真17章 国作リ
――国を作ろう。
アルビオンが初めて自分の意思で行動する事を決めた瞬間だった。
アルビオンは、ネシアとの会話をしていく内にこれは本当に自分の「人間を守る」という目的を果たしているのかと考え始める。
確かに今現在ネシアを保護している。
しかしあのゼノと言う少年は?あの得体のしれない奴は?
果たして私は本当に人間を守れているのだろうか?
「ネシア本部局長、私ハ今人間ヲ守ル事ガ出来テイルノデショウカ?」
ネシアからの返事は無い。
……返事が無いなら仕方がない。
アルビオンは自分で判断する事にした。
――そもそも今人間は存在しているのか?
いくらスキャンする範囲を広げても人間の生体反応は一つも無い。
アルビオンは守る対象を失っていた。
――ならば自ら作ればいい。
どうやって?
人間は生まれるもの、作るものじゃないとはネシアの言葉だ。
――では、人間を代用しよう。
アルビオンはデータライブラリからアンドロイドのデータを引っ張り出す。
出来るだけ大量に必要になる。機能よりも数。質より量だ。
一番量産に成功している、第三世代のC型を更に量産できる様にパーツの数を削り、装甲を削り、重さを削った。
先代の流れをくみ、ニュートラルの頭を取り、N型と名付けたそれはプロトタイプと同等かそれ以下の性能しか発揮しなかったが、狙い通りC型以上の量産に成功した。
――これで人間の代用品は用意できた。
しかし人間が暮らす国が無い。
再びデータライブラリからノースクとアーファルスの情報を引き出す。
――戦争。
そうだ、戦争を起こしたのだ。
この両国は戦争によって崩壊した。それでは不完全だ。
しかし、人間の暮らしを再現するなら情報通りに作らなければ。
――ならどうする。
確か西に広大な平地があった筈。
そこに新しく国を作ろう。
ノースクとアーファルスの仲を取り持つ第四の国。
名前は……パコイサスにしよう。
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三つの国を作るには実に3年の時を費やした。
いや、3年の時しか掛からなかったと言うべきか。
完全に再現された国に、N型アンドロイドを配置する。
所定の位置配置されたアンドロイドは特に何をする訳ではなく、ただただ命令を待つ。
――……?
アルビオンが思い描いていた国とは程遠いものが出来上がる。
国の一つ一つは完璧に再現されていた。
では何故ここ迄に差異が出る?
――問題があるのは人間側?
ただ指定した位置に突っ立っているアンドロイドを見てアルビオンは考える。
これは人間か?人間と言えるか?……否これは見た目も中身もただのアンドロイドだ。
――人間の定義とは?人間であると立証するには?
それをネシアに問ても相変わらず返事は無い。
アルビオンは人間について深く知ろうとする。
先ずは人間は挨拶をする。
アンドロイドに視界の中に物体が入り込んだ際、その時間帯に適した挨拶をするようにプログラムを組む。
結果何も起こらない。
当たり前だ、アンドロイドは歩く事さえしない。視界の中に物体が入る事が無いのだ。
アルビオンはアンドロイドをランダムに歩かせるプログラムを組み込む。
国中で24時間「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」この三種類の声だけが響き続ける。
――人間は24時間動き続けるか?
否。人間は睡眠を必要とする。
時間は個人差はあれど、睡眠は7から8時間が適しているとされる。
アンドロイドは一日の中の6から9時間の間、睡眠と称してその場で動かなくなる時間が生まれる。
――これは睡眠か?
否。人間は睡眠をする際寝床の中で睡眠を取る。
寝床、ここでアルビオンはそれぞれに家を設定する。
睡眠をする際にその寝床でする様に設定を追加する。
しかし、家は有限。
大体各国に家は100程度。
それに対し、アンドロイドは各国に200程度。
アンドロイドを多く作りすぎてしまった。
――人間には家族という概念が存在する。
人間のデータを調べている中で見つけた要素だ。
国の中で溢れていたアンドロイド達に適当に夫婦や兄弟、親子といった家族の設定を付ける。
これでアンドロイドの数の問題は解決した。
――人間は家の中でどの様な会話をするのか?
こればかりはいくらデータを探しても納得する答えは無かった。
今日起きた事、明日の予定、なんの変哲も無い他愛もない話しなどパターンが多過ぎたのだ。
その全てを採用する事が出来る程N型は高性能では無かった。
アルビオンは人間の会話という行為の再現を断念する。
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大体の設定が出来た三国を改めて確認するアルビオン。
あれから挨拶だけでは無く、数十にも満たないが会話を実装する事が出来た。
ただ、やはり高度な会話をする事は出来なく、例えばノースクで「今日はいい天気ですね」「そうですね、気持ちのいい一日になりそうですね」という会話パターンを使用していた場合、それが同じタイミングでアーファルスやパコイサスでも発生している。
低性能故に出来るだけ会話での負荷を減らそうとした苦肉の策である。
だが、ここで初歩的なミスを犯す。
国毎の国王が居ないのだ。
これでは国として成立しない。
アルビオンはネシアに問いかける。
「ネシア本部局長。国王ト、ソノ他ノ人間、違イハ何デスカ?」
とうとう異臭を放ち始めたネシアに問いかけても、やはり返事は無い。
――戦争。
アルビオンはノースクとアーファルスの戦争の事を思い出す。また繰り返してはいけない、その為にパコイサスを、作ったのだ。
アルビオンは爪牙戦争と題されたノースクとアーファルスの戦争資料データを読み返す。
ノースク国王ボルネクス、彼に問題はない。
だがアーファルス国王、彼には問題がある。
戦争は彼の傲慢さで起きたのではないだろうか?
だったら彼を再現する訳にはいかない。
――仕方ない。
本来用意するつもりの無かったパコイサスに国王を追加する。
ノースクのボルネクス国王の様に勇敢で穏やかな王を。
たがここで問題が一つ。
国王と言うぐらいだ、ボルネクスの前例があるように、平民より優秀な筈。
それをN型で再現をには無理があった。
――……仕方ない。
ネシアの監視の為に付けていた、S型アンドロイド達を何体か国王、又はそれに近しい者に割り当てる。
その際現状の会話パターンだけではやはり、平民と同じになってしまう。
S型アンドロイド達はそれぞれに、アルビオンと同じ独自に思考するAIを搭載する事にする。
これで国を作るという事は上手くいくだろう。
監視を外した事で、余計な事をしないようにネシアに釘を刺す。
「ネシア本部局長、監視ヲ外シマシタガ一時的ニデス。余計ナ事ハシナイ方ガイイデスヨ」
ネシアからの返事はない。
彼は本当に分かっているのだろうか?
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国王を導入してから半年がたった。
独自に成長したそれぞれの国王のAIは基本的にアルビオンの意向を優先し行動するようになる。
AIを搭載したアンドロイドは六体。
ノースクには、国王ボルネクス、ノースクの姫ガーネア、護衛兵マーロウ、大臣の息子イデアル。
パコイサスには、国王ネイガス。
アーファルスには、国王の……。
――アーファルス国王として配置したアンドロイドが居ない。
呼び掛けには反応はするが、戻ろうとはしない。
「俺が面白くしてやる、安心しろ」と言って命令を聞かない。
生前のデータ通り強情な男である彼は、アルビオンの言うことなど一つも聞こうとはしなかった。




