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「…………」
受け取り転入生の資料に視線を落とす。
普通なら生徒会に入っているとはいえ軽々しく見ていいものではなかったが、逆にいえば紅耶とシリスはこういう関係だといえる。
「蒼瀬リア、九歳。日本人の父とイギリス人の母のハーフ。写真を見てわかるように、わたしと同じ金糸の髪の可愛い子よ」
「それは金糸の髪だけじゃなく、『可愛い』も含めて同じ?」
「当然」
「ちょいちょい入れてくるよね、そういうの」
そんなやり取りをしながら紅耶は資料に目を通していく。
とはいっても、別に極秘資料というわけではない。簡単なプロフィールが書いてあるだけなので、すぐに読み終わった。
「なるほどね。蒼瀬ってどこかで聞いたことあるなって思っていたけど」
「そう、父親は有名な科学者よ。まあ、わたしたちにとっては、科学者というより反魔法の推進者として有名だけどね」
「その娘が魔法の力に目覚めた、か。しかも母親は三年前に病死している」
資料を机に置いて、紅耶はふっと息を吐いた。溜息はつきたくないが、また様々なことが頭に浮かび一息つかずにはおけなかったのだ。
「たしかにこれは複雑かもね」
「まあ、複雑だと勝手に思っているのは大人たちだけでしょうけど。こっちもそんなのに付き合わなきゃいけないから、結局複雑になってしまう」
「あ~……でも、大きな問題はないんじゃない。ちょっと周りが騒ぐかもしれないけどさ」
「大きな問題はないと思いたいだけじゃないの」
「まあね……問題がないことにこしたことはないよ」
「人間は性善だと思う?」
にこっと微笑んで、シリスはもう一度紅耶に最初と同じ質問を問いかけた。
「そう信じてる。ハッピーエンドにするためにも」
そう信じたい。どんな現実が待っていたとしても。
「そうじゃなきゃ、生きている意味がないでしょ」
「そうね」
シリスは静かに頷くと、最初に書いた三行の後にもう一つ書き足した。
挫折や絶望の時に何を選択し、どういう道を選ぶか。それによって人生は決まる。
それは、自分の中の希望を信じられるかどうかだ。
「頑張らないとね、紅耶。ハッピーエンドにするためにも」
「……自分から言っといてなんだけど、ハッピーエンドって使うの恥ずかしい気がしてきた」
「なにいってるの。良い言葉じゃない」
「それはそうなんだけどね」
「じゃあ、他になんて言い方があるの?」
こちらが照れて苦笑していることを分かって多少の意地悪を含んで聞いてくるシリスに、紅耶は閉じた本に目を落とすと少し考えてから口を開いた。
「子供の笑顔を守るため、かな」
「ふふ、あなたらしいわ」
視線を上げ、はっきり答える紅耶。その瞳を見つめて、シリスはくすっと微笑んだ。
詩凰紅耶、十六歳。古城学園高等部二年。
綺麗な黒髪を真紅の布でポニーテールにした少女で、生徒会の一員。
そして、この魔法使いしか住むことができない都市で唯一魔法の使えない人間であり、そして、魔法使いとの共生へと転入してきた研修生だった。




