016話 予選開始!
『さあさあさあ!!! 今年も始まりましたジュノン国選武道大会!!! その予選を勝ち抜くのは一体誰だ~~っ!!!!』
――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
耳に響くエコー音。それを覆い尽くす歓声の嵐。
今日は晴天、そして皆さんのお待ちかねらしいジュノン国選武道大会の予選会当日。
ここはどっかのコロシアムみたいな、ドでかい円形闘技場。今、大会の開会式が始まったとこ。
会場には見渡す限りの人人人。これ、リドリアの街の全員が押しかけてるんじゃないだろうか。
「……人多過ぎ。やっぱり面倒くさそうだなぁ」
「参加者や観客が皆集まってきているからな。明日になれば少しはましになるだろう」
俺の横からそう言ってくるのはモンさん。朝に突然部屋に来て、さぁ行こうか、なんて仰られた。
俺が大会に出るなんて言ってなかったはずなのに、なんでこの人知ってたんだろうか? 謎である。
しかし、モンさんのせいで朝からディズの疑惑の眼差しを受けて大変だったのだ。
モンさんの紹介とか知り合った経緯とか説明するだけで色々と疲れたよ、なんか恐かったし。
因みにディズの強い要望(てっきり反対かと思ってた)があって、参加の申請をしたのは期限ギリギリの一昨日。
俺がこんな大会あるらしい、なんてことをボソッと漏らすと、意外と食いつてきた。そんで賞金の話になると――。
「何っ!? 優勝するだけで金貨100枚じゃと!? そんな良い話は滅多にないぞ、主よ、さっさと申し込んでくるのじゃ!」
ディズ、ご乱心である。金に目が眩んだ、即物的な神様って……否、もう何も言うまい。
ところでディズの中では俺の優勝は確定しているのだろうか? たぶん、思考回路が常人とはかけ離れているんだな。
参加に関してはちょっとゴネてみたのだが、あまりの勢いにそのまま参加することになってしまった。
いや、正直どっちでも良かったんだけどね。ディズの様子からして予選は突破しないと何か言われそうなのが嫌だった。
それにしても、こんなに人が多いとは思わなかった。
顔とか隠した方がいいのかもしれない……いや、そこまでするのもまた面倒か。毎回変装するとかマジ苦痛だ。
「あのー、モンさんは今日は出ないんですか?」
俺がそう言ったのは、そろそろ試合が始まるというのに、モンさんがラフな軽装のままだったからだ。
ノースリーブに胸元の開いたトップ、下はホットパンツという素敵なお姿。いろんな意味で凄いといえる。
とにかく朝から刺激的過ぎだ……。それに思ってたより凄いのものを持っていらっしゃる……D、いや、Eかも?
見た感じ胸が強調されていて、マジ誘惑されてるのかとか思ってしまう。目のやり場に困るなぁ、もうっ!(笑顔で)
これは眼福…ゴホ、ゴホ……とにかく、これから戦いにいく服装ではないだろう。それを言いたかったんだ!
「ああ、君は大会の説明も見なかったのか。今日戦うのはCランクとBランクだけだ。人数が圧倒的に多いからな、要するに絞り込みだよ。予選の予選のようなものだ」
「というと?」
「初日は多数で戦うサバイバル方式をとる。それで予選の人数も有る程度絞れるから、明日からは1対1で戦う」
確かに考えてみれば当然だ。これ程の人数であれば、その対戦方式にも納得。
傭兵じゃない人も参加しているだろうが、彼らも俺達と同じサバイバル組からのスタートらしい。
不利じゃね? こんな事ならさっさとAランクに昇格するんだった。どうやったらなれるんだっけ?
「だから今日は私は見学だ。ふふふ、ついでにアキヒト君の応援もしてやろう」
「マジッすか。それなら俺、頑張っちゃおうかな♪」
こんな美人でエロい格好の人が応援してくれるなら、これ以上は望まない。男として決死の覚悟で臨まねばなるまい。
「……主よ、儂の応援では不満かの?」
……え? そう取っちゃう!?
ずっと横に居たディズから何やら不穏な気配が立ち上る。
待った待った待った、何だこれ、どうしたんだいディズさんっ!? 朝から変だよっ!?
「も、勿論、ディズの応援があってこそだ。じゃあ俺はそろそろ会場に行ってきます」
「あ、待つ「それではっ!」」
なんか嫌な予感がしたので、ただちに現場へ向かう。
う~ん、逃げたのは良かったが、後でフォローを入れておかねば。どうしよう?
俺はそんなことを思いながら、控え場で試合が始まるのをただ待ち続けるのであった。
◆◇◆◇◆◇
『それでは準備はよろしいでしょうかぁああああああ!!! 長らくお待たせいたしましたっ!!! 予選Aブロック、第一回戦ーーーーーー!!! 試合開始だあああああああああああ!!!!!!』
――ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
カンカンカーン、と鐘が鳴っている……と思うのだが全く聞こえない。
周りの野郎共が野獣に咆哮で叫んでいるせいである。数が数なので地響きでも起きそうで少し恐い。
皆、集団催眠にでも罹っているのかのようだ。マジで大丈夫か? 命の遣り取りまではしないよなっ!? なっ!?
と、そこに眼前から一人の若者が向かってきた。短剣でもって俺に斬りかかろうとしてくる。
強化した身体で軽やかに剣を躱して横に蹴り飛ばす。おっと、横から違う奴が……あ、こっちにも……。
ちょっと頑張ってみた。俺の周りに居た奴らを殴って蹴ってのしていく。ふぅ、これで空間が確保された。
他の周りの奴らは俺の足元に転がる惨劇を見てビビったのか、此方には近寄って来ない。うむ、それでいい。
円形闘技場の中にはまだ50人くらいの傭兵達が蠢いている。初めて見る戦場。いやぁ、壮観だ。
適当に減っていくまで、ここでやり過ごそう。時折何人か向かってくるが、返り討ちしていくので問題はない。
皆Cランクの人々なので、魔法が使える奴はそういない。
そのかわり、剣や槍とかの武器の扱いは俺の比ではないんだろうが。
まぁ俺の強化魔法はディズのお墨付きだし恐れることはないだろう。
今回は俺も一応フル装備でサバイバルに臨んでいた。
決勝までには俺の愛刀、士さんにも出番が回ってきそうである。
因みにこの闘技場内で、最後の二人になるとそこで試合は終了だ。
そんなに絞ってしまうのか、とも思うがやはり理由はある。
その理由というのは驚くなかれ、Cランクの参加者は弱いから、だ。
当然、予選にはAランクの人も参加しているわけで。
つまり、『え? どうせおまえら負けるでしょ?』と云うことらしい。
そしてその考えは確かに間違ってはいない……俺もそう思っているし。
……物思いに耽っていたが……さてさて、現場は今どうなっているのか。
現在開始十分弱(体感で)、そうこうしている内に敵の数も減ってきているみたい。
今残っているのは、おそらくCランクの中でも熟練者ばかりだろう。……Cランクの熟練者か、なんか微妙だな。
弱くは無いが強くもない……否、表現としては下の上くらいが丁度いいか。そんな人たちが残っているわけだ。
見た感じ強面のおっさん達が多いが、その中に一人だけ俺と同じくらいの青年がいた。
「せいっ、とうっ!!!」
「うぎゃあ!!?」
ほほう、中々の剣捌き。そいつは目の前にいた二刀流の傭兵を、一刀で切り崩した。
少し気になって、そいつの動向をチェックする。お、また一人、敵を地に葬っている。
なるほど、強い……残っているCランクの人達の中でも、一際異彩を放っている。
見た目は金髪の純朴そうな青年なのに、その身のこなしはCランクのそれを遥かに凌駕していた。
これは所謂伏兵ってやつだろうか?
どうやらCランクにも少しは骨の有る奴がいたようだ。もしかして、魔法でも使えるのかも。
なんとなくそう思って、魔力の気配を探ってみると……あ。やっぱり魔力の反応があった。
俺の眼から視ても、身体を覆う魔力が通常の人より濃密なのが視て取れる。
たぶん、強化を使ってるんじゃないかと予想する。……あ、やばい、こっち来た。
「楽はさせませんよっ!」
「お!? っとっと」
空を切り裂く鋭い斬撃。その衝撃に地面が抉れる。
「なっ!! 躱した!?」
ちょっと吃驚している。確かに油断していたから、面っきり隙を突かれた。
強化がなかったら、今頃俺は斬られて倒れていただろうな。さ~て、どうしようか……。
「せい!!!」
俺が躱した所に透かさず追撃をしかけてくる青年。
今度は俺も臨戦態勢なので、軽く反応することができた。
「とぅふっ!!」
士さんで受ける。
咄嗟に変な声が出た。普通にスル―される。
俺は顔を少し赤くさせながら、真横から迫る剣撃を逸らす。
「ちっ!」
ついでに相手に隙が出来たので、ささっと剣を弾いてみた。
「ぐぁああ!!!」
が、相手は剣を握ったままだった。痛そうな呻き声を上げたが、しっかり剣を握ったまま離さない。
あれ? って、そういえば強化を使っているんだったな。くそ、もうちょっと強めにやれば良かった。
俺は片手で士さんを握り、青年と対峙する。
そのまま後ずさりして、周りの様子を確認……あと5人。知らぬ間にかなり減っている。
これなら……なるたけ楽な作戦でいきましょうか。
「ちょっと提案が」
「……なんです?」
青年は警戒は解かずに口を開く。
「この試合は二人残ればいいわけだけど……」
「……手を組もう、ということですか?」
一言で俺の思惑を読み取ってくれた。どうやら頭も切れるみたいね。
「残っているのはあと5人。俺とあんたを除けば、あと3人だ。どうする?」
「……いいでしょう。それに貴方は少々手古摺りそうだ」
「OK、交渉成立だ。あっちの二人は俺に任せてくれ」
交渉を持ちだしたリスク。信じてもらうために誠意を示すこと。
たいして労力は変わらなかったので、残る人数の多い方に士さんの剣先を向ける。
「わかりました。なら僕は残る一人を」
そう言って、俺達はさっとその場を飛び退く。ふぃ~、なんとか一番面倒くさい奴は回避した。
その足で目標の二人に駆け寄っていく。よしよし、後は雑魚だけだ。なんて思って向かっていると――。
――ん?
二人揃って俺の方に向きやがった。どうやらこいつらも組んでいたらしい。
「あっ、後ろ危ない」
「「――っ!?」」
雑魚の二人は何事かと後ろを振り向く。
くっくっく、古典的な手に引っ掛かりおったわい。
「どわぁ!?」
「ぐぼぼぼぼ!!!!」
その隙を逃さず、素早くボコって撲殺(気絶させただけだ)。
一仕事終えて金髪の青年の方を見ると、あちらも片がつく瞬間だった。
倒れゆく大層な鎧を纏った男の頭が、太陽の煌きを反射してピカッと光る。OH,SHIT!
ドサッと最後の一人が倒れて、その場が静かになった。
――カンカンカーン。
高らかに響く鐘の音色。
今度こそ聞こえた、試合終了の合図が会場に谺する。
『決まったぁああああああ!!!!! 試合終了ォォォォォォォォ!!!! 予選Aブロックの勝者はぁーーーーっ!!! 意外や意外!! こぉの若者の二人だぁああああああああああああ!!!!!!』
――わああああああああああああああああああ!!!!!
辺りに響く拡声音と歓声の激。
そういやこの声は魔法なのだろうか? 声と云えば、モンさんの大声を思い出す。
あれにこの魔法が加わったら、もしかしてかなり凶悪な魔法とかになるのでは……!
いや、そんなことはいい。早く帰ろう。
俺はくぅ~、と背伸びをする。はてさて……あと何回戦えばいいのか。
後でモンさんに訊いてみよ。ああ、そういえばあの二人は何処に居たんだろう……。
会場を探してみたのだが人が多すぎて見つからなかったので、二人を探すのは諦めたのだ。
こんなことなら、二人がどこで見ているのかちゃんと聞いてくればよかった。
とりあえず、試合は勝ち抜いたので叱責を受けることはあるまい。
悠々と歩いて闘技場を離れる。気分が高ぶっていたので、観客に手を振りながら俺はその場を後にした。
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