一つ目の決まり
一つ、姫様の部屋の一番南にある鏡に触れてはいけない。
二つ、扉を跨ぐ時は必ず左足を先にしなければならない。
三つ、夜十時以降は絶対に庭の噴水を覗いてはいけない。
古くから言い伝えられているこの場所の三原則だ。ここはとある高校。この土地にははるか昔、大きな城が建っていたそうだ。その時からずっと言い伝えられてきた話。周りはそんなのデタラメだと言っているけれど果たして本当にデタラメなのだろうか。実際、どれか一つでも破った人は次の日から学校を休みっぱなしなのだ。偶然にしては事例が多すぎる。先生にも聞いてみた事があるがまともに話を聞いてくれやしなかった。入学してから今の今まで気にしないようにはしてきたが、どうしても好奇心が掻き立てられる。恐怖心と好奇心が止まないとまともに勉強だって手に付かないのだ。誰も口外することのない秘密の話が知りたくて知りたくてしょうがない。周りに言うと絶対に止められてしまうので、僕は誰にも言わずに調査をすることにした。
本で調べて分かった事がある。どうやら全ての原則には一つ目の原則に登場する「姫様」が関わっているらしい。この三原則を定めたきっかけは何なのだろう。姫様はどう関わっているのだろう。そんな疑問が次々と湧いてくる。
それは600年程前の話、この土地には立派な城が建っていた。そこには、王様と王妃様、王子様に姫様が住んでいた。そう、この姫様こそがこの話の主人公だ。彼女は一番美しいと言われていた。家族にも愛され幸せに暮らしていた。沢山の求婚、求愛に家族の愛、民達からも愛されていた。でも、そんな幸せな日常いつまでも続かなかった。ある日のこと、彼女の城で火事が起きたのだ。その時、兄である王子様が瓦礫に囲まれて逃げられなくなってしまった。親は家来達に裏切られとっくに死んでいる。兄まで居なくなれば国はどうなってしまうのだろう。そう考えた姫様は兄を助けに行った。瓦礫に囲まれてしゃがみこんでいる兄を見つけると、姫様は燃えている瓦礫も気にせずに手を伸ばした。
「お兄様!早くこの手にお捕まりくださいませ!」
姫様がそう言うと王子様は泣きながら言った。
「おお、ありがとう!妹よ!そしてすまない。私のせいでお前が怪我をするなど・・・!」
そうして姫様の手に捕まり姫様を引っ張りながら自分の体を瓦礫の向こうへ着地させる。そして・・・なんということでしょう。姫様の顔を燃える瓦礫へと押し付けたのです。姫様はこれには耐えかね、悲鳴を上げ泣き出しました。それでも王子様は止めてはくれませんでした。
「痛い!熱い!止めてください!お兄様!」
彼女がそう言うと王子はもう一度強く押し付ける。ジュジュッと肌の焼ける音がする。姫様は痛くて熱くて涙が止まりませんでした。
「何故・・・何故こんな事を・・・。」
王子は言いました。
「お前が愛されていたのは顔が良かったからだろう?これから、民には僕一人を支持してもらわねばならないのだ。つまり、お前が邪魔だからだよ!!自分から堕ちに来てくれて助かったよ。ありがとう!お前を愛しているよ!」
彼の目は正気ではなかった。目が、死んでいた。正気でなくとも許すことはできない。顔の半分は焼け、体中に火傷を負ったのだ。その火傷を見た民達が次々に言った。
「あんなに可愛い姫様として愛されていたのに。」
「あんな醜い顔じゃ見たくもない。」
「自分も守れないなんて、やはりただの箱入り娘なだけじゃないか。」
「どうして生きているんだ。」
「気持ち悪い。」
「怖い。不気味すぎる。」
人々の言葉はだんだん過激に、エスカレートしていった。ついに「死ね」と言われた姫様は耐えかねてこう言いました。
「この城に呪いをかけたわ。決まりを破れば死ぬわよ。決まりは全部で三つ。一つ目、私の部屋の一番南にある鏡に触れてはならない。二つ目、扉を跨ぐ時は必ず左足を先にしなければならない。三つ目、夜十時以降は絶対に噴水を覗いてはならない。もう一度言うけれど破ったら死ぬわ。あんな風にね。」
姫様が指を指した先は扉の近く。そこには大量の鮮血と共に人が横たわっていた。いや、人だったと言うべきか。何トンあるのか想像も出来ぬ程の大きな岩に潰されたそれは人と呼ぶにはおぞましすぎるものだった。その後も決まりを守らぬ者は次々と死んでいった。最初は馬鹿にしていた人々も次々と起こる人の死を認めざるを得なかった。いつからかまた彼女を見る人の目は変わっていった。憎いと思う者、怖いと思う者、疎ましいと思う者・・・様々だった。彼女はやがて寿命により亡くなった。だが、呪いは消えなかったのだ。
可哀想な姫様。実の妹を傷つけるような王子もそうだが、それについていった民達も民達だ。自分の君主を見誤った愚かな人々。それらのせいで今も尚呪いは解けない。直接関係のない僕たちまで巻き込まないでほしいよ。まぁ、ふざけ半分で決まりを破るような人間に情けをかけるつもりはないけど。それにしても・・・、三原則はどうしてこの内容なのだろうか。話の中ではその疑問に対する答えは見つからなかった。一つ目の決まり、「姫様の部屋の一番南にある鏡に触れてはならない」。ここで言う姫様の部屋誰も近づこうとする者はあまりおらず、今も残っているらしい。確か西校舎の裏山の麓だったかな。行ってみるという選択肢しか浮かばない。僕は本を閉じて立ち上がると目的地へと向かった。
西校舎の裏山の麓。僕の記憶が正しければここで合っているはず。薄暗く如何にも、という雰囲気を漂わせる場違いに洋風な建物。僕は建物に近づくと一度深呼吸をしてノックをした。三回ノックをすると扉に絡まっていたツルが身を引く。慎重に扉を開くと微かに薔薇の香りが漂ってきた。確か本には「中庭の扉は薔薇の香りがする」と書かれていた。つまり中庭はここにあるということか。ん・・・?それなら学校の中庭の噴水を覗いて死んだ子は何だったんだ?ここの中庭を覗いたわけではないのに死んでいる。まぁ、今考えても仕方がないか。最初はお姫様の部屋を調べなければならない。こういうものは決まりの順に調べていった方が良さそうだ。僕は本に書かれていた姫様の部屋を探す。部屋はすぐに見つかったがここにもツルが絡まっているようだ。言われなくたって・・・、女性の部屋に入るんだからノックぐらい普通だろ・・・。また三回ノックをするとツルが離れていく。なんだか主人を守る忠犬みたいで少し可愛いな。扉を開くとそこはピンク色の家具で揃えられた可愛らしい部屋だった。あまりジロジロ見すぎても不躾な感じがするしさっさと目的を果たしてしまおう。まずは鏡だ。一番南っていえば・・・可愛らしい机の横に部屋に不釣り合いな不気味な鏡が置いてある。僕は無意識に鏡に手を伸ばしていた。鏡に触れそうになり手を止める。鏡部分じゃなければ大丈夫だったりしないだろうか。僕は一か八かにかけて鏡の枠部分に触れる。すると、鏡がくるんと回転して反対側を向いた。鏡でない後ろの部分には何やら紙が貼られている。その紙にはこう書かれていた。
「ごめん。間違いだったの。これを見た人だけが真実を知れることになってしまって申し訳ないわ。正しくはこの城の一番南にある鏡に触れてはいけない、です。でも、それには触れても死ぬことはないから。物好きなあなたならきっと真実を知りたいでしょう。一つ目の真実はそこに置いておいたわ。・・・物好きな誰かさんへ。」
この城の一番南って・・・、立ち入り禁止になっている王子の部屋のことだろうか。そこの鏡を調べれば何か分かるかもしれない。僕の足は迷わず目的地へと向かっていた。
王子の部屋に着くと、ドアは開いていた。誰かを待っていたかのようなその光景に思わず息を飲む。怖いけど、引き寄せられる。ドアは開いていたので隣の壁を三回ノックすると、ドアの近くに立っていた鎧兵の置物が倒れ大きな音を立てる。思わず驚いて後退ってしまうが深呼吸をして心を落ち着かせる。一歩足を踏み出すとそこはもう王子の部屋だ。後ろから睨まれているような感覚に、咄嗟に振り向くとバタンと音が鳴りドアが閉まった。息を呑んで足を鏡に向けて動かす。足音は僕の存在を示すように響いていた。鏡の前に足を運ぶ。鏡を見ると誰かが写っていた。僕と、もう一人。ゾッとして足が震える。あまりの怖さに立っていることも辛くて僕は尻もちをついた。腕を捕まれ強く引かれる。引きずられていったのは鏡の裏側。さっきと同じように裏側に何かがあるらしい。深呼吸をしてよく見てみると、何やら不自然にパーツがはめ込まれたような箇所がある。触れてみると何かが手に落ちてくる。ずしりと重いそれは何やら本のようだった。中を見てみると、日記のようだ。毎日欠かさず、丁寧な字で細かく一日の出来事が書かれている。それに、多分誰にも言えずにいたような切実な気持ちが綴られている。どれだけ気持ちを溜め込んでいたのだろう。最後の方は文字から辛い気持ちが感じられる程に乱れている。濃くなった字からは想いが溢れているようで見ていて息が苦しい。最後のページには一行だけ書かれている。
「病死じゃない。私は貴方に殺されたの、お兄様。」
そのままの意味だとしたら歴史と伝えられている事は嘘ということか。姫様はこれを誰かに伝えたくてあんな呪いを・・・?いや、それだったら殺す必要はないはずだ。何故なのだろう。気になりはするが、そろそろ夜になる。十時までに少しでも二番目の決まりについて考察しておきたい。僕はひとまずこの不気味な部屋から出ることにした。
部屋を出て改めて日記を読んでみると、今伝えられている歴史がだいぶ違うことが分かった。けれど、何故姫様は僕にこれを教えてくれたんだろう。さっきから何度もヒントをくれるしさっきは視線も感じた。あまり認めたくはないが、姫様が見守ってくれているのだろうか。少し怖い気もするけど話の中でも今も、姫様は悪い人ではないのだろう。
主人公の名前は考え中です!次回までに考えておきます!ハーメルンでは同じ名前で二次創作を上げております!!まだまだ勉強中なので御手柔らかにお願い致します!!