011話 予定は未定?
「ディズ!」
「もう良いぞ! 下がっておれ!!」
俺は踵を返し急いで敵の大群から遠ざかる。強化した一足で、見る見る内に戦場から脱して。
「天を舞い降りる地上を舞い昇る――渦巻いて炎を交わす、天焔と地焔!」
――ゴォオオオオオ!!!
入れ違いでもの凄い勢いで炎の竜巻が発生した。熱風が辺りを駆け抜け、俺は顔を覆う。
敵の大群は逃げることもできず、そこにある全てが炎の濁流に飲み込まれて蒸発していった。
やがて炎が消えると、辺り一面が焼け野原に……おいおい、洒落にならねぇ。威力高過ぎだろう。
「やり過ぎじゃね?」
「久々であったのでな、加減を少し間違えたかの」
ディズは涼しそうな顔で野原を見やる。こ、これがディズの魔法か……マジに怒らせたら手に負えんぞ……。
「しかし、あの数を全滅させるか……恐ろしい魔法もあったもんだな」
「当り前じゃ、儂の最上級魔法じゃぞ? まぁ滅多に使えんが、ここ最近は主の魔力を溜めこんでいたからの」
出来そうだからやってみた、なんて云われてもな。
それだけ魔力が溜まってるのなら別に元の姿に戻れるんじゃ……否、消費が激しいとか云ってたな。
ってことはやはり俺からの供給量に難がある、と。成程。魔力の供給量、つまりネックはそこなんだよな……。
「さて、あの蜂みたいな大群も片付いたし、戻るか」
「うむ。儂も少々疲れたでな」
あんなもんをぶっ放すからだ! もっと魔力を蓄えておけ!
とか、そんなことを注意しながら、俺達は町へと帰っていく。日差しは今日も暑かった――。
――――これにて依頼達成だ。
☆★☆★
「こちらが報酬の銀貨20枚です。半分はギルド金庫に預けておきますね?」
「ぁざーっす!」
受付のお嬢ちゃんとはもう顔馴染みだ。
俺が何も云わなくてもちゃんと分かっていらっしゃる。
俺がギルドに登録してから早四日。血の滲むような試練を越えて今日に至る。(一度言ってみたかっただけだ)
俺のランクはCランクに上がったし、ギルドの金庫には銀貨100枚(100万円)を裕に超える大金が眠っている。
日夜休まず(気持ちはな、ちゃんと夜は寝たぞ)依頼を受けまくり、出来るだけ高い報酬のものをこなしていった成果だ。
手元には銀貨50枚に銅貨80枚ほどがある。金貨には換えない。お釣りがトンデモナイことになるからだ。
今や多少の出費にも困ることのない金額を手に入れ、有頂天気味。これで少しは旅の資金も目処が立ったかな。
「傭兵って儲かり過ぎじゃね?」
「普通の者は魔法が使えないからの。主は強力な強化が使える故、そう思うのじゃろう」
「本でもそんなことが書いてあったな……魔術師とかってそんなに少ないのか?」
「多くはないがのぅ。……まぁおる処にはおると云うことじゃ」
多くはないけど、それ程少ないわけでもないようだ。
まぁ、魔術師が全員傭兵って訳でもないし……寧ろ少ないのか?
今までCランクばかり依頼を受けてきたが、最初に戦ったジャンゴより強いヤツはいなかった。
今日みたいな数で攻めてくる魔物は数に入れない。あれは自然魔法がないとやってられないし。
図書館で魔物の本も借りたけどジャンゴはCランクの上級魔物(ディズの言ったとおり)だそうだ。
どうやら俺は、初っ端から一番の敵と当たってしまったらしい。楽勝だったが……。
それにこの剣、士さん(命名俺)も俺の魔力を流すことによって切れ味、耐久力ともに強化できたのでなかなかの名刀になっている。
刀と云えば士。十と一で……士、だから士さん。
因みにディズの案は秋飛刀……何故俺の名前を入れたんだろう? 何かの冗談だと思うが、その割に目が本気だったようで少し怖かった……。(当然、恥ずかしすぎるので却下したが)
防具も鎧なんかは動き辛そうなので買ってはいないが、鎖帷子を下に着ている。
最低限の小手やサポーターも購入。ディズにはマタタビに似た果実をプレゼントし、大層喜ばれたりもした。
さてさて、これで目先の問題は大体片付いた感じで。
住み慣れた宿でこれからの予定をディズと議論していく。
「ディズはどうしたい?」
俺の方針はあまり変わってないので、先にディズの意見を仰いでみた。
「儂の目的は主を守ることじゃな。主が死んでしまっては儂も共倒れになってしまう故」
……それは目的と言えるのか? なんか微妙だ。
「……ああ、契約してるからな。でもそれじゃ、お前のやりたい事も出来ないんじゃないか?」
「もう十分長く生きておるからのぅ。それにやりたい事も何も……あの遺跡にはもう用はないしの」
それは前に聞いていた。アルメキスの遺跡の守りはもう必要なくなったらしい。
と云うか、もう誰も寄り付かないからもう守る意味もない、と。確かにそうなんだが。
どうやら遺跡が祭壇に使われていた頃は遺跡の魔力が人々の信仰心に反応し、ディズの力へと変換されていたようだ。
しかし時が経つにつれ、だんだん人が離れていった。そのためディズも力を蓄えることが出来なくなってしまったのである。
そろそろ残りの魔力がヤバいなぁと思っていた頃、丁度俺達が召喚されて今に至ると……ん? 待てよ、なんか違和感が……?
「では主はどうしたいのじゃ?」
ちょっと引っかかるものがあったが、取り敢えず話を進める。
「俺は……そうだな。雅樹に会いに行くか、地球に帰る手段を探すか。とにかく、バーミュラーから動こうとは思う」
今さらだが、バーミュラーとはこの町の名前である。
さらに驚いたことに此処はアルマ帝国ではなく、その隣のジュノン共和国という大国であるらしい。
どうもあの時俺が流された川……あれが国境だったみたい。ホントにどれだけ流されたんだ、俺……。
「主の友人に会いに……とは何処へ行くのじゃ? あの村にはもうおらんと思うぞ?」
「ん、俺等が召喚されて遺跡の魔力は無くなったからな、魔物の異常発生もたぶん収束に向かっているはず。だから、姫様と一緒に城へ帰ったんじゃないかと思う」
あれから日数も経ってるし、命だって狙われたんだ、アイツもそんなに馬鹿ではないだろう。
アイツが馬鹿だったとしても、姫様やおっさんがいる。もしや姫様が無理やり連れ帰った可能性も無きにしも非ず。
「城……とはアルマ帝国の帝都か。其処へ行って主の友人に会えるのか?」
「……知らん。会えるんじゃね? たぶん」
「居なかったらどうするのじゃ? 向こうも主を探しとるかもしれんぞ?」
……云われてみればそうか。それは考えていなかった。
「ん~~~む~~~」
雅樹なら、アイツならどうする? そんなことはアイツにしかわからない。
だからアイツになったつもりで考えてみる。
ふむ。そう考えてみると、アイツの性格からして襲ってきた奴を探そうとするんじゃないだろうか。
アイツにして見れば俺はあの女に殺された訳だから……仇打ち? いやいや、そこまで仲良くはないだろう……悪くもない……のか?
そう云えば。アイツ、結構面倒くさい性格してたような…………。
そうだ、雅樹は面倒くさい奴だった。見ず知らずの人間のために火中に飛び込む奴だ。
「雅樹には会えないことが解かった」
「……いや、まだ決まった訳ではないぞ?」
「否、雅樹は修行しながら各地を転々としているはず。それで、俺の仇を取ろうとしている……間違いない!!!」
ああ、言ってみてさらにそんな気がしてきた。
やはり、手紙でもいいから帝都に連絡しておくべきか……?
「そ、そうかの。……ではどうする、主の世界へ帰る方法を探すのか?」
探すのは当然だが……ふむ、その方法が見つかったとすると……?
「もし帰ることが出来るとしたら、ディズとの契約はどうなる? 俺が帰っても契約は繋がったままなのか?」
俺が帰ったらディズが死ぬ。そんなことになったら、俺は一生後悔してしまう。
その時は契約についての情報も集めなければならない。というか、それでなくとも情報は集めておこう。
「そんなことは解からん。……ただ、主が元の世界に帰ると云うなら儂も主の世界へ行ってみたいぞ。そうじゃ、儂のやりたいことは其れにする!」
「は? 其れにするっていやいや……えっ? 問題ない……のか?」
えっ? ちょっと待て! 今整理するからっ!?
「主のいた世界も気になる故。魔法はないのじゃろうが、カガクというものが発達しておるのじゃろ? 此処よりも便利な物が沢山あると云っていたではないか」
「……マジで!? こっちにはもう戻って来れなくなるかもしれないぞ?」
「別に良い。主の世界に興味がある」
あっけらかんに宣言するディズ。こう…………なんだろう。胸が痛い、なんだか胸が痛いよ姉さん。
そこに在るのは純粋な好奇心なのか、四百歳にもなると世間に執着することも無くなるのか……。
神様の考えることは凡人には理解できんな。いやまぁ、多少気持ちは分からんでもないが、腑に落ちん。
「まあ、それは帰る方法が見つかった時にでも考えよう」
「ふむ、確かにそうじゃな。では帰る方法とやらはどうやって見つけるのじゃ? おそらく遺跡には何も残っておるまいて」
ここで衝撃の爆弾発言。
「えっ? いや何かあるだろ。あの遺跡から召喚されたわけだし」
「儂が一度調べた。考えてもみい、あそこは儂の遺跡じゃぞ? 魔力の異常を確認した際に、隅々まで調べ尽くしたのじゃ」
「で、何も分からなかった……と?」
「うむ」
な、なんだと!? それじゃあ打つ手なし!? 手掛かりはなしっ!?
ディズの言葉に俺は絶望の淵に立たされる。
何てこったい……はぁ、なんか魔法を試した時もこんな感じだったな。
ううっ、期待する度に裏切られてる気がするんだが……。何? 俺は期待しちゃいけないのっ!?
事態は深刻だ。どうやら俺達(主に俺)は見えない霧の中にいたらしい。
……確かに考えてみれば姫様も色々調査してたんだよな、専門家にもわからないってことは絶望的ってこと!?
あっ、そうだ! 最悪あの女を捕まえることができれば何か分かるかもしれない。
絶対何か知ってそうだったし……いやいや、しかし一度は殺されかけた相手である。
出来ればもう二度と会うのはゴメンだ。ということで、そっちは雅樹に任せることにしよう。頼むぞ、雅樹っ!
となると残っているのは…………あ、あれ? 何も浮かんでこないぞ……?
「どうしよう?」
「どうするのじゃ?」
鸚鵡返しにディズが問う。どうする? どうしたい? 俺っ!?
目的はあるのだが、行き先は不透明。これは早くも暗礁に乗り上げたか……。
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