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(……他の子と同じように、そうであればいいけど)
あまり深くは考えたくないがつい心でそう付け足し、付き添いで来ている井田という男に紅耶は目を向けた。入って来たときから分かっていたことだが、改めて確認するまでもなくこの井田という男性はリアの父親ではない。
(来れるはずがないか……いや、来たくなかったかな)
リアの父親、蒼瀬源二は有名な科学者であり、そして、強固な反魔法の推進者だった。発言や行動を見ても、魔法を嫌悪しているといっていい。
そして、それは反射するように魔法使いたちも蒼瀬源二を嫌悪するようになった。それはそうだろう、魔法使いは好きで魔法使いになったわけではない。それを批判されれば、恨みに思わないほうが不思議だった。
そんな状態なので父親といえど魔法都市に来れるはずがないし、来たくはないのも頷ける。
(だけど)
と紅耶は付け加えた。
(それでも、娘と一緒にくるのが本当の父親なんじゃないの)
娘が魔法使いとなり、今まで嫌悪してきた対象となったとしても、だからこそ子供の気持ちを理解しここに着いてくるのが本当の親じゃないのか――
「蒼瀬さんは、彼女、詩鳳紅耶と一緒の部屋に住んでもらいます」
急に自分の名前を呼ばれて、紅耶は思考を止めてシリスに目を向けた。転入に際しての事務的な説明をあらかた終えて、シリスが最後に言ったのが今の言葉だった。
「いいわね、紅耶」
「わかりました」
こちらに分かるだけの意地悪な笑みを一瞬だけ見せて聞いてくるシリスに、紅耶は苦笑して頷いた。今初めて聞いた話だったが、自分を呼んだ理由が思い当たってすぐに納得する。
「少し待ってください。リアは一人部屋にしてくれとお願いしたはずですが」
慌てて井田が言ってきたのを、シリスはにこやかに笑ってから紅耶に手を向けて説明を始めた。
「彼女は研修生です。蒼瀬さんのことも考えた上で、一人で生活するよりは彼女のルームメイトとして生活したほうがいいかと思ったのですが、どうですか?」
井田がこちらに視線を向けてきた。驚いた視線ではない、なにかを探るような視線。それはそうだろう、まさか知らないということはないはずだった。
リアの家庭環境を考えれば、シリスのことだけではなく研修生のことも当然父親が調べているだろう。シリスも表には出していないが、それを踏まえた上で紅耶のルームメイトにすると言ったに違いない。
リアは反魔法を推進する科学者の娘として育てられていた。それが急に自分が魔法使いとなって、今まで父親が否定してきた魔法使いとしての生活をすることになったのだ。価値観が正反対の場所に来たといっていい。その気持ちは、複雑の一言では片付けられないものだろう。
だからこそ、魔法使いではなく政府からの研修生としてきている紅耶と一緒にいさせるのは一番いい方法だといえた。これからの生活を考えても、一人でいるよりは安心できるはずだった。




