003話 馬車に揺られて
旧アルメキス郊外。
アルメキスの村を少し北に離れた場所にアルメキス遺跡という古い遺跡がある。
古い昔は祭壇に使われていたようだが、現在ではただの歴史ある遺跡として取り残されている。
その昔、魔族の国の魔王が世界の征服に乗り出したらしい。
魔王の力は強大で、世界の半分の国々は掌握され、残りも時間の問題と言われるほどだった。
そんな時、何処からともなく現れた勇者が知恵と魔法を駆使して魔王を討ち取ったそうな。
村の言い伝えでは、実はその時の勇者が最初に現れたのがこのアルメキス遺跡なんだとか。
嘘か真かは知らないが、村の人々はそんな話を語り継いでいるようだ。その他、それを裏付けるような話がちらほら。
「勇者……魔王……」
「魔法ねぇ」
遺跡の謂れを訊いて、二人はそんな感想を漏らした。
俄かには信じられないが、ここが異世界ならば有り得るかもしれない。たぶん。
「なぁ、エルシアはお姫様なんだろ? なんでここにいたんだ?」
そこで九条がもっともな疑問を投げる。ああ、そういえば聞いてないな。
「実は……」
と、肩までかかる赤い髪を掬って姫様が話し始める。
なんでもここ最近、この地方でモンスターの被害が急激に多発してきたそうで。
そのため国がその原因を探ってみると遺跡を中心に被害が拡大していたという。
姫様は国内でも有名な魔術師らしく、報告を受けて遺跡の魔力調査にやってきたのだった。
おっさんはその護衛。あと他に姫様直属の近衛騎士団もいるらしい。
それで、その遺跡の内部を調査している最中に俺達に出くわした、と。ふんふん、成程な。
「詳しいことはまだ分かりませんが、遺跡に見られた魔力異常がお二人の出現後に元に戻ったと報告されています」
「ってことは、原因は俺達ってことか!?」
「はい、おそらくそうだと……これは私の私見ですが、伝承にあるように勇者召喚の儀式魔法が遺跡で行われたのだと思われます」
「勇者召喚??」
おいおい、俺が勇者だとでも? ああ、こんな話聞いたことあるな。あれだろ? フィクションとかいうやつだろ?
俺がそう思っていると九条も同じことを思ったようだ。
「俺達が勇者っ!? ……いや、それは違うんじゃないか?」
当り前だ。俺は普通の日本の高校生で、九条も俺と同じ一般市民である。
否……待てよ? 俺は九条の事は良く知らない、まさかこいつには俺の知らない裏の設定がっ!?
「本当か、九条? 本当に心当たりはないな!?」
「ね、ねーよ。俺は普通の一般市民だっつーの! そういう皆世こそ何か心当たりはねえのか!?」
もっともである。が、それは愚問だ。
「安心しろ。おまえの方が勇者には向いている」
「何を安心すりゃいいんだ?」
ひょっとして巻き込まれたのかとも思ったが、どうやらそれもないようだ。
「あ、あの……」
タイミングを見計らったかのように姫様の声が入る。まだ補足があるみたいだな。
伝承によると昔現れた勇者も黒い髪、黒い瞳をしていたと記されているという。(勇者の情報少なっ!?)
さらにこの世界に黒髪の者はいない。少なくともアルマ帝国には存在しないと仰る。
髪が黒ければ勇者になれると、俺にはそう聴こえなくもない。すげーお手軽だ。
「……ですから、真偽のほどはわかりませんが、可能性は高いと思います」
確かにそれだけ聞けば一番可能性の高いのは俺達だろう。……髪の毛染めてやろうか?
「仮に、俺達が勇者だったとして、敵は……魔王はいるのか?」
「魔族の王としての魔王はいますが、現状では脅威にはなっていませんね」
……え、魔王は脅威ではないと? 魔王そんなに弱いのっ!?
どうやら魔族の国、エルフの国、竜族の国など多数の国家が存在しているが、イザコザはあっても戦争は今のところ起きていないようだ。
しかし人間と魔族はやはりというべきか、仲が悪いらしい。というか、これなんてファンタジー?
「戦争がないなんて結構平和ですねえ」
「今の所は、です。戦争に近いものはこれまで何度も起きているので、いつ争いが激化するとも限りません」
何っ!? その戦争一歩手前みたいな発言はっ!? 結局どっちなんだよ!
「そういえば俺達はなんで召喚されたんだ?」
やはり九条君、率直な意見ですね。彼は本当に良く気がつくので助かります。
「……それは……すいません。現在調査中なんです」
「あと、元の世界には帰れるのか?」
九条、良く言った!! ガンガンいこうぜ!
「…………わかりません」
「……………………」
済まなさそうに目を伏せる姫様。九条のバカヤロウがッ!!!
「まあ予想はしてたから別にいいですよ。帰る方法は俺達の方でも探すことにします。誰が悪いって訳でもないんだし」
とにかくフォローしておく。女子供には優しくするのが、紳士の嗜みである。
「そうだな……ごめん、エルシアのせいじゃないもんな。方法はこれから頑張って見つけようぜ!」
元気づける様に姫様の手を取って鼓舞する九条。彼に見つめられた姫様は……。
「………………あっ……////」
ボンッと顔を真っ赤に染めて、九条の顔から目を逸らしていた。
「あっ、あのぅっ……その…手をっ////」
「ん? ああ」
しどろもどろになって、アタフタする姫様。手を離すがその変化がよくわかっていない九条。
なんだ、コレ。まさかとは思ったがこいつ、天然のフラグプランナーなのか! ぐぐ、これだから美形キャラはっ!
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とりあえず、日も傾いてきているのでアルメキスの村へと戻ることになった。
遺跡から南に南下してすぐということらしい。村、というからにはそれ程大きくもないのだろう。
馬車の部屋にはおっさんと九条、そして俺の3人がいる。……正直、息が詰まりそうなんだが。
「おっさん、あとどれぐらいで着くんだ?」
「おっさんゆうな。……もうすぐ着く」
「はぁ、腹がへったなぁ秋人ぉ」
ぐぅ~と九条の腹が鳴る。それを聞いたおっさんが「もう少しの辛抱だ」と呟く。
――ところで。
「いつから名前になったんだい? 九条君」
「なんだよ水くせえ、俺の事も雅樹でいいぜ?」
アレ? 今日初めて話したんだよな? 馴れ馴れしすぎやしないか? ……ま、どうでもいいが。
「雅樹、お前はフラグプランナーの自覚はあるのか?」
暇だったので訊いてみた。ついでに名前の方で呼んでおく。
「ん? なんだ、農園か?」
「いや、わからないならいいんだ」
自覚が無い。これは少し危険な兆候だ。俺に被害が及ばないようにしなければ。
「なんだ、そのフラグプランナーというのは?」
意外にもおっさんが食いついてきた。しかし説明する気はなかったので、俺は適当に返事をする。
「おっさんの憧れた才能だ」
「才能? 魔法の才か」
「まあ魔法みたいなものかな……あ、そういえば話は変わるけどおっさん、名前は?」
俺は別におっさんの名前になど興味はなかった、要するにただの気まぐれである。
「…………グレーニン・グランバルトだ。アルマ騎兵隊隊長をしている」
おお、なんとなく強そうな名前じゃないか。グレーのおっさん。
「グレーのおっちゃん、か。良い名前じゃないか」
「くっくっくっく……」
「………………」
いやはや、雅樹と俺は思考回路が似てるのかもしれないな。
雅樹は友人から気の合う友人にレベルアップした。
そこでふと、俺はあることに気付く。
「あれっ? おっさんはなんで日本語が喋れるんだ?」
そうだ、今までいろいろテンパリ過ぎて気付かなかったが、ここは異世界なのに日本語が通じている。おかしくね?
「あっ!! ホントだ! 秋人、よく気付いたな」
「ニホンというのは、お前達の国だったな。しかし、お前達はベルバ語を話しているように思うが?」
「ベルバ語? 日本語じゃなくて?」
「うむ。大陸のほとんどがベルバ語で通じる。未開の地や一部の種族は他の言語を扱うようだが、それでもまったく違うものでもないだろう」
ふ~む。どうやら俺達は日本語のつもりでも、こっちの言語に聴こえているというわけか。その逆も然り。
やはり召喚魔法に原因があるのだろうか。そもそも言葉を理解しているのは脳の一部であって、言葉の発音は……。
いや、通じるなら別にいいか。贅沢な悩みだ。ってかレメリオンって……専門用語を使うなよ、わからないだろ、おっさん。
「ふ~ん。不思議だなぁ」
なァ、雅樹よ。お前は何も考えてないだろう?
そんな会話を交わしつつ馬車に揺られていると、ドオーン! と遠くの方から音が響いた。
「うお、なんだ!?」
馬車の中から外を窺う3人。
「うわっ! なんか燃えてんぞ!?」
「あれは……!!」
「村じゃないのか!?」
九条、おっさん、俺の順に答えを出す。視線を変えると真横に騎馬が並列して走っていた。
「姫様の護衛は近衛団に任せる!! お前達は村へ急げ!!」
「はっ」
おっさんの指示で10人程の騎士たちが馬を駆けて過ぎ去っていく。
「おっちゃん!! 村に何があったんだ!!?」
「…おそらく、盗賊か、モンスターの被害にあっているのだ」
「!! じゃあ急がねぇと!!」
「村には少ないが騎兵隊も逗留している。まあ相手しだいだな」
村の方角から黒煙が上がっていた。
紅色の空の下を馬車はスピードを上げて村へと向かっていく。
案外思いつきで書いているので、どこかで設定の矛盾が生じてくるかもしれない。気付いたら指摘してください。