―― シリス・フィル・レイティーナ 一年前 ―― 2
(仲良くなれたら嬉しいんだけど)
心からそう思う。魔法使いしかいないこの都市に魔法使いではない人間がたった一人で来るのだ。それがどういう意味を持つか。
もちろん、政府が『只の人間』を送ってくるはずがないことは分かっている。何かしらの思惑があることは当然だ。そして、それをこちらが察することぐらいは織り込み済みのはず――と思いたい。
自分で『見下されている』とはあまり考えたくない。が、もし見下し油断していたとしたら、まあ、大いに後悔させてやろうとは思っている。
(それもこれも、研修生によるけれど)
優秀な人間が来れば、こちらを見下していない証拠となる。そして、優秀な人間が来るのであれば、こちらとしても願ったり叶ったりだった。
政府とのパイプになってくれれば、という期待もある。魔法使いと、魔法を使えない人間との何かの一歩になればいい。
(何かの変化に繋がればいい。前に進むために)
こちらへと歩いてきた女性から封筒を受け取り、中身を出す。
「へえ――」
その一枚目、張ってある研修生の写真を見た瞬間、少女に自然と笑みがこぼれた。
賭け事をしていたわけではないが、「勝った」と反射的に思った。慧眼があるとは思っていないが、自分の直感は信じている。
政府は、こちらを見下してはいなかった。脅威を感じ、恐れている。
だからこそ、それに対抗できるだけの――自分と同等に渡り合えるだけの研修生を送ってきた。優秀で強い、おそらくは誰にも負けない人間を。
「――楽しみね」
微笑んだまま、無意識にそうこぼれていた。
「楽しみ?」
「そうよ。楽しみじゃない、新しい仲間が増えるのって。この子とは仲良くやれそうよ」
多分、わたしと同じだから――その言葉は言わず、資料を机に置いた。読む必要はない。写真だけで十分だった。
写真に写っている綺麗な黒髪を真紅の布でポニーテールにした少女――研修生、詩鳳紅耶。
化物の女王、魔法使いの頂点にいるシリス・フィル・レイティーナは笑う。
自分が居るこの『世界』を壊す――その目的に、また一歩近づいたことを確信して。




