第零章 いつかの始まりの物語 1
「――正念場よ。ここで、魔法都市がなくなるのかどうかが決まる」
生徒会室に集まった生徒会役員、生徒代表の前でシリスは静かに言った。
「各場所に役員を配置する。でも、相手が来ても無理はしないこと。守りに徹して時間を稼いで。役員の一番の使命は避難と安全の指揮。これを絶対忘れないで。くれぐれも戦おうなんて考えないこと。そして、戦いをさせないこと。これは命令よ。絶対守って」
いつもなら生徒たちを信じて一言で済ませるシリスだが、今回は言葉を重ねた。それはシリスの気持ちの表れでもあった。
信じているからこそ、大切だからこそ、言葉を重ねた。絶対に失敗を起こさせないために。
――戦おうなんて考えさせないために。
「相手の狙いは私よ。わたしがいる限りテロはできないと知ってる。だから、わたしを本気で潰そうと来るはず。手段を選ばず、ね」
机に両手を置き、広げた地図を見つめる。
「本当なら学園から離れて対応したいところだけど、それだと逆に学生が危なくなる。だから、ここで対応する」
もう一人自分がいれば――と思わず考えてしまう。だが、それは危険な想像だった。ありえないことを想像するのは、現実の逃避と一緒だ。そんな考えを起こしてしまったら必ず負ける。
だから……と、シリスは皆に見えないようにぐっと奥歯を噛む。だが、次の言葉を言わなければ……言わなければ、ここに集まった皆は納得しないだろう。
だから……
「対応するのはわたしと……紅耶」
「うん」
紅耶は短く返事を返した。驚くことではない、それは最初から決めていたことだ。汚れ仕事はわたしたち二人の仕事だと。
もちろん、『汚れ仕事』にするつもりはない。が、覚悟を決めて置かなければ、迷いがでる。一番大事なところでの躊躇は、自分たちだけではなく周りも破滅させる。それはぎりぎりの選択だ。
だからこそ、汚れ仕事にしない信念と、信念を捨てる覚悟を決める。万人を助ける為に一人を殺す。間違っていると分かっていても、それを行う覚悟を。
「リア」
紅耶と一瞬目を合わせ……それだけで全てを確認し、シリスは自分と同じ金糸の髪をした幼い少女へと顔を向けた。
「…………」
幼い少女は、強く真っ直ぐな、だけれど、その奥に泣きそうな色を宿らせた瞳でシリスと紅耶を見つめていた。
ごめんね――と心の中で謝る。言葉に出さなかったのは、言葉にしてしまえばこの子は泣いてしまうと知っていたからだった。出会った頃より、誰よりも心が強くなった、強くならせてしまった少女。だからこそ泣くだろう――泣くのを我慢しながら涙を流すだろう。
「任せたよ、『生徒会長』」
「……うん」
リアは頷いた。強い瞳に惑いも迷いもない。その姿に、シリスは微笑む。
「さて――わたしの話はこれで終わり」
シリスは一度だけ瞳を閉じると、顔を上げた。伝えることは全て伝えた。後は、自分と紅耶の問題だった。
「さあ、いきましょう」
告げ、シリスは歩き出す。
――その横に紅耶が並ぶ。
二人は部屋を出た。たった二人で、二人だけで歩いていく。
シリスはそのことに安心もし――だけれど、今回は悲しかった。




