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「そろそろ来る頃だと思ってた」
「…………」
紅耶の再会の言葉に、姉である詩鳳翠は苦笑もできず、隠さずに溜息をついて妹へと視線を向けた。
姉妹の再会は一ヶ月後。普通なら早く再会できたことは喜ばしいことなのだろうが、紅耶にとっては喜ぶべきものでもなく、しかも、早いか遅いかも微妙だった。つまりは、予想通りともいえる。当たってほしくはなかったのだけれど。
「再三通達された帰還命令を、全て断ったそうね」
「うん」
素直に頷く妹に翠は頭を抱えつつ、叱るように言葉を続けた。
「最後には、『戻したかったら、力ずくでやってみろ』って?」
「うん。まあ、あんまりしつこかったから」
「しつこかったって……」
「そっちのほうが話が早いでしょ」
「そういう問題じゃないでしょ。分かってるの? いえ、違う」
正確じゃないことに気付き、翠はすぐに言い直した。
分かっててやっていることは、『もう分かっている』。
「……本気なの」
「今更だよ」
静かに呟いた翠の言葉に、紅耶は申し訳ない気持ちになりつつも笑って続けた。
「あっちだって『もう分かっている』のに、それでも帰還命令なんて出すなんて」
「紅耶。『特魔』だけじゃないわ。政府を敵に回すことにもなりかねない」
「…………」
翠の言葉に、紅耶は少しだけ黙った。迷ったわけではない。もう決めていることだから。
何度となく何十通りと考えてきたことだった。どういうことになるのか、これからどういう動きになっていくのか。
例えば、自分が命令通りに帰還するとする。
特魔に戻った後は……厳罰だけならいいだろうが、蒼瀬源二の事件を考えるならおそらく特魔から外され、普通の一学生に戻されるだろう。
そして、その後、新たな研修生がシリスの元に来る。管理と暗殺を命令された研修生が。
自慢にも何にもならないが、自分以外の人間にシリスがどうにかできるとは思わない。だが、リアや生徒会のみんな、代表のみんなに危害が及ばないとも限らない。
では、反対に命令に逆らって帰還しなかったらどうなるか?
翠の言う通り、完全に特魔を、政府を敵に回すことになる。
自分に対して強硬な手段を取ってくるだろうし、魔法都市の立場も悪くなるだろう。紅耶にしても、自分のためにシリスや魔法都市に住む全ての人を危険に晒したくはなかった。




