013話 ここはリドリア
「そ、それでは、私はこれでっ」
依頼の報酬を支払い、そそくさと立ち去ってしまう依頼主。
何をそんなに怯えているのか、彼は馬車に乗っている間もずっとこんな感じだった。
俺が動けなかったから魔物の襲撃にも恐れていたんだろうかとも思ったが、それもどうやら違うようだ。
幸い魔物は現れなかったが……何にもせずに寝てたのにお金貰っちゃったな。まぁ、こんなこともあるか。
俺達がリドリアに着いたのは昼頃で、昼食を食べた後は街の探索。
この街の賑わいは中々のもので広い大通りには、旅の行商人や傭兵の人なんかも多く行き来している。
日照りも良いし道の両側には露店が並んでおり、辺りは雑多な喧騒に包まれていた。
初めてこの街に来た俺でも、人々に活気が漲っているのがわかる。良い街じゃないか。
「おお~、これだけあれば珍しいモンも売ってるんじゃないか?」
「まずは宿を取ってからじゃ」
表情の硬い声……此処に来る途中からなんだがディズの機嫌が悪い。
まぁそれは俺の所為らしいのだが、ちょっと記憶が飛んでるんだよなぁ。
俺が謝って許してくれたはずなんだけど、当の本人はまだ少し引き摺っている様子だ。
最初は口も聴いてくれなかったから、まだマシな方だが……。
しかも、歩くときは常に俺の後ろに陣取って離れない。
正直すげー怖い、表面上は平静を保っているけど内心ビクビク。今にも何かされそうで全然落ち着けない。
「そ、そうだな。まずは宿屋から行こう」
なので、ディズの云うことには当分逆らわないことにする。(って云うか逆らえん)少し急ぎ足で宿屋を探しに行く。
向かう場所はこの街のギルドだ。
話によれば、大体何処のギルドにも旅に必要な施設が併設されているそうだ。勿論他の場所にも宿屋や武器屋とかはある。
ギルドは質より量を重視しているから、質の良いものを探すとなると別口の方が良いらしい。(ギルド受付のお譲ちゃんより)
まあ俺は傭兵だからギルドの方が効率いい。ってか、この街は結構広い。路地裏やら狭い通路が至る所に……ギルドは何処だ?
道に迷いそうな時は人に尋ねるのが一番良い。
困った時の人頼み。……とまぁそんなこんなで五分後、漸くギルドに辿り着いて。
「でっか!!!」
と、思わず声に出るくらいにはデカかった。
バーミュラーの3倍は有りそうな大きさの建物だ。マジで宮殿かと思った。
その大きさに感心しつつ戸口を開けて中に入ると、広いロビーに出た。そこにいるのは人、人、人。
やっぱり人が多いなぁ……うわぁ、なんだあそこの行列は。依頼の受付じゃないけど、ごついのがいっぱい並んでいる。
少し気になったが、用があるのは宿なのでそちらを優先する。えーっと……宿屋の受付は……あれかな?
「あのー宿取りたいんですけど、空いてます?」
「はい~、空いてますよ~。お一人様ですね、え~……はぁい、こちらの33号室になります~」
「どうも~、あっちでいいんですよね?」
「はい~、あらぁ、そちらの猫ちゃんはお預けになりますかぁ~?」
「いえいえ、いいです~」
パパッと宿を取る。受付はちょっと間延びした口調の、おっとり系のお姉さん。
前のギルドでもそうだったけど受付譲の人達は皆レベルが高い。
良い仕事してるねギルドの人達。一度ギルドの審査員とかになってみたいぜ。
そんな余韻に浸りながら部屋へと到着。さて、余計な荷物も置いたしこれで街の外へと行ける。
「良し、露店で掘り出し物でも探すか!」
「ん? 主は街へ出るのか。なら儂はしばらく眠っておるぞ」
「え? ……やっぱり体調悪いのか?」
「なに、別に悪いわけではない。少し休みたいだけじゃ」
そうは云っても、どことなく本調子では無さそうに見える。
う~ん、まぁ本人が大丈夫と云っているのでなんとも言えないか。
ディズはもう布団の中へ潜っていたので、一言労わりの言葉を掛けて俺は街へと出た。
・
・
・
「確かこっちの方だったよな……」
結構入り組んだ構造のくせに広いの街なので、場所が良くわからない。
まぁ道を覚える意味も含めて、喧騒の大きい場所に向かって歩いていく。
暫く歩くと予想通り露店や屋台などがちらちら見え始めた。店を物色しつつも足を進め、昼間通った大通りに出た。
「ふふん、掘り出し物はあるかな」
ひとり不敵に呟いて出店を回る。
一目見渡しただけでも、果物などの食料品や骨董品、生活用品に至るまで様々な物が売られているのがわかった。
さてさて、この中に俺の目に敵う物がどれだけあるか……。
本当は図書館にでも行って地球に帰る手掛かりを探す所だけど、本は逃げないし。
今は観光客の気分で露店を見物。見たことのない食べ物や見せ芸なんかも有り、見ているだけでも十分楽しめる。
取り敢えず日持ちする食料とか消耗品なんかも買ったりして……。
よしよし、これで最低限の物は買ったかな……?
この通りの店も大体回りつくした感じ、目ぼしい物はなかなか無かったりしたもんだから不完全燃焼気味だ。
そんなことで、ちょっと道を逸れた場所へと足を運んでみる。大通りを曲がって裏道を通る。
ここにも出店や露店は出ているのだが……見た感じどうも怪しい。と云うかここら辺は人気も少なくなっている。
引き返そうか……と、後ろを振り返ってみた。
まさかの展開。
如何にも怪しい人達が4人、俺の後方10メートルくらいのところに。
絶対に俺が通った時にはいなかった。……尾行だ。
――面倒くさい。
どうもなかなか、楽しむだけとはいかないようだ。
相手は4人、俺は睨むその眼に力を入れる。……奴らの魔力に異常は無い。
――だが、容赦はしない。
せっかくのお楽しみの所を邪魔されたのだ、それなりの落とし前はつけさせてもらおう。
――魔力を練る。
魔力の生成に慣れた俺の体は、瞬時にその効力を発揮する。
強化の魔法が発動するまで、約1秒。最近はイメージにも慣れてきた。
最初の頃は5秒は掛っていたから、これも進歩だ。この調子ならもっと速くなるだろう。
――READY?
心の中でリズムをとっていた。それは赤から青に変わる信号の合図。
持っていた荷物を地面に置く。こんな事はさっさと終わらして、買い物を続けよう。
――GO!
脳内で火花が散った。大地を蹴り、高速で移動する。
もはや人の動きを逸脱したそれは、相手の目にはどう映っているのだろう。
思考の速度さえも限界を超え、今や俺以外の全てが鈍くなっているようだ。
人形のように決められた動きをする相手を、俺は造作もなく片手で叩き潰した。
事は数秒で済んだ。まぁ、手加減はしておいたから死んではいないだろうが、数刻は意識を取り戻せないだろう。
俺は荷物を拾い上げ、裏道を戻る。あ、また筋肉痛が酷くなった。せっかく治りかけていたのに、また半日程は掛りそうだ。
「あ~、そこの兄さんや、これなんかどうだい?」
大通りに戻ろうとして他に尾行は無いな、とキョロキョロしながら歩いていると、露店の爺さんに声を掛けられた。
その爺さんが手にもって翳しているのは、薄汚れた……指輪? 良く見るとうっすらと魔力が宿っているのが見えた。
「……ただの指輪じゃないな」
「ほほう、分かるのか。そのとおり、これはただの指輪ではない。ある魔法が掛けられている」
「へぇ、どんな魔法が?」
「強化の魔法だ。これを嵌めると力が何倍にもなる。希少な石だぞ、どうだい、すごいだろう?」
ふ~~む、強化の魔法……ねぇ。魔法が使えなくてもこんな物があるのか……こう云うのは珍しい感じだな。
まぁ俺自身強化の魔法が使えるから、俺にはあんまり必要無いけど。でも、普通の人なら欲しがる人も大勢いそうだ。
「ふ~ん、嵌めていればずっと効果があるのか?」
「いやいや、そんなことは無い。中の魔力が無くなれば効果は無くなる」
「どれくらいで無くなるんだ?」
「さぁ? 私は魔法が使えないのでな。まぁ魔力を補充すれば使えるようになるとも聞いたが、専門的なことは何も知らんよ」
そんなもん売っていいのか? 一つ間違えればぼったくりになるんじゃ……否、それでも買う奴はいるのか。
俺は魔法も使えるし……それにこの石、結構興味深いものだしな。後で図書館に行って、じっくり調べてみよう。
「値段は?」
「銀貨10枚」
「は?」
10万円。思ったよりも高かったので思わず声が出た。
でも俺は相場を知らない。見た目からして安物かなと思ったが、やはり石が高いのか?
「……のところ銀貨5枚の半額だ」
「…………」
「そう云えば今日は特売日でな、さらに半額に」
「良し、貰おう」
どんどん値段が下がっていく。いきなり元値の4分の1とは……どれだけ吹っ掛けられたんだよ。
それでも爺さんの顔を見る限り利益は上げているようだし……ひょっとしてかなりの安物?
まぁ珍しい物が見つかったので良しとする。この技術を応用すれば、結構便利な物も作れそうだよな。
これで目的も達成したし、時間も経った気がする。そろそろ一度宿にでも戻ろうか……なんて考えていると――。
――ドン!
突然、背後からの衝撃。えっ? と思った時には俺は倒れ込んでいた。
「あっ、すまないっ……!」
聞こえたのは雑踏の声に埋もれるような小さな響きだった。それだけ残して走り去ってしまう犯人。なんだ、一体……。
「おうおうおう! 邪魔だ小僧!! どけぃ!!!」
「うわっ!?」
またもや背後からの声。今度はぶつからなかったが、俺のすぐ傍を勢いよく大男が駆けていく。
「待てぃ! 逃がさんぞ!!」
どうやら俺を突き飛ばした犯人を追いかけているようだ。
もしかして俺は巻き添えを喰らったのか……。全く、喧嘩は迷惑の掛らないようにして欲しいものだ。
パンパンッと服を叩いて立ち上がって……ん? 何か落ちているな。あれ? でも先刻までは何もなかったような……。
――って、これっ!?
ギルドバッジを拾った。何だ何だ、俺のじゃないぞ……ってことは先刻ぶつかった奴のか?
俺はバッジを裏返してみる。実はギルドバッジの裏側には登録者の情報が書かれているだ。
よって、バッジを見ればそのバッジの持ち主が分かる。
登録者……モンモレット・リャナンシー。
どうやらそれが犯人の名前のようだ。この名前……犯人は女だったのか。
バッジの型も俺のとはちょっと違う。俺のは盾のデザインだけど、これは剣と盾が描かれている。これってAランク……?
因みにバッジのデザインはDランクが無印、Cランクが盾、Bランクが剣でAランクは剣と盾。
そしてSランクには剣と剣が描かれている。
まさか傭兵だったとは……って、一応これ返しに行かないといけないよな。
追いかけられていたけど、助けに行くべきか……? でもAランクの傭兵だしなぁ?
自分の身くらいは守れそうなもんだけど……それに場所もわからない。うん、こういう時はギルドに預けよう。
これ失くしちゃいかんだろっ、とか考えながら、取り敢えずギルドに向かう。
歩き回っていたので、既にこの街の構造はお見通しだ。
ついでにその確認を兼ねて、俺は来た道とは違う道を通って帰ってみることにした。




