本当に親!?
「私もご一緒していいですか?」
食堂に入り、そう声をかけると、
「エルザ……お前は、自室で食べなさい」
「そうよ。あなたがいると、食事が不味くなるわ」
「お姉様の顔を見ながら食事だなんて、冗談じゃないわ!」
これが家族の言うこと!?
「それなら、食事は部屋でしますから、私を学園に入れてください」
この国には、貴族の令嬢や令息達が通う王立学園があるらしい。シンディは通っているのに、姉のエルザは通っていない。
「お前が学園に入ったら、恥をかくだけだ!」
「あなたはシンディと違って出来が悪いんだから、学園になんて行く必要ないわ」
「お姉様なんかと、姉妹だなんて思われたくないからやめてよ!」
この家族、大っ嫌い!!
「学園に通わせてくれないなら、毎日ここで食事をするわ。それから、シンディが私の婚約者を誘惑した事も沢山の方に話すつもりよ。
伯爵令嬢がはしたないと、噂されるかもしれないわね」
「な!? 私ははしたなくなんかないわ!」
はしたないし! まさか、気付いてないの!?
「お前は妹に恥をかかせる気か!?」
そもそも、姉の婚約者を奪ったのはシンディじゃない! こんなのが父親だなんて、エルザも気の毒ね。
私にはお父さんの記憶はほとんどないけど、少なくなともコイツよりはマシなはず。
「それが嫌なら、学園に通わせて」
「あなた、どうしちゃったの!? エルザじゃないみたい……」
母親のくせに、エルザの事をほとんど知らない。それなのに、よく言うよね。
「私は正真正銘、エルザよ。言いたいことも言えない私は、1週間前に死んだわ。
明日には登校出来るように手続きしておいてね。じゃあ、部屋で食事をするわ。ごゆっくり!」
言いたいことは言ったから、スッキリした。
こんな連中とご飯食べても美味しくないし、部屋でゆっくり食べよ。
部屋に戻り、テーブルに並べられた料理を食べようとすると、
「お嬢様、そちらは冷めていますので、違うものをご用意いたします」
と、シュラに止められた。
「これでいいわ。せっかく用意してくれたのに、食べなかったら作ってくれた人に失礼でしょ」
食べ物を粗末にしちゃダメだって、お母さんがよく言ってたっけ。私は好き嫌いが多くて、お母さんを困らせてた。……会いたいな。
「お嬢様……ありがとうございます」
ん? どうしてお礼なんか?
そう思ってシュラの顔を見ると、シュラは笑顔を向けていた。
「私達使用人に、失礼だなんて思ってくださるなんて感激です」
こんな事で感激するなんて……この世界は、使用人にも優しくない世界なのね。
翌日、学園の入学手続きを終えた父が、今日から学園に行きなさいと言ってきた。
エルザは学園に通っていた事がないから、1年からの入学になるみたい。入学式から数ヶ月過ぎてはいるけど、その期間は試験を受ければ単位をくれるらしい。
ちゃんと手続きしてくれるなんて、私と一緒に食事をするのが相当嫌だったのね。
制服まで用意してくれたから、文句はないけど……この制服は、シンディが着ていた服みたい。シンディのおさがりなんて嫌だけど、急だから仕方ないか。
そして私は、制服を着て馬車に乗り、学園へと登校した。
「ここが、王立学園か……」
お城みたいに豪華な学園。さすが、貴族の令息や令嬢が通う学園なだけあるね。
「ねえ、あの方……ロバートソン伯爵のご令嬢よね?」
「歳が上だけど、1年生みたいよ」
「妹のシンディ様と違って、出来が悪いらしいわ」
早速、うわさの的になってるし……
こういうとこは、どこの世界も同じなのね。
教室に入り、席に着く。
この学園は、どの席に座ってもいいらしいから、とりあえず後ろの席に座った。
教室でもコソコソと噂されてるけど、気にしない。私は勉強をする為に、この学園に入った。
出来が悪いなんて、もう言わせない。
それに、エルザは出来が悪くなんかなかった。エルザの部屋には沢山の本があって、出来が悪い人間が理解出来るような本じゃない。
エルザの体……頭の中に、沢山の知識があったから、全く知らない文字を私にも簡単に読む事が出来た。出来が悪いんじゃなく、両親がエルザを見ようともしなかっただけ。
今日の授業が終わった。
正直な感想……めちゃくちゃ簡単だった。
来週、試験があるらしいから、そこで良い成績をとって、両親とシンディをびっくりさせよう。
試験の内容は全学年同じで、その試験の結果がこの学園での順位になる。何だか楽しくなって来た!
さて、帰ろうかな。
そう思って教室を出ると、
「トロイ様ったら、ふふふっ」
「シンディがあまりに綺麗だから」
堂々とイチャつく、元婚約者のトロイとシンディが廊下にいた。
「あら、お姉様。今帰り?」
シンディの教室は、ここからだいぶ離れてるし、学年が違うトロイの教室も遠いはず。
シンディはわざわざ私に、トロイとイチャイチャしてる所を見せたかったのね。
「あなたはここで何をしているの? せっかく私が黙っていてあげてるのに、もう少し時間を置かないと、はしたないってみんなにバレるわよ」
最初からエルザのものが欲しかっただけのシンディが、我慢出来るはずないよね。
私を傷つけるために、私に自慢するために、わざとここでイチャイチャしてたんだろうし。
「お姉様に魅力がなかったから、トロイ様は私を選んだのよ。はしたないなんて、誰も思わないわ」
思わない人はおかしい。
まあ、この世界はおかしい人だらけだけどね。
「魅力があってよかったわね。じゃ、私帰るわ」
何の興味もない元婚約者が、シンディと何をしようが私には関係ないし興味もない。
「ちょっと待ちなさいよ! 平気なフリしたって無駄よ! お姉様がトロイ様を慕ってたの知ってるんだから!!」
でしょうね。だから、トロイを奪ったんでしょ。
でも見当違いなのよ。今はエルザだけどエルザじゃないんだから。
「あら残念。私はトロイ様に何の興味もないわ。
トロイ様、わがままでどうしようもない妹だけど、よろしくお願いします」
私がそんな事を言うとは思わなかったのか、2人ともアホ面をしたまま固まってる。今のうちに帰ろ。
邸に戻り、試験の勉強を始めた。
でも、授業があんなに簡単だったなら、勉強する必要ないかも。そうはいっても、私には勉強以外する事がない。友達もいなければ彼氏もいない。
友達かあ……学園の人達はみんな、プライドの高い貴族の令嬢や令息ばかりで、仲良く出来るとは思えない。噂ばかりされてる私と、友達になりたいような変な人なんていないだろうし。
今はエルザのために頑張ろう。
エルザを苦しめて来た人達に、後悔させないとね。それがすんだら、本当に私がエルザになれるような気がする。
毎日学園に通い、授業を受けてるけどやっぱり簡単。その理由は、エルザが最初から頭がよかったからだと分かってきた。エルザが生前勉強した事が、私の中に残ってるから、全てが簡単に理解出来る。こんなに努力してたのに、エルザが認められる事がなかったなんて……
ますます両親が嫌いになった。
「なんでいつも1人なんだ?」
学園に入学して4日目、初めて話しかけられた。
「なんでって言われても、誰も私に関わりたくないからじゃないでしょうか」
別に一人でいたいわけじゃないし。
「それが理由なら、君は誰かと関わりたくないわけじゃないんだね?」
「そうですね。出来れば友達くらい欲しいです」
三倉令衣だった時は、友達が沢山いた。みんな、元気かな?
「それは友達限定? そうじゃないなら、婚約者なんてどう?」
はあ? 言ってる意味が分からない。
「つい最近、婚約を破棄されたばかりの私と婚約したい人なんていないと思います」
「俺の婚約者にならない?」
いやいやいや!
この人は何言ってるの!?
「意味が分からないのですが?」
「言葉通りだよ。俺は、カイン・ドリード。嫌じゃないなら、今日から俺の婚約者って事で」
めちゃくちゃ強引な人。
この世界では、愛のない政略結婚とかが普通なんだろうけど、私はやっぱり好きな人と結婚したいな。
「すみません、私は好きな人と結婚したいので、そのお話はお受けできません」
カインは少し考えるそぶりをした後、
「だったら、俺を好きになればいい」
そう言って、にっこり笑った。
はあ!? 強引なだけじゃなく、自意識過剰!?
「好きになれって言われて、好きになれると思うんですか? そもそも、どうして私と婚約したいんですか?」
貴族って、何でも思い通りになると思ってるのかな?
「この前、君と君の妹の会話を聞いたんだ。
君は大人しくて気弱だという噂だったけど、噂なんてあてにならないって分かった。君をもっと知りたくなったんだ」
知りたくなったからって、普通婚約する!?
「それなら、あなたを好きにならせてください。私があなたを好きになったら、婚約でも何でもします」