表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

職員1.理屈屋

初投稿です

「勲章をもってる。司令官を撃ち抜いたんだ」


鼻を膨らませ男は言った。

珍しい景色に落ち着かないらしく、視線は忙しなく動いている。


生来の盲だろうか、左眼球が動かない。

気持ち悪いな、と素直に思った。


「はぁ。それになんの関係が?」


質問はこうだ。

“来世を決めるにあたって、前世で誇れることはありますか?”

人間時代の勲章なぞ、なんの役にも立つまいに。


「国のために働いたんだ。寒い洞窟に何日間も潜伏して…油断したところに魔法で一撃。オレほど鮮やかな例はないだろうぜ。二つ名だってついたんだ」


誇らしげな顔。罪の意識は認められない。

内心ため息を吐きながら、規定通りに話を続ける。


「なるほど。大変だったんですね」


適当な返事だ。何にも思っちゃないだろうに。我ながら下手くそな相槌。

だが、男は気に入ったらしい。

うんうんと頷きながら話し続ける。


武勇伝は飽き飽きだ。

“不可“と書いて上へ送った。


殺しを誇るなら、魔物の方が健全だろう。

音もなく消えた男を尻目にページを捲る。


「次の方、どうぞ」



曰く。

神は居ないが、システムならばあるらしい。

地球の学者が言うところの”集合的無意識“。


それが仮初の人格を作り、選んでいるらしい。


「オレたちを?」


「そう。私たちを」


我々に休みはないが、間隙はあった。

同僚…と呼ぶのが正確かはともかくとして。

そういった立ち位置の人物と隣接し、口を作って会話する。


「遠回りなことするよな。オレたちが弾くより、その仮初の人格?っつーやつが直接やりゃあいいんじゃねーの?」


「人格は常に“今”の倫理観になるからな。戦時中の可否を判断するなら、戦争前の倫理観が必要だ」


弾く…とは言い得て妙。

我々は文字通り弾いている。


今世を生き切った人間のうち。

来世を生きるべきではないものを、人間以外に転生させる仕事だ。


「一理ある。オレとお前の倫理感が同じとは思えねーけどな」


「それも、一理あるな」


下界から魂が湧いてきた。

仕事の時間だ。



「考えたこともねえだ。殺されるまでずぅーーーっと飯食って寝るだけでよ」


「なるほど。そういう方も時々居ますね」


何度目かもわからない、ありふれた回答だ。

農村の長男なんて特にそう。

”誇り“という単語を知らない者もいた。


「けんども、ダメなこともしてねえだよ。神様ならわかるべ?」


「神様じゃないですってば。けど、確かに貴方はしなさそうですね」


下界を覗けるわけじゃないので、生前実は殺人鬼だった…みたいな過去も捨て切れやしないが。

見たところ、男からそのような狂気は感じられなかった。それに、その種の無知の演技ならば見抜ける自信が私にはあった。であれば、結論は一つだろう。

これで、彼はまた人となる。


「質問は以上です。…次の方!」


今日も忙しい。

返事を待たず見送って、次の魂を迎え入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ