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何故これだけ充実したかというのは、今の魔法使い人口のほとんどが学生ということと、魔法使いであるかぎり魔法都市から離れられないという問題のせいだった。閉鎖的な環境での不満を少しでも減らす為に、制服はともかく、食事についてはなるべく自由を与えようとしたのだ。
その結果、これだけ充実した食堂となった。実際、食事に関しては不満を言う人間はいない。
(感謝しなくちゃね、シリスに)
実をいえば、食堂についてはシリスが生徒会長なってから本格的に動き始めたものだった。その前までは、話すら出ていなかったらしい。単に、元々古城学園の一生徒だったシリスが不満を持っていたというのもあるかもしれないが、ともあれ、それでこうしておいしいご飯が食べられるようになったことはありがたいことだった。
心でシリスに感謝しながら、飲み終わった湯飲みをトレイに置く――と、同時だった。
「あ、ここにいたんだ」
よく通る明るい声が聞こえ、紅耶は視線を向けた。確認するまでもなく、声の主は鈴だ。
「探したよ~、二人とも。部屋にもいないし」
「おはようございます、紅耶ちゃん、リアちゃん」
続けて鈴と並んで歩いてきていた水沙も挨拶してくる。転入してきたばかりのリアのために、二人で部屋に迎えに来てくれたのだろう。
「おはよう、鈴、水沙」
「おはようございます」
テーブルの横まで来た二人にこちらもそれぞれ挨拶を返しながら、紅耶は笑いながら言葉を付け加えた。
「ごめんごめん、ちょっとリアがお寝坊さんでね。ご飯の時間が遅くなっちゃって」
「あはは、そうだったんだ」
「疲れてたんだよ、リアちゃんは昨日来たばかりだし――」
「……ごめんなさい」
リアの小さな呟きに、水沙は途中で言葉を止めた。鈴も驚いたようにリアを見つめている。
だが、それは冗談で言った紅耶の言葉にリアが謝ったことに驚いたのではなかった。リアの口調が、まるでこちらを拒絶するような、そんな言い方だったからだ。
(朝話したときに、少しは仲良くなれたと思ったんだけどな)
紅耶は内心でしょうがないなぁと溜息をつきながらリアを見つめた。俯いて伏し目がちの瞳はなんの感情も表していないようにみえる……だが、紅耶は昨日リアに初めてあってから今までの短い間で、この子がどういう子なのかがだんだんを分かるようになっていた。
(リアは、感情を表すのを我慢してる。なにかを怖がるように)
それが一体どういうことなのか。紅耶は考えを巡らせて――すぐに思考を止めた。
思い当たることはたくさんある。だからといって、
(言い当てたところで、どれほどの意味があるのよ)
そう思った瞬間、紅耶の手は動いていた。




