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遥かな場所で  作者: 生野紫須多
第一章 旅立ち編
18/59

018話 秋人 VS ルル

ココちゃんと戯れたその翌日。

天気は晴れ。やはり今日も、コロセウムは熱かった。


会場のボルテージも昨日とは明らかに違い、1,3倍増しの熱気が少し暑苦しい。

どうやら本番は今日からということらしい。まぁじっくり見れる1対1だしな。

むさ苦しい人波に混ざって、俺は寝ぼけ眼を擦りつつお天道様に進言する。

あんたはちょっと働き過ぎだ…………そういや、この世界に来てから雨って降ったっけ?


今俺は大会の選手達が集まる闘技場に居る。

昨日と同じく、朝早くからモンさんに叩き起こされてやって来た。

さっそく会場に集まって、説明やら顔合わせやらなんちゃらと大忙しだ。


今さらかもしれないが大会の予選はA~Dブロックまであって、全部で4人の優勝者が選出される。

俺はAブロックで、モンさんがBブロックだから、俺とモンさんと戦うことはないみたい。

例の巨人はモンさんと同じBブロック。もしや因縁いんねんの対決が実現するかも……!


もうすぐ本日の第一回戦が行われるはずだ。俺が出るのはその初っ端の試合。

たぶん今日は2回も戦わなければいけない。まぁ勝ったとしてだが……ハードな一日になりそうな予感。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



『さあ、どんどんいきましょうっ!! 本日の第一回戦を始めたいと思いまーす!!!』


――ドワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


俺はうるさい歓声を聞き流して、入口の前に立つ。

まだ、闘技場内には誰もいない。名前を呼ばれたら入場して下さいとのことだ。


『まずは一人目をご紹介っ!!! Cランク組の予選を勝ち抜いてきた銀髪の青年――ミナセ・アキヒト選手です!!!!』


――ヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


おお、早速来たよ。最初の試合だということで、俺はちょっぴり緊張気味。

前は大勢いたからそんな緊張しなかったけど、一人で行くのはやはり違うな。

少し堅くなりながらも俺は闘技場内に足を踏み入れる。

何もない運動場みたいな場内の、その中心に向かって歩いていく。


そこでチラッと観客席を観察。

えーと、二人は何処に居るんだろう。近くにいるからと言っていたが……前の方ってだよな?


「主、主っ! ここじゃ~」


後ろ方からディズの声がした。なんだ近いぞ?


「あれ? なんで下に降りてんだ!?」


振り返って見てみると、ディズとモンさんが入口のすぐ隣に佇んでいた。

観客席は一段上の方だ。そこに居て大丈夫なのだろうか?


「主、勝つのじゃぞ~!!!」

「負けるなよ、アキヒト君!」


二人して呑気に応援してくるが、何故あんたらがそこにいる。

駆け寄って詳細を訊ねたかったが、今は観客の視線があった。

仕方がないので断念して、闘技場の中央に向かって歩いていく。


『次は二人目ッ!! 此方はBランクの激戦をくぐり抜けてやってきましたプリティーフェイス――ルル選手ーーっっ!!!!』


――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


女性ですか。

複雑な思いに駆られる。


俺の前から入場してくるのは、黒い帽子を被った気立ての良さそうなお嬢さん。

顔は良く見えないが、後ろ髪を二つに分けた金髪ツインドリル。居るところにはいるんだな。


とにかく情報収集のために、彼女のことを堂々と観察する。

全体的にどこか気品を感じる。歩き方にも育ちの良さが表れているような……どっかの貴族だろうか。


聞いた話だと、貴族の人の半分くらいは魔法が使えるみたいだ。

たぶん事実はその逆で、魔法が使えるから貴族にまでのし上がれたんだろうが……。

ってことはだ。おそらく貴族である目の前のお譲さんも、かなり腕の立つ魔術師のはず。


「貴方がわたくしの相手ですか。……ケガだけで済めば良いですわね?」


良いわけないだろ。マジパねぇな。


「……もっと穏便にいきましょう」


『魔法無しで』と言おうとしたが、言えなかった。

しっかしマジでどうするよ、おい。女の子を殴るなんて紳士協定に引っかかっちゃうぞ。


『それでは始めてもらいましょう!!! Aブロック第二回戦、開始ィーーーーーーーっ!!!!!!!!』


とか思ってる間に始ってしまった。早い早いっ!


「怒りを以って燃え尽きなさい、“憤怒の焔ドラドラ”!」


開始早々、ルルさんが手を前に翳して早口に呪文を唱えた。

それを見た俺は一旦距離を取るために後ろへと飛び退く。


――ゴォオオオ!


漫画みたいな音をたてながら襲い来る二メートル級の火球。うぇ、デカッ!?

すぐさま地面を蹴って、火球の範囲から離脱する。

あっぶねぇ……なんとか回避は成功したか、ホント強化様様だな。


因みに俺が避けた火球は闘技場の端のところでかき消えた。

観客の安全は特殊な魔法障壁によって確保されている。

ま、そのおかげで選手は魔法使いたい放題だが……。


「……ふふ、逃げるのは、お上手ですのね」


余裕ぶった皮肉な言葉だが、こめかみには青筋が……俺を丸焼きにできなかったことがそんなに不満か?


「では、これでどうですっ!!」


彼女が手を振り上げると、上空に先程のデカい火球が出現した。


「“焔影ドラダ”!!!」


その火球から、小さな火球が飛礫つぶてのように降り注ぐ。ほ~う、焔の連弾か。

俺は降ってくる火球の軌道を予測しながら、その全てを紙一重で避けていく。


「ほいほい、ほいっと」


とりあえず避けることはできるが、このまま逃げ続けるわけにはいかないか。

相手の魔力切れを待つのもいいけど、ディズに消極的とか言われそうなので今回はパス。

かといって殴るわけにもいかないし……制限あり過ぎ?


う~~ん。まぁ、女性にやるのは本意ではないが、俺のやり方でいきますか。


俺は最大強化した駿足でルルさんの傍に駆け寄る。

突然間合いを詰められ、ギョッとした彼女に向けて士さんをチラつかせて。(それはもう甚振いたぶるように)


「……降参くれないかな?」


できるだけ優しく問いかける。


「なっ!? っ……舐めないで!!」


――ブワァアアアア!!!


キッと睨まれた瞬間、風嵐が起こった。

突如現れた風の壁を、俺は後ろへ飛んでやり過ごす。


「この私を侮辱した罪……思い知りなさい!!!」


闘技場に風と焔が吹き荒れる。

ふむふむ、相手の反応は予想通りのようで順調順調。


「っととと」


荒れ狂う暴風焔、休む間もなく火球と風球が飛んでくる。

……とはいっても、一つ一つの大きさはそれほどでもない。

今の俺なら一発くらいなら当たっても大丈夫か……態々わざわざ当たりには行かないが。


それにしても彼女、中々の使い手では無かろうか。

詠唱破棄と連続魔法に加え魔法の威力も十分ある、そこらの魔術師にはできない芸当だろう。

属性は火と風と……ふむふむ、成程。連携攻撃もお手のものらしいな。

さすがはBランクのトップレベルなだけはあって、ただの馬鹿とは一味も二味も違うようだ。


「そこっ!!」

「――むっ!?」


――ドーーン!!!


俺の目の前で火球と風球が衝突して弾ける。

焔が風にあおられて、残り火が俺の視界を塞ぐ。(ただの目眩ましだ)

視界を塞いだということはたぶん次は追撃が来るので、俺はその場を離れようと――。


――しなかった。


――ドドドドドォオオオン!!!


そして俺に向かって、容赦無く全ての攻撃が降り注いだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっとやりすぎたかしら」


ルルは白煙を上げる現場を見てそう呟いた。


“勝った”と、彼女はそう思う。


あれだけの攻撃だ。普通なら大怪我、最悪死んでいるかもしれない。

しかも青年はCランクの傭兵、そんな者にあの攻撃を防げるはずがなかった。

会場にいた誰もがそう思い、ルルの勝利を確信する。ディズだけはその例に漏れるが。


観客達は試合の終わりを予感し、会場にはある種の沈黙が生まれていた。

時間の経過に伴い、くすぶっていた煙幕が徐々に晴れていく……そこにはあるのは惨劇の跡――。


「…………えっ!? う、嘘っ……!!??」


ルルの言葉に少し遅れて、周囲は騒然となる。


「そ、そんな……どうしてっ!?」


先程とは違い、動揺を隠そうともせずに彼女は声を荒げた。

彼女の視線の先……白霧の霧散した惨劇の後。

そこには無傷で佇んでいる、銀髪の青年がいたからだ。


彼はまるで何事もなかったかのように、いつもの調子で話し出す。

僅かな挙動、今この瞬間に、こうも自然に動けるのは彼一人だけだっただろう。


「やはり氷だったか……それで、もう攻撃は終わりなのかな?」


青年はルルに向かって不敵な笑みを浮かべた。


「――っ! 焔の矜持きょうじ! 風の矜持! 氷の矜持! ――“三象律弦セムドラド”!!!」


呪文を受けて、特大サイズの火球、風球、氷球が彼女の周りに出現する。

得体の知れない恐怖を振り切るために、ルルは有りっ丈の魔力を込めて自らの最大魔法を解き放ったのだ。


それを見た青年は、今度は逃げる素振りすら見せずにただ持っていた刀を構える。


そして――。




――ルルは、それ・・を見た。


彼は迫りくる災厄に向けて、その短刀を機械的に振るっただけに過ぎない。


その最初の一振りで――焔の核が切り裂かれて火の粉を散らした。

さらに次の一振りで――風の点が切り裂かれて凪の風に変わった。

最後のもう一振りで――氷の芯が切り裂かれて氷の屑を降らせた。


それだけに留まらず、地に降ろした刃先で彼の足元を固めていた氷も破壊される。


「…………あ……ああ」


さながらその光景は、悪夢を見ているようだった。

うなされた幼子おさなごのように彼女は怯える。


一方、会場全体には二度目の静寂が流れていた。

観客の誰もが目の前で起きた異常に唖然としていたが、その中でディズだけは満足のいった表情で試合を見つめている。

彼女がその光景を見ても平然(感動はしているが)としていられたのは、彼のとある秘密を知っていたこともあるが、それよりも彼のことを強く信じていたことの方が大きい。


そして戦いは終わろうとしていた。


会場の孕んだ静けさを切り裂くように、銀髪の青年は足音を響かせる。

一歩一歩、ゆっくりと歩いて彼女へと近づいて行った彼は、彼女の目前でその歩みを止めた。


「ぁ……ひっ……!」


もはや今のルルに戦意など残ってはいない。

未知の恐怖に身が竦み、声すらもまともに出せない状態だ。


薄らと涙さえ浮かべる彼女の瞳に、青年の持つ鋭い銀の刃が映り込む。

避けられぬ運命を悟った彼女には、ただギュッと強く目をつぶることしか出来なかった。



◇◆◇◆



「…………あ……ああ」


随分とまぁショックを受けていらっしゃる。一応それが狙いだったのだが……。

そんな彼女を見るのはなんだか忍びない、さっさと試合を終わらせることにしよう。


いきなり近づくと悲鳴を上げられそうな気がして、俺はゆっくりと歩いて彼女へと近づいていく。


「ぁ……ひっ……!」


ガーーン! めっちゃ怖がられてる……やはりやり過ぎたか……。 

こんなはずでは……と、後ろ髪を引かれる想いで俺は士さんを彼女に突き付けた。


「……降参?」

「………………ふぇ」


近くで見ると、やはり綺麗な子だった。それだけに罪悪感が……。

恐る恐ると云った感じで、目を開けるルルさん。


しかし、なんと目尻には薄らと涙が……!!!


――な、泣いていたんですか!?


ちょ、これは強烈なダメージ……! そんなに拒絶しないでルルさんっ!


「…………ぐすっ」

「――!!!」


怯えながら、今にも泣きだしそうな彼女。(さらに大ダメージ……!)

そんなものを見てしまうと、俺の持つガラスのハートではもう立ち向かえない。

警戒を解いた俺は彼女の恐怖を払拭すべく、痛む心に鞭打ってニッコリと微笑む。


「何もしないから、降参してくれるかな? ね?」

「……ぁ。…………わ、私の、負け……です」


と、漸く安堵を得たようで、ルルさんはフッと膝をついて降参してくれた。


――カンカンカーン。


『そ、そこまで~~~~!! 勝ったのはなんとっ!! Cランクの期待の星、アキヒト選手です!!!! まさかまさかの快進撃っ!! 彼は一体何者なのでしょうか~~~!!!!!』


――ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


煩い歓声が会場に沸く。

ぷぅ~~~~い、やっと終わったか……って、まだあと一回戦うんだけどな。

兎に角、次の相手も女性でないことを願うばかりである。


「……負けたのですね……私が……なんて……」


ボソボソっと、幽霊のような呟きが聞こえた。

……彼女、見た感じもかなり落ち込んでいる。

ここは何か言った方がいいのかっ、アフターケア必要!?


「あ~……何もそこまで落ち込まなくとも」

「あ、貴方に何が分かるのですっ! 私は……私は……っ!!」


まぁ、確かに負けた相手に言われてもな……とても悔しそうだ。

プライドも高そうだし、もしかしてやんごとない名家のお嬢さんだったとか?


「ほら、そんな落ち込んでないで……負けちゃったのは仕方ないことですし」


ほんと、紳士だなぁ俺。そろそろ、紳士ランクもアップしないだろうか。


「私はっ! ……私が、こんな……予選で負けるなど、許されることでは……」


許される、許されないとか、そう云う問題じゃないだろうに。

え~~っとぉ……何か励ますのに良い言葉は……。俺は必死に考える。


「そんな気にすることじゃないっすよ。俺、優勝しちゃうかもしれないし……」

「……え」

(……あ)


ゴメン、口が滑った。つ、つい言っちゃったよ。流れって怖ぇ……!

しかし何故こんな事を……もしかして俺が気付いてないだけで、無意識ではそう思ってんのか?


「優勝者に負けたんなら、それは仕方がないことでしょう?」


やばいやばいやばい、墓穴掘ってる。どどどど、どうしよ~ドラ〇も~ん(涙)


「あ、貴方、何を言って……」


…………ふ、こんな時こそ逆転の発想だ! 如何にもならないなら、如何にでもなりやがれっ!(注:自棄糞やけくそ


「立て!」

「にゃ!?」


俺は彼女の両肩をガシッと掴んで奮い立たせた。

要はさっさと話を終わせりゃいいんだ! ボロを出す前に片づける! ボロを出しても片付ける!


「は、放しな……」

「俺は優勝する! おまえも、んな事で一々悩むな! OK? わかったな! 簡単だろっ!?」


もはや俺はちょっとした錯乱状態で、彼女の肩を掴んだままガシガシと揺って文句を垂れる。

戦闘後のアドレナリンの過剰分泌により、一種の興奮状態におちいった俺がそこにいた。


「やめなさっ、やんっ、わかったから、……やめな、やめ、やめてぇ!」

「おっと、悪ィ。それじゃ、元気が出たなら俺はもう行くわ。帰り、気ィ付けてな!」

「あっ? え、ちょっと……ま、待ちなさいよっ!!」


後ろから怒声が飛んできますが、一切無視の方向で。

おっしゃあ! これでなんとか危機を脱出できた…………ぜ? 


事が終わって、だんだんと頭に上っていた血が抜けていく。


よくよく思い返してみると……さらに墓穴を掘っていただけでは……。

勢いのままに言ってしまったけど、結構とんでもないことをしてしまった気が……最低だ、俺……!


事が終わって冷静さを取り戻したことで、激しく後悔。俺の歩く歩調も亀のように遅くなっていた。


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