表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/25

04-貴族のやり方

 私はぎゅっと手を握り、お母様とお父様を交互に見やる。


「私は……お父様やお母様のこのオストガロ公爵家を馬鹿にした殿下に、見返したい……でも――」


 そう言い、口を閉じた。

 この国の王家と貴族家の関係性は、お父様と国王陛下の関係性を見ての通り。

 王家が絶対的な力を持っていて、貴族家はそれに準ずる権力や富などを持ってはいれど、王家とは比べものにならないほど低い。

 この国で一番権力を持っている公爵家でこれなのだから、他の貴族家がどうなのかは推して知るべしだ。


 ――私は、ディル殿下に一泡吹かせたい。


 ただ、単純に同じことをやり返してしまえば、良くて死罪、悪くてお家取り潰しで、お父様やお母様どころか、領地の方々に迷惑をかけてしまう。

 とはいえ、このまま馬鹿にされっぱなしでは、こちらも面目というものがある。


『王子のもとに貴族の令嬢が嫁いだものの、令嬢は実家に暮らしていて、王子は平民の女性を家に囲っている』


 どううまくごまかそうにも、醜聞にしかならないのだ。

 私たち貴族は15歳になる年から3年間、貴族である人間が人間関係を構築したり、しきたりやマナーを学んだりする学校、レンミル学園に通うことになっている。

 そこで嘲笑の的になるのは、必至だろう。

 でも、行動に移すよりも我慢したほうが、おそらく迷惑がかかる人間が少ない。

 私が我慢をすれば――


「エレーヌ」

「お母様……」

「私たちのことは、心配しなくていいんだ」

「……お父様も」


 そんな考えに耽っていると、お母様がぎゅっと私の手を握った。

 お父様も私の右隣にやってきて、もう片方の手をそっと優しく握ってくれる。

 私は再び二人を見やってから、俯いた。


「でも、お母様やお父様だけでなく、領地に住む方々にご迷惑がかかってしまいます」

「たしかに、エレーヌだけで事を動かそうとするのであれば、そうなるな」

「私たちがこれまで貴族として、どうやって過ごしてきたのだと思う?」


 突然の問いに、目をしばたたかせ、首を傾げる。

 貴族としてどうやって過ごしてきたのか……だなんて、考えたことがない。

 答えが出てこない私の様子を見たお母様は、ふふん、とわざとらしく胸を張りながら、口を開いた。


「貴族っていうのはね、喧嘩を売ってきたやつには容赦しない。そしてあらゆる手を使って、その本人だけをぶちのめすのよ」

「……コホン。レディ、少々口が悪いのではないかな」

「あら失礼。でも、言っていることは本当のことよ」

「まぁ、そうだな」


 そう言い、お父様が頷く。


「エレーヌも知っての通り、領民を統括するという仕事のある貴族は、プライドが非常に高い。それゆえ、面子を潰された場合は、それ相応のお返しをしてさしあげるのだ」

「え、ええ。それは存じておりますけど……」

「ただ、相手の家や領地を潰すのは許されないのだ。ただプライドを傷つけられただけで、領民の方や家の方に危害を加えるということはあってはならない」

「だから、その本人だけをぶちのめす術に長けてる……ってわけ!」


 楽しそうに言うお母様を見て、お父様が「コホン」と再び咳き込むが、お母様はウィンクをして茶目っ気たっぷりになるだけだった。


「そして、さも見知らぬ顔で相手に『大変だったな』と言うのが、貴族のお返しのやり方だ」

「決して事を荒立たせたり、法に触れたりはしない。それが私たちのやり方よ。幸いにも、お得意な方がいらっしゃるから、安心なさいな」

「お得意って…………もしかして、お父様?」


 お母様の視線を辿ってお父様を見る。

 しかしお父様は楽しそうに、肩を竦めるだけだった。


「俺は我が愛娘が馬鹿にされるのを見ているだけだなんて、ごめんだからな」

「あら、私もよ」


 そんなことを言いながら優しく私を守ってくれる両親を見て、なんだか目頭が熱くなってきてしまった。

 不安な思いが、幾分か和らいだ気がする。

 ハンカチで目尻に溜まった雫を拭っていると、お母様が今度は私の手をぎゅっと握り込んで、覗き込んできた。

 そのお顔は、好戦的にも、私を鼓舞してくれるようにも見えた。


「エレーヌは、どうしたい?」

「私は――」


 今度はしっかりと言えた私の答えを聞いて、お母様とお父様は深く頷く。

 そして、ぎゅっと抱きしめてくれた。


 ***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ