職員1.理屈屋
初投稿です
「勲章をもってる。司令官を撃ち抜いたんだ」
鼻を膨らませ男は言った。
珍しい景色に落ち着かないらしく、視線は忙しなく動いている。
生来の盲だろうか、左眼球が動かない。
気持ち悪いな、と素直に思った。
「はぁ。それになんの関係が?」
質問はこうだ。
“来世を決めるにあたって、前世で誇れることはありますか?”
人間時代の勲章なぞ、なんの役にも立つまいに。
「国のために働いたんだ。寒い洞窟に何日間も潜伏して…油断したところに魔法で一撃。オレほど鮮やかな例はないだろうぜ。二つ名だってついたんだ」
誇らしげな顔。罪の意識は認められない。
内心ため息を吐きながら、規定通りに話を続ける。
「なるほど。大変だったんですね」
適当な返事だ。何にも思っちゃないだろうに。我ながら下手くそな相槌。
だが、男は気に入ったらしい。
うんうんと頷きながら話し続ける。
武勇伝は飽き飽きだ。
“不可“と書いて上へ送った。
殺しを誇るなら、魔物の方が健全だろう。
音もなく消えた男を尻目にページを捲る。
「次の方、どうぞ」
◇
曰く。
神は居ないが、システムならばあるらしい。
地球の学者が言うところの”集合的無意識“。
それが仮初の人格を作り、選んでいるらしい。
「オレたちを?」
「そう。私たちを」
我々に休みはないが、間隙はあった。
同僚…と呼ぶのが正確かはともかくとして。
そういった立ち位置の人物と隣接し、口を作って会話する。
「遠回りなことするよな。オレたちが弾くより、その仮初の人格?っつーやつが直接やりゃあいいんじゃねーの?」
「人格は常に“今”の倫理観になるからな。戦時中の可否を判断するなら、戦争前の倫理観が必要だ」
弾く…とは言い得て妙。
我々は文字通り弾いている。
今世を生き切った人間のうち。
来世を生きるべきではないものを、人間以外に転生させる仕事だ。
「一理ある。オレとお前の倫理感が同じとは思えねーけどな」
「それも、一理あるな」
下界から魂が湧いてきた。
仕事の時間だ。
◇
「考えたこともねえだ。殺されるまでずぅーーーっと飯食って寝るだけでよ」
「なるほど。そういう方も時々居ますね」
何度目かもわからない、ありふれた回答だ。
農村の長男なんて特にそう。
”誇り“という単語を知らない者もいた。
「けんども、ダメなこともしてねえだよ。神様ならわかるべ?」
「神様じゃないですってば。けど、確かに貴方はしなさそうですね」
下界を覗けるわけじゃないので、生前実は殺人鬼だった…みたいな過去も捨て切れやしないが。
見たところ、男からそのような狂気は感じられなかった。それに、その種の無知の演技ならば見抜ける自信が私にはあった。であれば、結論は一つだろう。
これで、彼はまた人となる。
「質問は以上です。…次の方!」
今日も忙しい。
返事を待たず見送って、次の魂を迎え入れた。