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「ん、よし」
リアの返事に紅耶は微笑むと、少しおどけながらいった。
「さて、このまま抱っこして洗面所まで行って、着替えも手伝った方がいいのかな、お姫様?」
「え? あ、ご、ごめんなさい。自分でしますっ」
「よろしい」
シリスをゆっくり下ろしてから、紅耶はぽんっと背中を叩いた
「それと、わたしのことは名前で呼んで。あと、家族なんだから敬語もなしでいこうよ」
「はい……ありがとう、紅耶さん」
「紅耶」
言い聞かせるように腰を曲げて見つめてくる紅耶に、リアは驚きながらもその迫力におされこくっと頷いた。
「う、うん……紅耶」
「ん♪ まあ、最初は慣れないかもしれないけど、始めなきゃ永遠に慣れないからね」
曲げた腰を直してにっと笑って、姉のように――紅耶はそう意識して振舞っているわけではないだろうが、まさに姉がいうような言葉とともに、ぽんっと頭を叩いた。
「じゃあ、制服は用意しておくから、顔を洗ってきな。着替えたら髪をといてあげるから」
「…………」
「? どうかした?」
「う、ううんっ」
慌てて首を振って、顔を見られる前にリアは洗面所へとぱたぱたと駆け出す。
頬が熱い……洗面所にはいり、ドアを閉めると、リアはドアによっかかって自覚する。
(私……また泣きそうになってる)
姉のように、と思っていたが違った。姉とは違う。自分に姉がいないから違うと感じたわけではない……いや、それもあるかもしれないが、そうだとしても姉とは違った。
紅耶は姉とは違う……今の言葉は、雰囲気は……。
(ママ……)
言葉使いも姿も全然違うのに、紅耶は母のように見えた。
もう一度溢れそうになる涙を拭って、リアは顔を洗った。
泣きそうになる心が落ち着くまで、何度も何度も顔を洗った。




