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――手が暖かい。優しい優しい温もり。全てを包み込んでくれるような、包み込んで守ってくれるような太陽の暖かさ。
あやすように髪をといてくれる。お昼寝しているときにいつもしてくれる仕草。こうしてくれることが嬉しくて、私は度々寝たふりをしていた。
なんだ……ここに居たんだ。ここに居たんだね、私ずっと待ってたんだよ。
「……ママ……」
私は甘えるように呟いてゆっくりと目を開けた。
うっすらと開けた目から、見慣れない天井が見えた。知らない天井……つまり自分の部屋じゃない天井。
「……ママ?」
まだ意識がはっきりしないまま、ずっと感じる手の温もりにリアは顔を横に向けた。
「目が覚めた?」
優しい声が聞こえ、綺麗な黒髪の女の人がニコッと微笑む。一瞬、いつママは髪が黒くなったんだろうと不思議に思ったが……意識がはっきりするにつれ自分の間違いに気付いていった。
「詩凰……さん」
確認するために名前を呼ぶ。相手と、そして、今の自分のことを確認する為に。どちらが夢で、どちらが現実かを確認するために。
「うん、おはようリア」
紅耶は優しく微笑んだまま挨拶すると、握っていた手に少し力を込め、もう一方の手で頭を撫でてから指で頬をなぞった。
「ごめんね、泣いていたからずっと手を握ってた。起こしたほうがよかったのかもしれないけど、うなされていたわけじゃなかったから」
紅耶に言われて、リアは自分の頬に手を当てた。濡れている……そう、まだ濡れている。
いつからか分からない。でも、ずっと泣いていたことだけは分かった。目を覚ますまでずっと泣いていたのだろう。
「怖い夢でも見た?」
問われて……そこで自分がどう答えたらいいかわからないことに初めて気づく。考えたこともないことだった。いや、自分以外で寝ているときに泣いていることを知られたのはこれが初めてだ。
「……夢」
怖い夢なのだろうか?
胸できゅっと手を握り、自分に問いかける。思い出すということをしなくていいくらい、頭に残っている夢の光景。
怖い夢じゃない……むしろ幸せな夢かもしれない。
だけど、夢が覚めれば幸せはなくなる。幸せがなくなり現実を見せられるのなら、それは怖い夢といってもいいのかもしれない。
でも、それは怖い夢ではない幸せな夢。もう一度みたいと思う夢、ずっと見てみたいと思う夢……その場所に行きたいと思う夢。
「…………」
リアは握った手に力を込めた。だけど……ずっと見ていたいと思う夢は、きっとそれは怖い夢。それは、現実を無くすものだから。




