学園生活
トロイが暴露した事は瞬く間に貴族の間に広まっていった。シンディは学園に通う事も出来なくなり、部屋から出なくなった。
「シンディ、出て来てちょうだい。一緒に食事をしましょう」
両親は相変わらずシンディを可愛がっているけど、シンディはもうまともな貴族には嫁げなくなった。
「エルザ、何をしているんだ? まさか、学園に行くつもりか!? シンディが酷い目にあったというのに、お前は心配じゃないのか!?」
あんた達は、エルザがシンディに酷い目に合わされたのに心配したの? 私にとっても、エルザにとってもあんた達なんか家族なんかじゃない!
「大切に育てた愛するシンディが、尻軽だって知った気分はどう? 私はあんた達を家族だなんて思ってないわ。あんた達が私を家族だと思ってないのと一緒。私の事は放っておいて!」
「何だと!? エルザ! 待ちなさい!」
呼び止める父親を無視して学園へと向かう。
試験の結果が出たら、あんな所出てってやる!
シンディとトロイは自滅して、両親は恥をかいた挙句に他の貴族達から距離を置かれた。
シンディは私が自分より幸せなのが許せなかったんだから、私の成績を見てショックを受ければいい。
そしたらもう、あの家族とはお別れ!
学園に着くと、また人集りが出来ていた。あの中にシンディはいないから、少しだけ気が楽。
「おはよう、エルザ」
「おはようございます。あの、もう待たないでください」
「それは無理だよ。俺に惚れさせなきゃいけないからね。……なんて、ただ君に会いたいだけなんだけど」
臭いセリフ。だけどなんだか、嫌な気はしない。
でも、明日からは学園には来ない。
私はエルザの復讐のために、この学園に通っていただけだから、目的が達成されたら来る必要はない。これが終わったら、私は私の人生を生きるから。
「教室に行きましょう」
カインに会うのもこれが最後だから、少しだけ優しくしてあげる。
「素直なエルザも可愛い」
素直なって何?
自分で言うのもなんだけど、趣味悪くない?
「私はいつも可愛いわ」
嫌いになってくれたら楽なのに。
「そうだね。君は何をしても可愛い」
溺愛ですね……
周りの女の子達が羨ましそうに私を見てる。
シンディの件があったから、私を悪く言う人は誰もいなくなった。だからこの学園も、少し居心地が良くなったけど、あの両親がお金を払ってくれてるから通えてる学園には、もういられない。
「はいはい、ありがとうございます。遅刻しますよ」
カインは教室まで送ってくれてから自分の教室に行った。
思えばこんな風に、三倉令衣の時も教室まで送ってもらうとかなかったな。まあ、彼氏がいた事がないんだから、あるわけないけど。
こういうのも悪くないかも。
「試験の結果は正午に中庭に張り出されるので、皆さん確認してください」
先生の一言で、生徒達に緊張が走る。
この試験で優秀なもの程、自分達の家の格が上がるらしい。私には格なんてどうでもいいし、ロバートソン伯爵家なんて破滅しちゃえばいいけど、この学園の生徒達は、その為に学園に通っている。
皆、試験の結果が気になるのか、全然授業聞いてない。ソワソワしたり、ぼーっとしたりしてるけど、先生も理由が分かってるからか怒ろうとはしない。
この世界に来て初めて、穏やかな時間が流れてる気がする。
そんな穏やかな時間はあっという間に終わり、試験の結果が張り出される正午になった。
「エルザ様、おめでとうございます!」
「凄いです! 尊敬します!」
結果を見る為に中庭に行く途中に、何人もの人達がおめでとうと言ってくる。
私の結果、そんなに良かったのかな? まあ、自信はあったけどね。
そして結果は……
嘘!? 1位!?
これって、全学年の中で……この学園の中で1番て事!?
私はほとんど勉強してない。だからこれは、元々エルザがそれだけ頭が良かったって事だよね。
「エルザ! おめでとう!
色々考えたんだけど、俺達やり直さないか?
俺はシンディに騙されただけで、エルザを嫌いになったわけじゃないんだ。だから……」
結果を見たトロイが、やり直そうと言ってきた。もちろん答えは、ノーーーーッ!!
「ふざけんな! お前みたいなクズ、こっちから願い下げなんだよ! その汚い面、二度と見せんな!!」
コイツのせいでエルザは死んだのに、何もなかったような顔しやがって!!
「エ、エルザ……?」
「気安く呼ぶな! あんたと結婚しなきゃならなくなる令嬢が可哀想! 浮気ばっかりされるから、気を付けてくださいねー!」
シンディと浮気してたし、間違ってはないよね。
これでトロイも、まともな令嬢とは結婚出来なくなるかもね。
「やっぱり、エルザは最高だな!」
「カイン様……いつからいらしたんですか?」
「ずっと居たよ。トロイが君にやり直さないかって言ったから、俺の婚約者に手を出すな! って、カッコよく登場しようと思ったのに、君に先を越されて出るタイミング逃しちゃったんだ」
あはは……残念ながら、助けてもらうようなキャラじゃないんです。
「それはすみません。カイン様、2位おめでとうございます」
カイン様の試験の結果は2位だった。
「ありがとう。まさか、君が1位になるとは思わなかった。これじゃあ、俺が1位になって惚れさせる作戦が水の泡だー!」
何その作戦……
たとえカイン様が1位でも惚れないけど?
「また頑張ってください。じゃあ、私帰りますね」
結果も見たし、これでエルザを認めなかった両親も後悔させられる。
「まだ授業残ってるけど?」
「もういいんです。やるべき事は終わったので、お先に失礼します」
カイン様ともお別れね。
結局、カイン様が何者か分からなかったな。何者だったとしても、私は令嬢じゃなくなるから、カイン様と婚約する事は出来ない。
あれ? 私、少し寂しいと思ってる?
邸に戻り、荷物の整理を始める。
一文無しはキツイから、お金になりそうなものを何個か持って行こう。
これって泥棒じゃないよね……?
「エルザ、帰っているのか?」
父親がノックもしないで部屋のドアを開けた。
さすが親子。シンディにそっくりね。
「聞いたよ! 試験の成績が1番だったそうだな! さすが私の子だ!」
……あんたの子じゃない。
「お前がいれば、この伯爵家は安泰だ!」
あんたにはシンディがいるじゃない!
エルザを散々苦しめたくせに、手のひら返すなんて……
「お父様、シンディが後ろにいますよ」
父親の興奮した大きな声に、シンディは自分の部屋から出て来ていた。
「……お父様、どうしてエルザなんかを褒めるの? 私がいれば、エルザなんていらないと言っていたじゃない!」
シンディ、あなたは父親にそっくりよ。
トロイに同じ事をしていたじゃない。
「シンディは貴族に嫁ぐのは無理だ。
エルザは王子にだって嫁げるんだぞ!? エルザの方が大事に決まってるじゃないか!」
そこに母親がやって来た。
「何を騒いでいるの? 」
「お母様! お父様が酷いの! 私よりエルザが大事だって言うのよ!?」
「あら、シンディいたの?
そんなの当たり前じゃない。エルザは学園1位なのよ? 」
結局、あんた達は家族ごっこをしてるだけだった。
「残念ね。学園1位は、あなた達には関係ないわ。私はこの邸を出て行く。
あなた達と私は、今後一切何の関係もない」
こんな家族いらない。
「エルザ!? 何を言っているんだ!?」
「私達を見捨てる気!? あなたを愛しているのよ!?」
すごーい! あんなに嫌っていたのに、愛してるなんて言えちゃうんだ。
こんな茶番に付き合うのも面倒だから、とっとと出て行こう。
そのまま荷物を持ち、引き止める両親を無視して玄関へと進む。
「あんたなんか死ねばいいのに!! 」
シンディは大声で叫んだ。
その言葉が、真実になった事をシンディは知らない。だけどエルザは今、三倉令衣として生きている。シンディの思い通りにならなくて良かった。
あなたはこれから、両親に邪魔者扱いされて生きて行くの。
そして私は、あんたよりずっとずっと幸せになるわ。
振り返ることなく、ロバートソン伯爵邸を後にした。