私実は変態なんです。
誰だって、一人の人に愛されたいと思うのが普通だ。
私もその一人で、決して、身分が特別であるとか、顔が美しいとかではない。
むしろ、そういうものじゃないからこそ、たった一人からの愛を望む。
「いたっ」
小さく悲鳴を上げるとすぐに、夫の雄一が飛んでくる。
「大丈夫?どうしたの?怪我?」
雄一はひどく過保護で、私を本物のお姫様か何かだと、勘違いしている。
「包丁、少し切ったの」
す、っと見せた指先から、血は流れた。それを見ていた雄一は、すぐに眉を寄せて、私の手をつかむと、自身の口元に寄せた。
「ちょ」
っと、待って。そう言う目に、指先をくわえられた。
雄一の舌は、温かくやわらかい。人差し指の先をしばらく、舐めまわした後、指から口を離すと、手の甲に小さなキスを落とし始める。
「ねえ、ゆうくん」
「ん」
「痛いってば」
「いいじゃん。消毒してあげる」
雄一は、長いまつげをふせて、まばたきをしながら、私の顔を見上げた。その笑顔の妖艶さからは、先ほどの心配顔などどこかに隠れてしまっている。
「いま、絆創膏。貼ってあげるね」
そう言って、リビングを出ると、救急箱を取りに行った。
私は、微かなため息をついて、唾液まみれになった指を、流水で洗い流す。
(いつもそう。急に舐めたり、噛んだりする)
小さな不満をもらしながら、指を水につけていると、今度は背後から抱きしめられた。
「ちょ」
っと、と言う前に、雄一の両腕は、私の腰を抱きかかえ、首元に唇をよせてきていた。
「ねえ、ダメだってば」
「ん、やだ」
雄一は、腰に回していた腕を、胸の方へ徐々にずらしてゆく。その大きな手の平が、乳房を覆った瞬間、私は小さく嗚咽をもらす。
「よっ」
「よ?」
(よっしゃああ!胸きたー!これ、少女漫画とかでよく見るやつ!)
夫は耳元に息をふきかけながら微笑むが、私は内心でガッツポーズをしていた。
そうなんです。雄一くんは、私のこういうところを知らないのです。
ええと、そうですね。つまり、私、変態なんです。