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「…………」
リアに緊張はない。いや、それ以前にその顔には嬉しさも悲しさも表すことなく、ただ無表情に井田を見送っていた。そういえば、ここに来てから表情らしい表情を見せていなかったかもしれない。
だからといって、どういう表情をしたら一番いいかといわれれば、確かに無表情が一番相応しいかもしれなかった。笑うことも、怒ることも、泣くことも、今の状況には合わないような気がした。
(もしかしたら、この子は自分のことを分かっているのかもしれない)
リアを見つめながら、シリスは胸中で呟いた。
それこそ『家庭の教育』の賜物かどうかは分からないが、九歳という幼さでこの子はきちんと自分の状況を把握しているように見える。つまり、自分は父親が嫌っていた魔法使いとなり、魔法都市に住むことになったという現実に。
聡い子なのだろう……それがいいことかどうかは分からなかったが。
泣きじゃくられるよりはいい、泣き止むのを待たずに話ができるだけ――そう自分に納得させて、シリスはリアへ話しかけた。
「さて、改めて」
声に反応して、リアがシリスを見つめてくる。にっこり微笑んでから、シリスは接客の対応から普段の調子に戻して言葉を続けた。
「ようこそリア。さっきも挨拶したけど、わたしが生徒会長のシリス・フィル・レイティーナよ。リアのことは呼び捨てで呼ぶから、わたしも呼び捨てでいいわ。後、ファーストネームで呼んで。敬語もなしで構わない。まあ、敬語のほうがいいというのならそれでもいいけど」
そこまで一気に言ってから、手を差し出す。
リアはシリスの変化に少し驚きつつも、少しの間を置いて差し出された手に自分の手を重ねた。
「わたしたちはあなたを歓迎する。困ったことがあったらなんでも言って。ここの学園の生徒である限り、わたしはなにがあってもリアの味方よ。ここの学園の生徒じゃなければ助けないかといわれれば、そうね、これから仲良くなれるかどうかにかかってるかな」
きゅと手を握って、シリスはウインクした。
「今は戸惑っているかもしれないけど、楽しくやっていきましょう。これから、よろしくね」
リアはそんなシリスの顔を見つめ、
「……はい、よろしくお願いします」
また少しだけ間を空けた後、小さく、だが、はっきりと挨拶した。




