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ノーステータス・エボリューション ~異世界最底辺の真価論~  作者: 泥華
序章

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未知との遭遇

「…………あ、ヤバイ、寝る」


俺、空木星来(うつぎ せら)を乗せ、軽快なリズムと共に山道を進むバスの車内は、これから始まる林間学校への期待と高揚で溢れかえっている。


そんな楽しい空気が溢れる車内でこんなことを言うのは自分でもおかしい、とは思う。


だが、これもすべて「授業の一環だから寝るのは御法度」なんて無法を長距離移動中に適用した担任が悪い。



「三時間移動なら寝かしてよ…………」



出発前にいかにも教育熱心な教師が言いそうなセリフを言っておいて、いざバスが動き出したら車内の喧騒は無視して、睡眠だけを明確に阻害してくるなんてどう考えてもおかしいだろ…………。



と、まるで慢性睡眠不足者を狙い撃ちにするような不遇を嘆いていた時だった。



「…………だから昨日言ったのに。寝た方がいいって」



気づけば空席となっていた隣の席に誰かが腰かけながら話しかけてきた。



人との会話。



それは睡魔との戦闘を繰り広げるにあたって最強のバフであり、本来であれば是が非でも発生させたい最高級のイベントだ。




…………相手がこいつじゃなければ、の話だが。


「あ、チェンジで」

「平手と握り拳ってどっちの方が目が覚めると思う?」

「やめて、一生目が覚ませなくなる」





物騒な言葉と共に、笑っていない眼で俺への攻撃手段を問うてきたのは、幼馴染の姫城朝日(きじょう あさひ)。今俺が最も会いたくなかった人物第一位のクラスメイトだ。


まぁ最も会いたくなかったとは言っているが、俺が会いたくないのは朝日じゃない。

真に会いたくないのは、毎回のように朝日の後ろを追いかけてくる()()()()、だ。


それはなぜか。

そんな無粋なことを言う気力は今の俺にはないが、強いて言うなら、あいつらの口撃(こうげき)を受けるぐらいなら、今すぐここから逃げ出したい、それだけだ。


だが逃げ道なんてこの狭い車内にあるはずはなく、眠さも相まってなんだか急に体が重たくなった気分だ。



軽口を叩きながら、徐々に迫りくる面倒事に頭を抱えていると、朝日の横から苛立ちを隠そうともしない声が聞こえた。



「おい、朝日。そんな奴に構ってないでゲームの続きしよーぜー。あと一枚で俺の勝ちなんだからよー」

「ホントそれな!こんな陰キャ構う価値ないっしょ!」

「さきなはちょっと言いすぎだけど、僕も一理はあるかな」







…………こいつらホントに朝日しか見てないんだな。


だって朝日とちょっと話しただけなのにもう隣に居るし、しかも喋る以外何もしてない俺を罵倒してくるとは、眠気が若干の恐怖に変わってしまうぐらい思ってもみなかった。


あ、でも眠気が恐怖に変わるならいいのか…………?


「……………………」




理不尽な現実から目を反らすようにくだらないことを考えていると、一切の表情が消え、目が異常なほどに据わった朝日の顔が映った。


今の朝日は、誰が見ても明らかなほどに怒りが噴出しかけていると思うのだが、当の本人たちがその様子に気が付く様子はまるでなく、それどころか朝日の気を引こうと必死に口を動かし続けている。


「はぁー…………」


なんだか反応するのもめんどくさくなった俺は、朝日に向かって首を横に振って窓の外へと視線を移した。


どうせいつもみたいに無視しておけば勝手に収まるし、無視した代償が、朝日の愚痴を聞きながらVRゲームをすることだとしても、そっちの方が格段に安い。



…………たとえそれが超至近距離からの怒りを、降車するまで背負うことになったとしても、な。






「おいお前らなにしてる!あれほど走行中に立つなと言ったのが聞こえとらんかったのかっ!!」


そうして静かな怒りと稚拙な言葉の応酬に当てられながら目を反らすと、突如として車内に鼓膜が破れそうなほどの怒号が鳴り響いた。


絶叫と説教を足してさらに倍にしたような、そんな声に驚いて前へと目をやると、真っ赤な顔をした担任が鬼の形相を背もたれの横から覗かせながら、こちら睨みつけていた。


確かに走っているバスの車内で立ち歩くのは危険だ。でもそれと同様に、こんな山道で急にそんな声を出すのもかなり危険だろ。


現にちょっとバス揺れてるし。




「見ろ!この山道を!運転手の方はこんなに険しい道を安全かつ丁寧に進んでいるのに、乗っているお前らがそれでは運転に集中できないだろっ!!わかったら――――」



しかしうちの担任は自分の声のデカさの弊害に気付いていないのか、前方を指さしながら走行中に立ち上がることへの危険性を力説し始めた。


しかし、担任がさらに大きな声で説教を締めくくろうとしたその時、図ったかのようなタイミングで車内の至る場所に数多の光の線が現れ、車内を煌々と照らし始めた。


「うぉっ!?すげぇ、このバス車内光んのかよ!?」

「えっ、カラオケみたーい!」


その光景にクラスメイト達や、絡みに来た奴らでさえも説教されているという事実を忘れ、まるでパーティー会場にでも足を踏み入れたかの如く騒ぎ始めた。


きっと担任の声がデカすぎて、運転手さんがいつもは押さないボタンを押したんだろうなぁ、と普段の俺なら思っていた。





そう思いたかった。


だがその思いとは裏腹に、喧騒と興奮で溢れる車内でもやたらと聞こえる心音に始まり、冷たい汗が背中を伝うように溢れ出したことで、俺の体は興奮とは程遠い、嫌な気配に包まれていく。


そしてその異様な雰囲気を感じ取ったのか、隣に座った朝日も俺と同様に何かに怯えた顔で俺を見つめていた。


「せ、星来――――」


震える声で俺の名前を呼んだ朝日の声は、うるさい車内でもはっきりと聞こえた。


得体の知れぬ何かの気配に怯える朝日の顔も間近で見た。




だが俺はその声に答えることができなかった。



何故なら俺の目線はその後ろ。


一番に朝日の下へとたどり着いた男の後ろに現れた、()()()()()と、その中から生える()()()()()()()に釘付けになっていたからだ。








「…………みぃつけたぁ」


大半の人間が車内のライトアップに気を取られる中、嬉しそうにそう呟いた不気味な腕は目の前にいた男の上半身を鷲掴みにすると、有無を言わさず軽く持ち上げ、そのまま彼をまるで喰らうかの様に歪みの中に引きずり込んだ。

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