024話 解決?
「あの、何かあったんですか……?」
まずは二人の様子を見ることにした。
まだどちらのものを拾ったのかが確実に分からなかったからだ。大体の見当はついているが……。
もしこれがディズだったなら、直球のど真ん中に投げ込んでいただろう。俺はそんな馬鹿な真似はしない。
「ああ、アキヒトくん聞いてよ「ま、待ちなさいっ!!!」」
ミズリーさんの進言にルルさんのストップがかかる。
OK,まずは一つ目をクリアだ。
例のブツはルルさんのものということが、今断定された。
そうか、ルルさんのものだったか……ふ~ん、そうなのか……へぇ~。
「何か失くされたんですか?」
次に大きな網で囲ってみた。
これで実は間違いでした、では目も当てられないからな。
「そ、そうなのです。だから私達急いでおりますの。貴方とはまたいずれお話の機会を設けたいと思いますわ」
そう答えたのはルルさんだ。
まぁ、貴方達から話かけてきたんですけどね? とは言わない。紳士だからね。
とにかく、何かを探していることは確かなようで。
「大事なものなんですか?」
「え、ええ、まぁ。ですから私達はこれで」
そう言って、ルルさんが離れて行ってしまう。
おおっと、それは困る。まだ色々と訊きたい事がっ……!
「あ、待った!!」
俺は咄嗟に右手を突き出してルルさんの左手首を掴んだ。
と、同時に何故かディズの方からも頭を締め付けられる。地味に痛い。
「え? な、なんですの?」
「あ、いやちょっと」
さて、どうするか。勢いで引き止めたがここが限界かもしれない。
このままチマチマとしていればルルさんが話を切り上げてしまいそうだ。
咄嗟の事に気が動転している今が、たぶん最後のチャンスっぽい。
俺は一瞬躊躇って、次の一瞬で覚悟を決めた。
そしてルルさんの耳元に近づいていく。
「あ……」
それは誰の声だったろう。
(それは、例えば下着だったりしますか?)
優しく、誰にも聞こえないようにルルさんの耳元で俺は囁いた。
その瞬間、ビクッと身体を硬直させるルルさん。この反応……もはや疑いようがない。
(な、何故それをっ!?)
何故かルルさんも小声で返答してきた。
まぁ、そうなる気持ちはわからないでもない。
しかし、自分で言っておいてなんだけどこの先は何も考えていない。
俺が下着持ってます、とか言って大丈夫だろうか? あらぬ誤解を生まないだろうか?
少し迷いながら彼女の様子を見てみる。
耳が……否、彼女の顔全体が真っ赤に染まっていた。ダメだ、いきなりは言っちゃダメ。
(スカートが少し破れています。たぶんそうではないかと)
これは本当。今、この目で確認した。腰の辺りが少し破けてる。
俺の指摘に、ルルさんが慌ててその破けた箇所に開いている方の手を当てて隠す。ちょっとかわいい。
(失くしたのは下着ですね? 俺も捜査に協力しましょう)
もう強引にいくしかない。だがこれで後は何食わぬ顔で見つけた、と言って返せばいいだろう。
おお、さすが俺! やればできる子じゃないかっ! この俺の素晴らしい手腕に全米が拍手を送ったに違いない!!!
「ふふ、いつまでやってるんですか?」
その時、背後に強烈な寒気を覚えた。
「え?」
パッと振り返ってみると、そこにはニッコリと笑うミズリーさんが。
……否、笑っているように見えるが、その表情はどこか恐怖心を煽ってくる……! な、何事っ!?
「仲がいいんですね。ルルちゃんとアキヒトくんは」
怖い、何故か知らんが怖いぞっ! ミズリーさんっ!!
「い、いや、それほどでもない気がしますが……」
「そ、そうですわ、ほとんど初対面ですもの……」
ルルさんの声も俺と同様の形容しがたい恐怖心に侵されていた。
どうやら、彼女も俺と同じ感覚を味わっているようだ。
しかし忘れてはならない、俺は先程からディズにも頭を締め付けられ続けている。
なんとか今までは耐えてこれたのだが、痛みがだんだん強くなってきている。これはたぶん爪立ててるな。
「それで、ルルちゃんはどうするの? 探しにいくの?」
「え、ええ。ミナセ・アキヒトにも協力してもらいましょう……」
ん? ルルさんは俺のことをフルネームで呼ぶのか?
呼びたいように呼んでくれればいいけど、呼びにくくないのかな?
「そ、それでは早い内に探しに行きましょうか。おそらく、ここからそう遠くない所にあると思うのですが……」
マジで近くにあるけどね。手を伸ばせばきっと届くさ。
「そうだね。早く探さないとね」
「では、俺も協力させてもらいましょう」
言ってミズリーさんと俺はルルさんの後に続いていく。
よぉし、これで後は隙を見てパンツを取り出せば……。
(主、もう喋っても良いか?)
耳元からディズの掠れた声が聞こえた。うぉおおぅ……なんかゾクゾクきた!
「ああ、もう良いぞ。良く我慢したな」
ディズと……それから自分に対しても。
一応ディズには偉いぞ、と頭を撫でてやる。
本当に良く堪えてくれた。こいつの性格からしていつ暴発してもおかしくは無かったからな。
「全く、まどろっこしいことを……そのまま渡せば良いではないか」
「だから、おまえは黙ってろと言ったんだ」
俺はいつかディズの魔の手にかかってしまうような気がする……。
その時はこいつだけでも道ずれにしてやろう。俺は未来の自分にそう誓いを立てた。
そしてそう思いながらも、俺は周囲への警戒を怠っていない。
漸く二人の隙を見つけた俺は、早々に裏道へとコースを外れる。
一旦二人から見えない位置に移動し、ふぅ、と一息。
…………俺はなんでこんなことをしてるんだろうな?
軽く自分を自嘲しながら、ポケットを弄りパンツを取り出す。
良く見れば端の方が切れている。大方、どこかに引っ掛けてズレ落ちちゃったんだな。
なんで空を飛んできたのかは知らんが、あの怪しげな男が関係しているのかもしれない……。
まあいい、サクッと終わらせてもう部屋に戻ろう!
そして俺は来た道を舞い戻った。
「ルルさん、ミズリーさん、ありましたよ!」
何食わぬ顔で呼びかけると、二人が勢いよく振り返ってくる。
「ちょっ!!?」
「あ、それそれっ!」
サササッと小走りとは思えないスピードで近づいてきたルルさんが、獲物を狙う虎のような俊敏さでパンツを引っ手繰る。
「それで、良かったんですね?」
「……は、はい」
消え入りそうな声でルルさんが答えた。
またもや顔が真っ赤になっている。恥じらう乙女は宝ですな。
「見つかって良かったね~♪ ありがとう、アキヒトくん。やっぱり手伝ってもらって助かったよ!」
「あ……ありがとうございます」
「いえいえ、大したことではありません」
ミズリーさんの感謝はとても純粋で、ルルさんの感謝はとても初々しかった。
「ちょ~っと待てぇ~い!!!」
と、そこに奇妙な発声を奏でる第三者が現れる。
「……誰だ?」
顔は先程の怪しい青年、名前は知らない。
ついでにいつ生き返ったのかもわからない。
「そこのパンツは俺が最初に拾ったものなんだよね。ってことはそれは俺の物ということだから、返して?」
…………変態だった。
「お前は誰だ?」
――変態だ。
言ってからそれに気付いて軽く後悔する。
聞くんじゃなかった。こんな奴の名前なんて知らない方がいいに決まってる。
「え? ちょっと俺のこと知らない奴多すぎだろ。これでも貴族なんだけど……キースって聞いたこと無い? クラディスは?」
キースだって……これからキースと聞くたびに、俺はこの変態を思い出してしまいそうで哀しいよ。
「記憶にはない」
「おいおいマジですか……クラディス家大丈夫かなぁ」
軽そうな奴だった。っていうかなんで俺だけこいつと喋ってんの?
皆に視線を送るも誰も合わせてくれない、どうやら俺は交渉者の役割を押しつけられたようだ。
「で、その貴族のキースとやらが何の用なんだ?」
敬語は……やめとこう。こいつに下に見られるのは納得がいかない。
「何何、最近の若いもんは目上の物を敬う事もできんのかね? 世知辛い世となったものだなぁ」
「……で?」
「……お、怒るなよ、冗談だってば。用ってのは……あれ、さっき言わなかったっけ? 俺のパンツ返して」
――ブチッ!
さて、ここで問題。さっきの音は何でしょう?
「いい加減にしなさい!!!」
正解はルルさんの堪忍袋の緒が切れた音でした。
「ルルちゃん、殺さないようにね?」
おおっと、ミズリーさんも爆発寸前っ!?
とか思っていると、いきなりルルさんが手に持っていたパンツを地面に投げ捨てた。
え? せっかく拾って返したのにっ!?
なんで捨てるの? という俺の疑問はすぐに氷解する。
「憤怒の焔」
ルルさんが短く言い捨てて、人一人を余裕で丸焼きにできそうな焔で投げ捨てたパンツを塵に変えた。
「ぎゃわわわわわ!!!!!」
その焔の被害を受けたのはパンツだけではない、それを拾おうとしていた(一瞬で反応した)キースにも被害は及ぶ。
「髪の毛がぁあああああ!!!! 燃える、燃えるぅぅうううううう!!!!!」
悲惨な光景であるが、自業自得である。
この場に、こいつを助けようとする者は誰一人いなかった……!
「助けてくれええええええええ!!!!」
パニックになった男の叫びは何故か俺の方へと向かう。
「おい!? 待て! こっち来んなっ!?」
「水水水水水水水水水水水水水水水、みず~~~~~!!!!」
凄い勢いでキースが飛んでくる。
避けよう……とも思ったが、俺の後ろにはミズリーさんがいることに気付く。
――やばい! これでは避けれない!
「止まれぇ~~~~!!!!」
――ドン。
――バシャア。
奴に当たった瞬間、頭上からバケツを引っ繰り返したような流水が落ちてきた。
二人一緒に地面に倒れて水浸しになる。ついでにいつの間にか、ディズが俺の頭から居なくなっていた。
「ふん、そこで反省してなさいっ!」
俺の隣で茫然としているキースに、ルルさんが見下ろしながら言葉を浴びせる。
…………俺は? 巻き込まれた俺に対する謝罪は?
「ご、ごめんね、アキヒトくん! あの子、一度頭に血が上っちゃうと周りが見えなくなるのっ!! ホントにごめんっ!」
頭上からミズリーさんが必死に謝ってくれた。いいよ、許しちゃう。
「いえいえ、別に気にしなくていいですよ。大したことじゃありませんから」
俺は労いの言葉をミズリーさんに返す。
「ルルちゃん、ほら、貴女もアキヒトくんに謝ってっ!」
「わ、わかっています! 今言おうとしていた所よっ!」
嘘だ。気まずくなって目を背けていたのはお見通しですぞ、ルルさんや。
「あ~……」
しかしまぁ、なんというか……やっぱりこうなってしまったか、という感じである。
この二人と出逢ってしまった時から、薄々こんなことになるのでは……という予感はあったのだ。
嫌な予感がプンプンしたからな。俺もそうならないように努力はしたのだが……ダメだった。
っていうか、ディズはちゃっかり逃げてやがる。ちくしょー! 一人だけうまくやりやがってっ!
「……ぅ、ミ、ミナセ・アキヒト!」
「……なんでしょう?」
やはりフルネームか。まあいい。
謝罪しにくいのは分かる、頑張ってくれ! ルルさん!
「そ、その……これは私の不注意、でした……、申し訳……」
ルルさんが頑張って謝罪を言い終わろうとした時――。
――フワッ。
本当に、全くの偶然に、その場に一陣の風が通り抜けた。
その風に靡いて一瞬翻ったのは、ルルさんの白いスカート。
「……………………」
――見た。
――見えた。
――見えてしまった……!
体勢が悪かった。
俺は地面に倒れていた。
ルルさんは傍に立って俺を見下ろしていた。
余りにも、そして無常にも、タイミングが悪すぎた。
「……………………」
この無言だけが俺とルルさんの気持ちを代弁している。
その他に今の俺の心境を説明することはできない。少なくとも俺は知らない。
永遠に続くと思えた沈黙と静寂。
それを破る者は意外な所からやってくる。
「……………………金?」
「――っ!?」
言ったのは俺では無い。俺の横にいたキースである。
気付けばキースが、この場に爆弾を放り投げていた。
「え、何時の間に俺は透視能力に目覚めたんだ?」
俺に見えたということは、つまり俺の隣にいたこいつにも見えていた、と。
「あんたも見た? あんたには何が見えた? これ、重要なことかもしんない」
キースが真剣な口調で俺に話かけてきた。
自分が見たものを信じられないのだろう。俺だって信じられない…………ことも、ないのかもしれない。
「…………口を閉じろ。今の内に、祈れ」
何やら本気のキースに俺は心構えを説いた。
おまえに出来ることはそれだけしかない、と伝わっただろうか?
辺りには既に膨大な金色の魔力が集められつつあった。
俺はなんとなくディズを探す。
何処に行ったのかと思えば、ルルさん斜め後ろにいたようだ。
ついでにディズと目が合った。死んだ魚を見るような目つきである。
次にルルさんの顔を見てみる。
顔は真っ赤を通り越して、もはや別の色になっていた。
涙目になって、俺達を見下ろしている。何かを堪えているように見えなくもない。
――――また、泣かせてしまったな。
そんなことを思った。
残された時間はもう無い。
そして俺はただ一言。
「ごめん」
と――――。
「ぃやぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
風と氷と、そして焔が舞っていたのを覚えている。
R15ってどこまでありなん? どこからアウトなん?




