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(……街で暴れていた三十人の魔法使いを、紅耶ちゃんが一人で全員気絶させたって聞いた時はさすがに私も驚いたけど)
水沙は少し前の光景を思い出していた。魔法を使い喧嘩していた六人の高等部の生徒を紅耶は瞬く間に倒してしまった。
(『魔法使いも人間なら、怖いことはない』っていうけど、それでもやっぱりすごい)
尊敬の目を向ける。紅耶にとって魔法の力というものは特別なものではなかった。特別なものじゃないことを証明してくれた。
そんな紅耶が水沙は大好きだった。研修生として正しい態度かどうかは分からないし、確かに周りの魔法使いたちは紅耶に対してますます嫌悪の目を向けたが、水沙にとっては魔法使いという壁を壊してくれたような気がして大好きになった。
ともあれ、こうして紅耶の名は知れ渡ったが、同時にそれは普通の研修生ではないことの証明にもなってしまった。
もちろんのことながら紅耶に関する様々な憶測が流れた。某国で専門の訓練を受けた戦闘のスペシャリストだとか、政府から密命を受けた暗殺者だとか、実は魔法使いとか。中には、人間じゃなく最新型のアンドロイドとかロボットなどというものまであった。さすがに、宇宙人とまではいわれなかったが。
ただ、その全ての憶測が意味するところは一つだけだった。つまりは怪しい人間であり……危険な人物であると。
しかし、真相はともあれ、そんな様々な憶測が流れてもシリスは何も言わずに紅耶を生徒会に置いた。逆に生徒会役員として、仕事をよくやらせるようになった(「化物同士なので気が合った」という話もでたが、それはともあれ)。
仕事をやらせるようになった理由は単純だった。魔法使い同士が争う場合、人的、物的被害が大きいのだ。
生徒会や代表の人間でさえ、魔法で攻撃してくる相手に対しては時として相手以上の魔法を使うしかない場合もあった。しかも、相手を傷つけないようにするには、広範囲の強力な魔法を使って戦意をなくさせるというやり方をしなければいけない時もある。
そうなると、どうしても物的被害が出た。いくら魔法都市は政府が管理しているとはいえ、あまりに壊されると役所がいい顔をしないのも当然だろう。
なので、そういった被害を出さない紅耶は魔法使いの騒動によく回されるようになっていった。だが、そのことがまた新たな憶測と噂を呼び、一部の魔法使いたちの警戒と恨みを増していることも確かだった。




