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「ということで」
紅耶は、思考を止めてふっと息を吐くと目の前に倒れている六人の男子生徒に向かってビシッと言い放った。
「あんたたちみたいなのがしっかりしてもらわなきゃいけないのに、わかってる?」
「ぅ……うう……」
問われた男子生徒は呻き声を上げて答えた。いや、実際は呻き声を上げ続けているだけで紅耶の言葉など聞いてはいなかったかもしれないが。
「まったく、喧嘩したらこうなるってわかってても止めないんだから」
「ごめんね、紅耶ちゃん」
申し訳なさそうにしながら、綺麗な長い黒髪を揺らし小柄な少女が近づいてきた。
「水沙が謝ることじゃないよ。悪いのはこいつらだし」
「でも、私が止めてれば……」
「口で止めても聞かなかったんでしょ? だったら気にすることないよ」
「それでも、紅耶ちゃんばかりにお願いするのも悪いよ」
水沙と呼ばれた少女――古城学園初等部代表、霜月水沙は可愛い顔を曇らせて紅耶を見つめてきた。いつも優しい笑顔でしっかり者の水沙がこういった表情を見せてくれるのも珍しいことだったが、それだけ紅耶と親しいともいえる。
「いいってば、わたしも好きでやってるし。それに、わたしがするのが一番いいでしょ。役所に嫌な顔されずにすむしね」
水沙を安心させるように手をひらひらさせながら冗談めかしていってから、紅耶はにこっと笑って言葉を付け加えた。
「それに、これが生徒会の仕事だからね」
「……うん、そうだね。ありがとう、紅耶ちゃん」
笑顔がもどった水沙に紅耶ももう一度笑顔を返してから、廊下に倒れている男子生徒の一人に近づいた。
「んじゃまあ、生徒指導室に連れていきますか」
古城学園は普通の学園とは違う――というのは世間が認識していることだったし、そこで生活している学園生たちも自覚していることだろう。
幼等部から大学院までの全ての教育課程が揃っているということだけでも珍しいことだったが、魔法都市で唯一の教育機関であり、この国で唯一の魔法学園となれば、普通と違っていて当然ともいえた。
だが、その中でも一番変わっているのは、生徒会の存在だった。とはいっても、生徒会に関しては生徒会長であるシリスが変えようとしたわけではなく、自然と今の形に納まったというほうがよかった。
十年前、魔法都市の完成とともに魔法使いと認定された人間はすべて強制的に集められた。もちろん、そうするには万全の準備と体勢を整えていたはずだったのだが、何事もなく順調に進むと思われた魔法都市の運営は力を持った一部の魔法使いたちの暴走によって脆くも破壊された。
そんな混乱の中、政府から目をつけられたのが、当時、古城学園の一生徒だったシリスだった。
シリスはその天才的な魔法の才と力で混乱を起こしていた魔法使いたちを圧倒し瞬く間に治め、そして、魔法都市の中心人物へと『仕立て上げられた』。その後、シリスの立場にともなってシリスの父でありレイティーナ財閥の会長であるフォロス・レイティーナが古城学園の学園長へと就任する。
そうして、シリスは生徒会長となったのだが、シリスの場合は魔法都市の中心人物だから生徒会長にならざるを得なかったというほうが正しい。そんなシリスが中心となっている生徒会となれば、周りから特別に見られても仕方がないことだったかもしれない。
だが、現実には魔法都市と古城学園の性質上、シリスがもし生徒会長になっていなくとも自然と特別な生徒会となっていただろう。
「ま、しょうがないよね」
六人の生徒を生徒指導室に連れていった後、紅耶は頭の後ろで手を組みながらなんとはなしに呟いた。
「しょうがない?」
横に並んで歩きながら聞いてきた水沙に紅耶は顔を向けると、組んでいた手を放してポンポンと頭を撫でた。
「水沙みたいにみんなが優しくて強ければいいんだけど、さっきみたいな暴れる生徒がいる以上、今はまだ生徒会や代表の力は必要だってこと」
「そんな、私なんてまだまだだよ。でも……そうだね」
生徒会ほどではないが、部の代表の一人としての力と立場を考えて水沙は視線を落とした。
「ほら、そんな暗い顔しないの。権力をかさに合法的に悪い生徒をこづきまわせるって思えば、そうそう悪いことじゃないでしょ」
「もう、紅耶ちゃんたら」
紅耶にしても、水沙を暗い顔にはさせたくない。本来、優しすぎるこの少女に代表などという面倒くさいことなどさせたくはなかった。
だが、それでも水沙の力は絶対に必要だ……今はまだ。
(しょうがないよね)
水沙の頭を撫でながら、紅耶は心の中でもう一度呟いた。




