⑤王子の元婚約者、聖女が招く『魔女が行ってはいけない門の先』(後編)
③の時間軸の続き、孤児院でのツァミーナとエリオット、孤児たちや、おまけのセレスティアとのやり取りになります~(*‘ω‘ *)ノシ
【――子どもの笑い声が響く孤児院の中庭――】
――またまた”聖女”セレスティアが、”魔女(師匠)”ツァミーナと”王子(弟子)”エリオットの”良い雰囲気”に気付かず・・
「・・やっぱり来ていただいてよかった。あの子たちに、希望をくれてありがとうございます。」
セレスティアが小さく涙を拭いながら、ツァミーナとエリオットを見つめて言ってしまったのです。
常にクールなエリオットですが、この時ばかりは・・
「・・セレス・・オマエは・・」
ゴゴゴゴゴッ・・・
と、の背後に巨大な氷山がそびえ立ちそうなオーラを放ち、
セレスティアがソレに気付いて、「ひぃぃぃ~!?」と悲鳴を上げる――その前に。
「ねぇ、ねぇ、魔女様!」
ひとりの小さな女の子が、ツァミーナの艶やかな紫髪をじっと見上げて立っていた。
―いつものツァミーナであれば「気安く話しかけないで、私は見世物ではないわ」と言うはずだった―
「魔女様の髪、とっても綺麗・・!光ってるみたい!」
魔女に話しかけてきたのは、肩まで届く栗色の髪に、明るい茶色の瞳を持つ少女。
ごく平凡な容貌の、どこにでもいる女の子。
しかし、少女の瞳に映る純粋な憧憬と言葉が、ツァミーナの胸を鋭く抉った。
薄紫のこの髪は、呪いのように背負わされた孤独の象徴。
「うん?どうしたの?、リリナちゃん?」
セレスティアがに優しく声をかける。
女の子の手には、庶民がよく使う粗い紙と黒いチョークが握られている。
「・・リリナ、大きくなったらこんな髪になりたいな・・」
紙にはまだ描きかけの絵。
丸みを帯びた髪の線、光を浴びて揺れる黒い線が少女の心を映す。
声は小さかったが、言葉の奥には純粋な希望が宿っていた。
ツァミーナはまぶたを伏せ、一瞬だけ息を止めた。
(・・ツァミーナ様?・・)
エリオットは微かなツァミーナの変化に気付き、セレスティアへの怒りを収めた。
いつものように静かに彼女の様子を伺う。
「王子様!剣、すごかった!僕もあんなふうに戦えるようになりたい!」
その少女の隣で、黒髪の男の子がエリオットに向けて、勢いよく声を上げる。
「・・強くなりたいなら、ひとつひとつ積み重ねることだ・・剣は見栄えよりも地道な基礎の方がはるかに重いんだ。」
エリオットは無表情のまま、わずかに口調をやわらげる。
「うんうん、そうですよ、カイル君?・・最初から強い人なんていないんですから~」
セレスティアもエリオットの言葉に頷きながら、少年の頭を優しく撫でる。
「カイルはいつも楽しようとする・・リリナは絵を上手に描きたいから、いつも練習してるのに・・」
栗色の少女がジト目をして、黒髪の少年をひじでつつく。
「わぁー!?、ばかっ!、幼なじみだからって、バラさなくていいだろううが!?・・ったく・・やっぱり、努力しないとダメか・・」
少女と少年の気慣れたやり取り。
カイルと呼ばれた少年はむっとした顔をしながらも、エリオットの言葉を真剣に胸に刻み込んでいるようだった。
(幼馴染だろうか?・・魔獣のせいで村を襲われ、両親を失った孤児たち・・)
ふたりの目には、恐怖や絶望だけではなく――今まさに生まれつつある、小さな希望の色が宿っていた。
その横顔を見て、ツァミーナの瞳はほんの一瞬、遠い過去を映して揺らぐ。
世界にもう、同じ色を持つ者はいない。
しかし、そこにはかつて自分が見失いかけた『守るべきもの』の姿があった。
「・・私の髪を綺麗と言ったわね、リリナ?・・だけれども、自分の髪を愛せることのほうが、ずっと大切よ。」
そう言いながら、ツァミーナは自らの長い紫髪を静かに一本抜き取った。
指先に絡むその細い糸は、薄紫の光を帯びながら、魔女の囁きと共に淡く変化していく。
「――これは、あなたの夢を描くためのもの。大切に使いなさい。」
次の瞬間、すうっと細い棒へと形を変えた。
彼女の指先に残ったのは、柔らかくも確かな輝きを宿した紫色のチョークだった。
「・・えっ、魔女様・・?・・いいんですか・・?」
ツァミーナはそれを少女の小さな手に握らせる。
「わぁぁ・・!」
少女の掌に置かれた瞬間、彼女の瞳は喜びで輝いた。
「・・けれど、忘れないで。大切なのは髪の色じゃない・・他人の色を真似ることじゃない。」
この薄紫の髪は、彼女がただひとり生き残った証。
滅んだ故国の色。
「――貴女だけの色を、見つけなさい。」
凛として気高い、それを背負う覚悟を決めた者の言葉。
少女は力強く頷き、チョークを胸に抱いた。
「ありがとう、魔女様!・・これでいっぱい絵を描きます!」
その屈託のない声に、周囲の空気が一瞬やわらいだ。
「・・誰かと比べる必要なんて、最初から無いのだから・・」
ツァミーナは、すぐに平静を装い、静かな声音で返す。
エリオットは無言でそのやり取りを見つめ、口元に小さく笑みを浮かべる。
セレスティアは「す、すごい・・」と感嘆の息を漏らしながらも――
(あ、これ絶対にあとで自分も欲しいって言っちゃ駄目なやつだわ)と本能で察していた。
恐ろしいと思っていた魔女の優しい一面、
「わたしはお花屋さん! 綺麗なお花をいっぱい育ててみせるの!」
それを目の当たりにした別の少女が夢を語りはじめた。
「――枯れない花はない。それに余裕のない人間は、花など買わない。」
しかし、無邪気な笑顔で語った少女に、ツァミーナの紫の瞳が静かに向けられる。
「食べることで精一杯になってしまうから。」
先ほどまでとは違う声音に、少女の口元がしゅんと沈む。
「・・花にも色々な種類がある・・温かい所で咲く花もあれば、冷たい所で咲く花もある。」
だが次の瞬間、エリオットの声が柔らかく響いた。
「・・花を育てる知識や技術は、食糧となる野菜や果物を育てることにも役に立つはずだよ。・・花を育てようとする心があるなら、それはきっと誰かを支える力になる。」
少女は目を瞬かせ、ゆっくりと笑みを取り戻す。
「じゃあ、わたし・・きっとみんなを支えるお花屋さんになる!」
場が少し和らいだところで、別の少年が手を挙げる。
「ぼ、ぼくは・・魔獣を倒す騎士になる!」
胸を張るその姿は、小さな騎士そのものだ。
「――騎士とは代々騎士の家系か、裕福な家の生まれしかなれない。」
静かにフードを被ったツァミーナは、吐息をもらし、低く告げる。
「夢を口にするのは自由だけれど、現実は残酷よ。」
フードの奥から届く彼女の言葉は重く、少年の瞳に一抹の影が差す。
「お言葉ですが師匠。・・確かに昔はそうだった・・けれど、今は制度が改革され、能力重視の方針になった。」
だがすかさずエリオットが口を開いた。
「平民であっても、志と力さえあれば騎士に任命される例もある。」
「ほ、本当に・・?」
少年の声が震える。
エリオットは力強く頷いた。
「夢を掴む道は、閉ざされてはいない。歩き続けるかどうかは――君次第だ。」
少年の瞳が再び輝きを取り戻す。
「ぼくは・・みんなを守る魔術師になる!」
そして三人目の小さな少年が前に出る。
声には精一杯の決意が宿っていた。
だが、フードから覗くツァミーナの視線は冷ややかだ。
「――魔術が万能などと思い上がらないことね・・」
表情は隠れて見えず・・底冷えするほどの声音を伴う。
「理想と現実の差は嫌というほど突きつけられる。
そしてそのたびに、”絶望”を思い知るでしょう。」
魔女の言葉は鋭く、少年の唇が震える。
「・・魔術の根源がどこから来るのか、知っているかい?・・それは”想いの強さ”だ。・・僕の剣も何度も鎚で打たれて強靭に、鋭く鍛えられていった。」
だが、エリオットの声がその心をそっと掬い上げた。
「同じように、想いも絶望と希望に打たれることで、強くなるはずだ。」
少年ははっと目を見開き、問いかける。
「じゃあ・・ぼくも絶望や苦しいことを乗り越えて・・本当に魔術師になれる?」
「それを決めるのは――君自身だ。」
エリオットは穏やかにそう答え、僅かに口元を緩めた。
三人の子どもたちの顔に、確かな光が宿る。
それを見た孤児院の仲間たちも、口々に未来の夢を語りはじめた。
「商人になる!」「大工になる!」「世界を旅してみたい!」
その声は力強く澄みきっていており、孤児院に蔓延していた重苦しさが、ようやく温かな光に変わった瞬間だった。
「あらら、まあまあ、みんなったら!・・うふふふっ」
その無邪気な声の群れを、セレスティアが笑顔で見守っている。
エリオットもまた子どもたちに笑顔を向けていた。
やがて子どもたちが大きくなり、孤児院を巣立ってゆく未来を思い浮かべながら。
「人の人生など、幻の魔術と変わらない・・後には何も残らない。」
しかし、紫の髪がフードの隙間から揺れる魔女は、ぽつりと声を落とした。
黄昏の眩しい陽光が、強い影を作るような。
えも言われぬもの悲しさのような雰囲気をエリオットは感じ取った。
「師匠・・何かありましたか・・?・・」
明らかに、普段と違う様子のツァミーナに弟子が尋ねる。
――エリオットは心の奥でひとつの影を抱く。
(もしや、あの時の”夢見”に関係があるのか?・・師匠もいつか、僕に”独り立ちを求めて”去れと言うという夢だったのか?・・)
「・・・・・・・・・・・・」
それに対する師からの返答はなく、子どもたちの笑い声の裏で、ふたりだけの沈黙が流れていた。
「ツァミーナ様、エリオット様、おふたりとも・・本当に、ありがとうございました!」
”聖女”セレスティアが、再び笑顔で深く頭を下げる。
「もうしばらくすれば、教会から正式な人員が派遣されることになっていますから・・もう大丈夫です!」
太陽のような笑顔を浮かべ、貴族令嬢とは思えぬ”拳を握って親指を上に向けるサイン”を向ける。
慈愛の神”マナーパ”に選ばれた聖女――己を顧みぬ型破りな行動と、人を慈しむ精神こそが”神に愛されし少女”――セレスティアだった。
「知らない人が来るのかぁ・・大丈夫かな~」
「このまま魔女様と王子様がいてくれたらなぁ~」
大きな不安などはない・・無邪気な声が中庭に響き渡った。
――それは、ただの言葉――
「そうだ!・・聖女様と王子様、結婚したら?」
――無邪気に、ただ幸せを願う言葉――
すると周りの子どもたちも一斉に声を合わせ、嬉々として賛同し始める。
「いいね!」「おとぎ話みたい!」「すっごく似合う!」
無垢な笑い声が波のように広がり、場はひととき夢物語の祝宴のようになった。
――それは、ただ一人の絶望を招く言葉――
「ちょっ、ちょっと待って!そ、それは違うのよ!私なんて――」
セレスティアは顔を真っ赤に染め、慌てふためく。
否定の言葉を口にしようとするが、子どもたちの歓声にかき消され、うまく声にならない。
エリオットもまた、その様子に大きく眉を寄せた。
(誤解をされてはならない――師匠への想いを踏みにじることはできない!)
胸に熱いものがこみ上げ、強く否定の言葉を放とうと唇を開いた、その時――
「――もうたくさんだわ!」
鋭い声が空気を切り裂いた。
「騒がし過ぎて頭痛がしてきたわ。やはり教会は魔女の私にとって招かれざる門ということね!」
中庭に響いたのは、ツァミーナの冷たい声。
紫のローブを大きくはためかせ、孤児院の子どもたちとセレスティアの前から背を向ける。
「私の仕事は終わったのだから、もう帰らせてもらうわ!」
その気配は、周囲の子どもたちが言葉を失い、セレスティアでさえ口を閉ざす。
「し、師匠!?」
エリオットは咄嗟にツァミーナへ声をかける。
「・・エリー・・貴方は、その子たちに希望をあげられる存在・・聖女と共に歩むのなら、きっと全てを救える”勇者”になれるのよ・・」
だが彼女は振り返らず、その背は遠ざかっていく。
――その一瞬、エリオットは確かに見た。
去り際のツァミーナの横顔、その瞳に、かすかに光るものが宿っていたことを。
「・・風よ、浮け・・」
感情の無い短い詠唱――ツァミーナの足が、ふわりと地面から離れる。
「――ッ!?・・すまん!、僕たちはこれで失礼させてもらう!」
ツァミーナのローブが風を裂き、紫の残光を引いて宙を駆ける。
エリオットはセレスティアと子どもたちへ口早に別れを告げると、ツァミーナを追い駆けた。
「師匠――ッ!!」
後方からエリオットの声が追いかける。
「魔女様、ありがとうございました!」「王子様、また来てね!」
子どもたちのはしゃぐ声が、エリオットの耳にはもう遠い。
子どもたちの手を振る姿が、エリオットの目にはもう遠い。
――ツァミーナは浮遊の魔術を幾重にも重ね、矢のような速度で屋根を飛び越え、黄昏の街へと駆け抜けて行った――
魔女のツァミーナにとって教会は鬼門。
更に”いろいろなこと”が重なって、珍しく不安定になってしまいました。(。-_-。)
・・作者も次も閑話入れようか迷い中~(笑)\(゜ロ\)~~(/ロ゜)/




