017話 ココちゃんの魅力
「主よ、なんじゃあの有様は!!」
「はあ?」
Aブロック第一回戦をくぐり抜けた後だと云うのに、なんだか酷い言われようだ。
試合にはちゃんと勝ってきたのに、なんで怒られにゃならんのか。
「何故、もっと積極的にいかんのじゃ! あれでは主の戦いが見れんではないかっ!」
「え? そんなに見たかったの?」
「何を抜けた事を……そんなことでは優勝もままならんぞ」
ディズの中ではやっぱり俺の優勝は確定していたらしい。
「まぁ優勝云々はともかく、俺は戦うのはあんまし好きじゃないんだよ」
「し、然しじゃな。せっかく儂が応援しているというのに、主がそのようでは甲斐が無いではないか!?」
「……そんなに俺の戦いが見たかったわけ?」
「そうじゃ、儂が応援しておるのじゃから、主ももっと力を見せつけてやるのが筋じゃろう」
筋って、こいつは一体俺をどうしたいのだろう……守るんじゃなかったのか。
つーか、応援がどうのこうのって。もしかして、始まる前のことをまだ気にしているんじゃないだろうな?
「………ぷ…くっ……んく、だ、だめだっ」
「?」
何とか言ってやって下さいよ、と横に居るモンさんに振ろうとしたのだが。
何故か彼女はプルプル肩を震わせて、何かを堪えている様子……どうした?
「はっはっはっは! 面白い光景だ。ふふふふ……アキヒト君が、使い魔に、せ、説教されている……っひ、っくっくっく」
俺が疑問に思っていると、闘技場を出て合流した時からずっと沈黙を貫いていたモンさんが、突如狂ったように笑い出した。
「あはははは! 涙が、涙が……くふふふ、……はー…はー…あぁ、愉快だな、君達は。いつもそんな感じなのかね?」
笑い過ぎだ。というか今まで黙ってたのは笑いを堪えていたせいかよ。
一人に説教されて、もう一人に笑われて、戦いが終わって早々この仕打ちとは、なんたる失礼千万っ!
「い、いえ、それより俺の使い魔って話は……?」
言いたい事は山程あったが、俺は苦汁を飲んで疑問を紡ぎ出した。
因みに使い魔というのは魔術師の手下みたいなものらしい。(ちょっと前にディズに聞いた)
血を代償にして契約に似た儀式を行い、魔物なんかを従わせる怪しい黒魔術のようだ。
自分より強い……神格の高い魔物は使い魔にできないが、弱い魔物なら複数従わせる事が出来る。
まぁ、それにはかなりの魔力を消費しなければ無理なので、効率も悪い。基本は一人につき一匹だ。
「そうじゃ、儂は使い魔などではないぞ!」
ディズの怒りの矛先が、モンさんにも向かう。俺にとってはどっちも似たようなものだがな。
「だが然し、喋る猫とは使い魔か魔物の類ではないのか? 見たところアキヒト君に良く懐いているようだが」
「あー、こいつはですね……んーと、……まあ、相棒というか仲間というか……」
契約者……いや、仰々し過ぎるか。いい言葉が出ない。
説明するのもややこしいし、別にもう使い魔でよくね? 似たようなもんだろ?
と、そんな俺の煮え切らない態度が気に食わなかったのか、ディズが口を挟んできた。
「主、何をゴニョゴニョと言っておるのじゃ、儂は主の守護神じゃろう!!!」
ダダーン!!! とディズが迷いなくそう公言した。
「………………」
「………………」
そして訪れた沈黙。この時の俺とモンさんは、きっと同じ気持ちで結ばれていただろう。
しかし守護神とはな。いや、間違っちゃいないけど、そんなことを真顔で仰るとは。なんて怖ろしい子……!
ほら見ろ、モンさんもどう受け取ったらいいのか困っているではないか。ここは俺がフォローしなければ。
「モンさん。どうか、言葉通りに……」
「…………あ、ああ。……守護神、なのか」
呆気にとられて、うまく意味を呑み込めていないようだ。
ちょっと面倒くさいが仕方ない、ずっと騙していくのも心苦しいのでここで話してしまおうか。
――というわけで、俺は語りだす。
ディズは実は精霊であり、ある遺跡の守り神だったこと。
ある事情で俺を助けるために、命を張ってくれたこと。
そのせいで俺と契約を結ばなくてはならなかったこと。
だから守護神なんて言葉も、決して間違ってはいないこと。
色々と掻い摘んで、まぁ、一通りのことは分かってもらえたと思う。
ついでに俺が異世界人だってことも話した。たぶん命を狙われているということも。
たぶんモンさんなら大丈夫だと思ったし、できれば協力者も欲しかったっていうのが本音だ。
「そうだったのか…………成程。君達の関係はわかったよ。私にもできることがあるなら協力しよう」
そう言ってくれるのを待っていました。
「ありがとうございます。ああ、でも俺のことは他言しないで下さいね」
「無論だ、弁えている」
事情を知っている協力者が増える、というのは思ったより心強かった。
このままネットワークを広げるのも良いかもしれない。考えておこうか。
「しかし……道理で何も知らない訳だ。マルキューイも知らないなんて、おかしいとは思ったんだよ」
「マルキューイ? 一体なんの話なのじゃ?」
◇◆
予選も勝ち上がって、今日はもう予定がなかった所にマルキューイの話。
さらに先日俺がマルキューイを見せてくれ、と言ったのをモンさんが覚えてくれてたようで。
――そんなこんなでやってきました、マルキューイを愛でる会!
場所はギルドの預り所。そこの一角にはペット達と戯れるためのブースがある。
そこは旅に疲れた人達に癒しを与える空間だ。遊具なんかがいっぱいあって、子供の遊び場みたいな所。
この部屋もそれなりの広さがあるが、今は大会が開かれてるから誰もいない。つまり貸し切り状態である。
「そのココちゃんとやらは一体どこに……?」
「そう慌てるな。ちょっと待っていろ、すぐに連れてくる」
そう言って、モンさんはココちゃんを引き取りに一旦部屋から出て行った。
その間俺は手持ち無沙汰なので、床に寝ころんで戦いの疲れを癒すことにした。(あんまり疲れてないけどね)
「ディズはマルキューイ見た事あるのか~?」
俺は空色に塗り替えられた天井をぼ~っと眺めながら、ディズに訊ねた。
「あるぞ。あの丸くてポヨンポヨンな生き物じゃろう?」
丸くてポヨンポヨンて……なんだかいけない生物を想像してしまいそうである。
「カワイイの?」
「儂にはよくわからんが……村の者達はよく其奴等を愛でておったの」
村の者……アルメキスの人達か、そういや昔は彼らに崇められていたんだったか。
やっぱり昔の思い出とか色々とあるんだろう。ディズってたしか四百歳だもんなぁ。
でも今は皆に忘れ去られてしまって……俺が言うのもお門違いだけれど、それって結構辛いはずだ。
「ふ~ん、昔から人気あったんだな……」
「今も昔も、変わらないものもあるということじゃな」
「……………………」
い、意味深発言来たああああああ!!!!
もしや人の心は変わってしまったがな、とかそう云うこと?
そうか、やっぱり寂しかったんだな……うん、この話題はやめとこう。
ごめんな、俺はディズの気持ちを全然考えていなかった。
「そういえば、村の警備にも役立っておったか」
もういいんだ。無理に思い出さなくていいんだ……。
「彼奴らは危険を察知するのに優れている種族でな。近くに魔物がくると真っ赤になって騒ぎ出すのじゃ。儂もよく彼奴等を脅かて遊んだものよ。毎度楽しませてくれたのぉ♪」
「……な、な~る。ハザードランプ替わりになるというわけか。プリチーなだけじゃないのね」
……どうやら俺の早とちりだったらしい……ていうか、紛らわし過ぎだろう。
前からこいつは、偶に意味深なことを素で言う時がある。これだから天然ってやつは怖い。
――ギィィ。
あ、モンさんが帰ってきた。
起き上がって見ると、何やら薄ピンク色の物体を胸に抱いている……おお、ついにご対面か……!
「その子がココちゃんですか!」
「ああ、見てくれ。この愛くるしい姿のココちゃん、ん~癒されるぅ~」
ギュ~とココちゃんを抱き締めるモンさんは今にも蕩けそうな顔をしている。(別人?)
そして彼女のはち切れそうな胸の中にはココちゃんが……羨ましいな、おい。
大きさは人の頭一個分くらい、表面はすべすべしてそう。確かにすげー触りたい。(ココちゃんだぞ?)
「かしてかして」
「はぁ~、もうちょっと……ん~~~~…………はふ。……よし、いいぞ」
愛情たっぷりのハグを暫く続けた後、やっとココちゃんを見せてくれる。
顔を上げたモンさんは、既にキリッとした表情になっていた。あ、モンさんだ。
「そ~っと、そ~っと」
俺は恐る恐るその桜色の物体に手を近づけていく。
モンさんに腕と胸に挟まれて細長くなった上辺には、真ん丸な目と口があった。俺のことを見上げている。
こうして見ると丸くて小さなスライ〇みたい。メタル化しても生態系の頂点にはなれなさそうだ。
それが瞳を潤ませて此方を見つめている……こ、此奴、人の庇護欲をそそる術を知っている……!
怖がらせないようゆっくりゆっくり近づいて、ついに俺の掌がココちゃん(の頬?)にピタッと接触した。
「………………」
取り敢えず体温は人並み程度、ずっとモンさんが抱きしめていたせいかもしれないが。
掌で揉んでみた。
――ぷにぷに。
おお、マシュマロのように柔らかい!
――ぷにぷにぷにぷに。
「……ぉぉおおおお!!!」
感慨に耽る。何ともいえぬこの充足感に、ずっと触っていたい衝動に駆られるが――。
その衝動は我慢して、今度は掌で優しく叩いてみた。
――ぽよんっ。
「おおおぉぉぉおおおおお!!!!!」
不思議だ! 不思議生物だ!! スーパー癒し生物だ!!!
――ぷにぷにぷにぷに。
――ぽよんぽよんぽよん、ぽよよ~ん。
「おおおぉぉぉおおおおおおぉぉぉおおおおお!!!!!!!」
「主よっ!! いい加減にせいっ!!! いつまで触っておるのじゃ!!!!」
バシィィ! と華麗な垂直飛びを見せたディズに頭を叩かれる。
ちょっと痛かったが、そのおかげで俺は正気に戻る事ができた。
「はっ!? や、やべぇ……危うく飲み込まれるところだったぜ……」
「ふっふ~ん。どうだ、堪らないだろう? グッとくるだろう? もっと虜になってしまうのだっ! ほらほらっ」
シタリ顔でココちゃんを抱きながら、それを俺に押しつけてくるモンさん。
然し……くっくっく、笑わせてくれる。貴女は俺を甘く見過ぎですよ。
先程は不意を突かれてしまいましたが、正気に戻ったこの私がその程度の誘惑に惑わされるとでも?(紳士っぽく)
「ほれほれ、ぷにぷにぷにっ……うわぁ~柔らかい、ぷよぷよっ……もっと触りたいなぁ~♪」
「ふっ……まだまだ…………!? うぉぉぉぉ……むぎぎぎぎぎ」
(ななななっ! ほ、頬っぺたにっ! 反則、それ反則!!!!)
ココちゃんの秘めたる魅力に、既に可笑しくなっている二人。
放っておけば際限なく続くと思われた二人の奇行は、しかし唐突に終わりを告げる。
何故なら、その二人に裁きの鉄槌を下す神がここに降臨しているからだ。
「まったく……何をやっておるのじゃ!! 主等はっ!!!」
「うっ!?」
「ぎゃあああああーーーっ!?」
パシッ、ドゴッ!!! と、モンさんと俺はディズにしばかれた。
突然頭をハンマーで殴られたような痛みが走り、俺は頭を抱えてその場に転げ回る。
いってぇええええッ!! ちょ、これはどう考えても本気の一撃だろっ!? 何を考えてやがるっ!!!
「だ、大丈夫か……?」
のた打ち回る俺を見て、モンさんが労わりの言葉を向けてくれた。
あれっ? ちょ……本気で殴られたのは俺だけなのか……!? おまえ、俺に恨みでもあるのかよ!!!
「無用じゃ、心配はいらぬ」
モンさんの言葉に応えたのはディズの無機質な声だった。ぐぐ……ディズめ、覚えてやがれ。
「プル?」
その時、頭を抱えて床に蹲っていた俺の耳に聞き慣れない音源が届く。
「……ぷる?」
――なんだ、空耳……?
「プルル? プルププ?」
「――っ!?」
今度は痛みとは違うショックに、俺はさらに頭を抱え込む。
どうやらさっきの衝撃で俺の脳はやられてしまったらしい。
こんな訳のわからない幻聴が、これから俺を苛み続けるというのか……。
「どうしたココちゃん? お腹でも空いたのかな~?」
次にモンさんが聞こえた。
大丈夫、普通の声も聞こえる……大丈夫……大丈夫……。
「どこか痛むのか? どうしたんだ?」
ふむ。何やらモンさんの声から察するに、ココちゃんの様子がおかしいようだ。
可哀想に……暴力の化身であるディズの恐ろしさを目の当たりにして、恐怖に身を震わせているに違いない。
そう思って心配になって顔を上げると、いきなりココちゃんがモンさんの胸の中から俺に向かって飛び跳ねてきた。
「プルルル!」
「おわっと!?」
「プルル、プルルル~!」
「ん? ……あぁ、なんだ……ココちゃんの鳴き声だったのか。はぁ~ビビらせんなよ~」
どうやら俺の頭は無事だったようで、ほっと胸を撫で下ろす。ついでに軽くココちゃんを揉む。
ところでココちゃんは何故俺の所へ……モンさんのキツイ抱擁に耐えきれなくて逃れてきたのかな?
「あぁぁ、ココちゃ~ん戻っておいでぇ~(涙)」
突然自分から離れて行ってしまったことに傷ついたのか、悲しそうな声色でココちゃんを呼ぶモンさん。
「プルプププ~♪」
そんなこととは露知らず、ココちゃんは俺の腕に抱かれながら嬉しそうに鳴いている。なんか……すいません。
あ、そうか。ディズに殴られて俺が蹲っていたから、心配してくれたんだな。
こいつは、なんて良い子なんだ。ディズにもその優しさの半分でいいから見習ってもらいたい。
「なんじゃ、へらへらしおってからに! 貴様の主はモンモレットの方じゃろう? 早う主から離れよ!」
そんな可愛いココちゃんに悪魔と化したディズから叱責が下る。
やめろ、何を言っているんだおまえ。下らない誹謗中傷は己の尊厳を貶めることになるぞ。
「プルルイ!」
「う、五月蠅いじゃとぉ!? おのれ小童が、儂に向かってそんな口を聞いて良いと――!!」
……………………、…………え?
俺はモンさんと目を合わせる。あちらも事の重大さに気付いたようで、自然とアイコンタクトが成立する。
――キリリッ。(ここは俺から行きましょうか?)
――コク。キッ。(ああ、頼む。くれぐれも慎重にな)
――パチパチ。(了解っす)
この間およそ一秒。これぞ人類が獲得した最速のコミュニケーション。
「ディズ……」
「――のじゃ! 大体、主が寛容じゃからこそ貴様はそこで安穏と「ディズ!」なんじゃ、今取り「喝!!!」」
「――みゅっ!?」
さっきから聞いていれば、何ココちゃんを苛めてんだ!?
ココちゃんが一体何をした……っと、これは後回しにしよう。今言いたいのは――。
「な、なんなのじゃ、やはり其奴が邪魔なのか? それなら……」
「んな事より、おまえ、こいつの言葉が解かるのか?」
ココちゃんを横からバシッと両手で掴んで、ディズの目の前へ移動させる。
これで解からないとか言われたら、俺もお返しに一発叩いてやろう。さあ、どうなんだ!?
「うむ、解かるぞ。儂は言葉ではなく、もっと深い念の部分で言語を解しておるからな。大抵の者の意図は読み取れるのじゃ」
知られざる新事実発覚!
「やはり……そうだったのか……!」
「信じられん、本当にココちゃんの言葉が解かるのか……!」
「ふ、ふん。主等も漸く儂の凄さが解かったようじゃな」
俺とモンさんは地味に感嘆する。
ディズはそっぽを向いてしまったが……たぶん照れてるだけだろう。
ココちゃんの言葉自体を理解してるわけじゃないのか……まぁ何れにしろ意外と使えそうな能力。
ん、待てよ? 意図を読み取ってるということは……こいつに嘘は通じないってことじゃないか!?
……え? じゃ、じゃあ……今まで俺が吐いた嘘も!? ……な、なんてこったっ!!!
「ま、まさか……嘘、とかも解かるのか……?」
戦々恐々としながらも、俺はなんとか疑問を絞り出す。
「まぁ、場合によって、じゃな。読み取るれのは単純なものじゃからのぅ。人のように複雑な意図を持っておると読み取れん」
「全部が解かるわけでもないのか……成程」
セ、セ~~フ!! あからさまな嘘でなければ大丈夫らしい。
俺が安堵のため息を吐いていると、ココちゃんの聞き慣れない鳴き声が。
「プルルップ、プルルップ」
「い、今何と言ったのだっ!?」
モンさんがディズの前に手をついて、顔を鼻先まで接近させて問い詰めた。
まぁ、愛するペットの気持ちが解かるなら、是非とも知りたい所だろうからな。
「……ご主人様、ご主人様、と言っておる」
「え、私かっ!? あぁん、ココちゃん!! なんて気無げな子なんだ。よ~しよし、ほらおいでっ♪」
俺の手からココちゃんを引っ掴み、熱く抱擁するモンさん。
それにしてもペットにあんなに慕われてるとは……なんか良いなぁ。
ここまでとは言わないが、せめてディズにはもう少し俺の扱いを……。
「プップップ~」
ココちゃん、そんな歌まで歌って……成程。よほど気持ちが良いんだな、モンさんの胸は。
「うぬぬぬぬぬぅ~」
「ど、どうしたディズ!?」
いきなり唸り始めた。まるで腹の減った肉食獣ばりの形相だ。
……ま、まさか、今の俺の考えを読んだんじゃないだろうな?
いや、そこまでは読み取れないはずだが……だとすると、原因はなんだ?
「主! 主っ!」
「……なんだ、そんなに力んで……腹でも痛むのか?」
「儂を奴より高く持ち上げてくれんか!」
「はぁ?」
意味が解からん。俺の考えが読めてないということは分かったが……。
どこかで頭でも打ったのか……否、頭打ったのは俺だ。うう、ちくしょう。思い出したら痛みがぶり返してきた。
「早うせい、持ち上げるのじゃ!!」
こいつ……マジで偉そうに言うよな。
俺がこんなにも温厚なのは僥倖であるとしか言えないぞ。
「はぁ……わかったから、おまえはちょっと落ち着け。……ほいしょっと、ほらっ、高い高~い……これで満足か?」
俺はディズを両手で掴んで高く持ち上げてやる。う、結構重いな。
然しここで強化魔法を使ったら「儂は重うないぞ!」って怒るんだよな……ったく、世話を掛けさせやがる。
「ふっふっふ~」
人がせっかく高い高いしてやったというのに、なんと嘲笑の笑みを浮かべるディズ。
え、何その態度。あんまり調子に乗るなよ? 仏のような俺様にも我慢の限界ってものがあるんだぜ?
「プ、プルルルルルゥ~」
「ど、どうしたココちゃんっ!? どこか痛むのか!? 大丈夫か!?」
あれ? 今度はココちゃんが唸り始めたぞ? ココちゃん大丈夫!?
「どうしたんです? ココちゃんに何かあったんですか!?」
「のわっ! こ、こらっ、主よ何故降ろすのじゃ!?」
持ち上げていたディズを素早く地面に戻して、俺はココちゃんの様子を見る。
と、さっきまでは桜色だったのが少し赤みがかっていた。色が変わっていると云うことは、どこかに異変があるのか?
体内魔力に異常は……感じない。周囲の魔力もおかしい所は見当たらない。おそらく大事ではないと思うが……。
「主、主! もう一度じゃ!」
「ちょ、もういいだろ? 今はそれどころじゃねー!」
「プププ~」
……あれ? ちょっと目を離した隙に、ココちゃんの色がいつの間にか元に戻っている。
鳴き声もなんだか楽しそうな感じだ……今のはなんだったんだ?
「おや? コ、ココちゃん、もう平気なのか? どこも痛む所はないかっ?」
「うぐぐぐ、主っ! もう一度頼む!!!」
「おい、痛い痛い! 爪で引っ張んな! ズボン破けちまうだろうがっ!!」
「あと一度だけ「プップップ~「ココちゃん!!」」頼む「マジ破けるからやめて!」主っ!!」
ちょっと場が混乱してきた。周りに誰か居たら、絶対に注意されてる。
なんでこんな事になっているんだろうな。ここは癒しの空間じゃなかったのか?
「アキヒト君、一応念のためにココちゃんの様子を見ておきたいのだが……」
慌しい中、モンさんが俺にそう述べる。
確かにココちゃんの体色の変化については俺も少し気に掛る。
「そうすね、なら俺達も一度部屋へ戻りますよ」
「ああ、すまんな。それじゃ出ようか」
モンさんはかなり心配なのか、ココちゃんをきつく抱きしめ圧迫しすぎているような感じだ。
心配なのはわかりますが、ちょっと力を入れ過ぎでは……なんとなくココちゃんの色が青くなっているような……。
「ゥプ!? ゥプププププ!!!」
まぁ、今は何を言っても無駄かもしれない。あとでしっかり見てもらえるだろうし。
「主、もう一度「何してんだ、置いてくぞ」ひゃうっ!?」
俺はぐずぐずしていたディズの首根っこを引っ掴んで、そのままモンさんと一緒に部屋を出ていった。