成れの果て
死しても動くもの。
死しても生に執着を持つもの。
死しても死を受け入れないもの。
そういった者達を人は『成れの果て』と言う。
その日、俺は生という物に執着した。
タッタッタッタ、ある一定のテンポが月光の下、足音がなる。
ダッッダッダッッダ、不定なテンポが暗闇の中、足音がなる。
「あぁ、!くそ!!くそ!くそくそくそくそくそ!」
なんで、なんで、どうしてこうなった。
そんな事を考えながら、タッタッタッタと一定のテンポとボキポキと言う木の枝の音が周りを占める。
「知ってるか?◯□▽山の噂」
ダッッダッダッッダ、ズザーッガシャ…ズザーッ
不定な足音と『何か』を引きずる音が奥から聞こえる。
「その山にはな、」
シュっと耳と頬の真横を硬く鋭い物が勢いよく飛び抜け、その軽い衝撃で私の足腰は、ぐで、と地に落ちる、そこからは待つことしかできない。
動けと頭は訴えかけてくるが、身体は正直な物でブルブルと全身を震わせ動かさせない。
「『成れの果て』っていう化け物がいるらしいねん、先輩から聞いた話はな、」
一筋の月光が不定な足音の存在を証明する。
「皮膚はぶよぶよ、肉はただれ」
皮膚は風船のように膨れ上がりぶよぶよ、肉は溶けるようにしてただれ、
「肩や腹からは蛆が湧き」
肩や腹から肉を食い破るようにして蛆が蠢き、
「顔は舌を牛のようにでろんってだして、目は真っ黒」
舌を牛のごとく長く器用にでろんとただ出している。
そして目はどんな黒よりも黒く見える。
「そしてそいつは喋るんだって、それは」
「生に死を死に生を」
六尺ほどありそうなその巨体は、鋭くて大きいその殺意『ナタ』を俺に振りかざす。
「や、やめ……」
シュッ、ボト
そんな2つの単純な音で私の腕と呼ばれていた物は地に落ちた。
「あっあ゙ぁあ!ぁっあっあ!」
シュッ、ドス、ギュ、ボト
もう片手もただの物になった。
「生に死を死に生を」
最後に耳を貫く言葉はそんな言葉だった。
ドッ、グッグギ、ボッボス
「生は死を死は生を手に入れる」
死しても動き。
死しても執着をもち。
死しても死を受け入れない。
そんな愚か者を私達人間は、嫌悪と拒絶の意味を込めてこう呼ぶ。
『成れの果て』