りたくなる気持ちを声を出すことで押さえ、少女はポケットにある腕時計で時間を確認した。
腕時計を付けることはしない。動くのに邪魔だからだ。ちなみに携帯電話も持たない。動いている最中に落して相手に渡れば様々な情報が流れてしまう恐れがある――というのは建前で、単に嫌いだから持ってはいない。
今、話している無線も自前のものだ。自分の班はなかなかに厄介な立場にある。いや、正確にいえば周りが厄介な班だと思っていた。自前の無線を使わなければいけないほどに。
もちろん、作戦における無線は貰っている。だが、その無線から重要な情報がこちらに流れてくることはない。はっきりいえば、うちの班はハブられているのだ。
『自業自得ですよ』
メンバーの一人がいつも言っている言葉が頭に浮かび、少女は苦笑した。違いない――おかげで、最近では現場参加も危うくなっている。『情報を渡さない程度』で終わっているのなら、逆に有り難いと思わなければいけないのかもしれない。かといって、『その程度』で済むのがいつまで続くのかも疑問だったが。
作戦妨害に、独自先行。こちらの意見も通らず、情報も渡さないので仕方がなく――『仕方がなく』といったら、『えぇ~、上に逆らうのは班長の趣味じゃん』とメンバーからは笑われたが――あくまで仕方がなく行った手段だが、謝罪と始末書で済むのがいつまで持つのかも分からない。




