第十二話「盾とは」
「後どれくらい掛かる!?」
歯車が叫び声を上げる。
「こっちが聞きたいですよ!」
負けじと和人も叫び返す。
戦っている彼らからすれば長く感じていても、実際にはほんの数分しか経っていない。
それでも体格の小さい者なら通れるぐらいにまで開いていた。
「隊長! 三鶴城がもう限界です!」
「ちっ! なんとか通れるか中島!」
「はい、ギリギリですが……先に行きますか!?」
「仕方ねえ、そうしてくれ!」
歯車の指示で三鶴城を連れながら地下へと向かう中島。
(一体どうしたんだよ三鶴城さん……!)
心の中で三鶴城を心配しながらも、目線は目の前のネビュラから外さない。
大きな両腕に挟まれれば和人もただでは済まない。
現状三鶴城との戦闘訓練が何の意味もなしていない形になる。
「和人、出来るだけ僕とネビュラの間に立ってくれ」
何か策があるのか、猫又は和人に立ち位置の指示を出す。
和人は返事をしながら間に立つ。歯車から伝えられた『盾』としての役割を果たす時が来た。
意気込む和人目掛けネビュラが突撃してくる。
ペンチの動きは一直線で単調だが、かなり高速で動いている。
思わず反応が遅れた和人は、一番に注意していた両腕に掴まれると言う事を容易くされてしまう。
「くそっ!」
必死に振りほどこうとする和人の動きを冷静に見る猫又は静かに呟く。
「弾けろ、コスタリカ」
それは猫又が持つ『コスタリカの石球』をモチーフに作られたオルギアを起動させた証だった。
起動直後和人の腕を掴むペンチネビュラの両腕が吹き飛び、粉々に砕け散る。
和人の理解が追いつかないまま次々と他のネビュラ達も何かに襲われ同じように砕け散る。
両腕を失ってもまだ起き上がろうとするペンチネビュラを冷たい目で見下ろす猫又。
「死ね」
ストレートに一言だけ発すると例に漏れずこれまた粉々に砕け散る。
辛うじて何かがネビュラにぶつかった事は理解出来るが、それが何かまでは和人には分からなかった。
「猫又、和人! よく持ちこたえた、扉が開いたぞ!」
理解できず立ち尽くす和人を他所に、猫又は返事をしながら地下へ扉へと向かう。
「和人?」
猫又が動こうとしない和人に疑問を持ち振り返る。
ハッとして直ぐに和人も扉へ向かう。
向かいながらなぜこの部隊は今まで四人だけだったのか、何故自分はこの部隊に配属されたのか……。
疑問に思った事の一つの答えに近い者として『普通ではない、異常な者達の集まり』なのでは無いかと心の片隅に思いながら扉の中へと駆け込む。
---
「待ってらんねえ! ネビュラが来る前に塞ぐぞ!」
部隊全員が地下通路へと入った事を確認した歯車は、自動で閉まる扉が閉まる前に叩き潰し、地下通路にネビュラが侵入するのを防ぐ。
しかし、それは帰り道は同じ道を通れず、危険な道を通る事になるという事だ。
和人の顔がこわばる。
「どっちみち無事に帰ってこれる保証も無いんだ、考えるだけ無駄だぞ」
和人の考えを見透かしたかの様に歯車が切り捨てる。
「いやそういうつもりじゃ……」
「まあ大丈夫、西は何処に行ってもネビュラだらけだし、此処も安全が保障されてる訳じゃ無いからね」
「そう言うこったな」
豪快に笑う歯車。
この部隊、いやこの様な戦場ではこのぐらい図太く生きていかないと生き残れないんだと感じる。
それが正しいのかどうかまでは分からない、ただ生き残る術の一つなのだろう。
自分にそういった術はあるのだろうか。
「そうやって小難しい事を考えるのは良いところでもあり悪いところでもあるわね」
顔を上げた和人の目の前には三鶴城が何時もの様子で語りかけていた。
そういえばネビュラを目にした時随分と体調が悪そうだったが、それはもう大丈夫なのだろうかと和人が口に出す。
「あの、さっきまで……」
「ああ! ごめんなさいね、大丈夫よ」
あっけらかんと答える三鶴城だったが和人には何か腑に落ちない。
あの様子ではこの部隊だけでは無く、どの部隊でもやっていけない筈だ。
当の本人に注意されたばかりだと言うのに再び考えを走らせる。
「すぐにわかる」
和人の肩に手を置き短く一言だけ言う中島。
その言葉の意味はよく分からなかったが、仲間との距離がだいぶ離れている事に気付き急いで追いかける。
---
-4月25日 17:00-
地下通路内はメディアの者が整備したのか、一定間隔で光源が設置されていたが、外に比べてジメジメしており、湿度も高く、次第に和人達の体力をじわじわと奪っていく。
ネビュラとの戦闘後休まず地下通路を進んでいた和人達は堪らず早めの夕食を取るため休憩する判断を歯車が下した。
夕食の用意の中、和人が猫又のオルギアについて聞いていた。
「うん? 僕のオルギアかい? そう言えば言ってなかったね……っとこれだね」
猫又が取り出したのは直径5cm程の小さな球だった。
「これが……?」
こんなものが本当にペンチネビュラに限らず周りのネビュラ達を粉々に粉砕したのか?――とまでは言わなかった。
和人が目にしたオルギアからはただならぬ気配を感じたからだ。
和人は特別魔術に関して詳しいと言うわけでは無い、寧ろ素人だ。
そんな素人の和人が一目見ただけで、そのオルギアから発せられる魔力が膨大だと言う事が何となく理解できた。
それ以上追及する事も無く、猫又もまた何か言う事も無かった。
この部隊は正に少数精鋭、彼らが言う嫌われ者の集まりだなんてとんでもない。
和人は直前の戦闘の不甲斐無さもあり、本当にこの部隊で役に立つのだろうかと不安になっていた。
和人が言われた盾になれという役割にはもっと別の意味があるのではないだろうか?
もっとやりようはあるのではないだろうか?
具体的な案が思いつく訳でも無く、休憩と言ってもほんの数十分しか経っていないにも関わらず「そろそろ行くぞ」という歯車の言葉で考えるのを中断せざる得なかった。
頭の中のもやもやが拭えないまま和人は再び歩き出す。




