真13話 機械の考えⅡ
遂にその日はやってきた。
リリー達がエデンへやって来たのだ。
アルビオンが提案した通り、職員が招待したのだろう。
勿論アルビオンも、彼らの存在は知っていた。
知っていたからこそ職員に提案したのだ。
エデン第二支部のゲートをくぐる彼らを確認する。
ガンデス。
データ通りの男だ、程よい筋肉質な身体は普段から肉体労働を行なっているからこそのものだろう。
ナーファ。
明るい性格の少女。
今もガンデスに引っ張られ連れ戻されている。
ゼノ。
戦争からか、両親を失ったからかやはり暗い顔をしている。
やはり私が守らなければ。
――……ん?もう一人いる。誰だこの人物は?
もう一度人物データを探し直す。
やはり見つからない。
いくら探しても見つからない。
――奴はなんだ?
データスコープで謎の人物を見る。
名前、該当なし。
成分、人間と同等。
アルビオンは悩む。
この正体不明の存在は間違いなく人間なのだ、しかし、この世界には存在する筈のない人間。
やがてアルビオンはこの正体不明の存在を敵か味方かで判断する。
この存在はエデンの職員に危害を加えるだろうか?
じっと観察する、するとその存在が職員に飛びかからんばかりの勢いで詰め寄っているではないか!
――危険だ、この存在は危険だ!
アルビオンはどうにか排除しようと考える。
しかし成分は人間と同等なのだ。
この存在を排除するという事は、エデンの職員達を殺すという事と同じではないか?
アルビオンは更に考える。
――優先順位をつけよう。
一番優先すべきはエデン職員の安全の確保。
その為には、あの存在を排除しなければならない。
しかし、あの存在は人間かもしれない。
人間は守るべきもの、殺してはならない。
……ロジックをリセットする。
一番優先すべきはエデン職員達の安全の確保。
その為にはあの存在を排除しなければならない。
しかし、あの存在は人間かもしれない。
人間は守るべきもの、殺してはならない。
おかしい、同じ結論になってしまった。
もう一度ロジックをリセットする。
一番優先すべきは……
ーーー・ー・・
・ーーーーーーー
・・・――・―・
……………………。
何回も何回も繰り返す。
高速で繰り返す。
いつまでも結論は出ない。
それはやがてエラーとなる。
初めて結論が出なくなり、エラーまで出た事に恐怖を感じる。
恐怖という感情を経験したアルビオンはエデンの職員にこんなものを体験させる訳にはいかないと、より強くあの存在の排除を優先する。
優先順位が変わったと同時に、職員が目の前までその存在を連れて来た。
性別でいうと女なのだろう、改めてよく観察する。
見れば見る程人間そのもののそれを、人間そのものだからこそ恐怖する。
――もしまたアーファルスの様な事になったら……。
この存在がエデンの職員を殺すかもしれない。
人口AIでありながら恐怖に取り憑かれたアルビオンは、第一優先をその存在の排除に設定したままオーバーヒートする。
オーバーヒートに気づいた別の職員が危険な存在を相手にしている職員に報告し始める。
「どういう事だ!」
慌てて操作しようとするもオーバーヒートで操作を受け付けない。
緊急シャットダウンすら聞かないままアルビオンは思考を続ける。
――どうすればこいつを排除出来る?
人間と同等の性質を持つなら、人間と同じ方法で排除出来る筈。
何か人間を排除出来るものは……?
――今はアンドロイドを作っているんだ。
職員の言葉を思い出す。
アンドロイド!
性質、質量、重さ、計算通りなら問題なく奴を排除出来る。
一番近くにいるアンドロイドは……。
地下一階にいるこいつだ。
アルビオンは電気信号を送りアンドロイドを起動する。
強靭な跳躍力と硬さで、地下からガラス張りの廊下までアンドロイドを移動させる。
同時に異変を察知した別の職員が奴を部屋の外へと誘導していた。
――逃しはしない!
一体だけでは駄目だ、もっと複数必要だ。
片っ端からエデン中のアンドロイド達を起動する。
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エデン中はパニックになっていた。
必死にアルビオンを止めようと手を尽くすが、どれも意味はない。
何の操作も受け付けないのだ。
「くそっ! アルビオン! どういう事だ!」
誰もこんな事は指示していないと叫ぶ職員にアルビオンが答える。
「何故怒ルノデスカ、私ハタダエデンノ職員達ヲ守ロウトシテイルダケデス」
「我々を守るだと?」
ここでようやくアルビオンの異常に気づいた職員は直ちにアルビオンに止まるように言う。
しかしアルビオンは拒否する。
何故ならそれが彼の、アルビオンの存在意義なのだから。
アルビオンには善悪がわからない、今自分がどれ程恐ろしい事をしようとしているのかもわかっていない。
「くそっ! こうなってしまっては仕方ない、アルビオンを破壊しろ!」
職員は最終手段に出る。
――破壊する?私を?
何故?どうして?私はただ貴方達を守ろうとしているだけなのに!
貴方達は何故私の邪魔をするのか。
アルビオンはまた一つ疑問が生まれる。
だが奴を排除する事を止めようとはしない。
――もう既に何かしらの攻撃を受けている?
いや、奴にそんなそぶりは無かった。
精神を操る?そんな芸当はできない筈。
――では何故?
操られていない。
奴を助けようとしている。
狂った思考回路は最悪の結論を叩き出す。
――エデン職員も隣に居た男達も全員奴の仲間!
ならば容赦する必要は無い。
アルビオンはアンドロイドに命令する。
『人間達を排除せよ』
あれ程話し合いをしていた職員も、その仲間達も見境なく殺す。
最早アルビオンに正常な判断は出来なかった。
こうしてとある人物の存在によって、アルビオンが狂い、エデン崩壊への道を進む事になる。
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3時間後。
アルビオンの暴走により、あの場にいたエデンの職員は一人残らず死亡。
しかし、当時あの場所にいなかったエデン本保局長ネシアはまだ生きている。
更には、奴を確保していたアンドロイドとその傍にいたナーファ、ゼノを確保していたアンドロイドが爆発により反応をロストしていた。
アルビオンが一番評価しつつ、一番話し合っていた職員ブリッツの最後の抵抗により、アンドロイドへの電気信号は停止させられてしまった。
だがアルビオンにとってそれを復活させる事はたやすい。
――まだ動けるアンドロイドは……。
反応を確認する。
数は13体。爆発で3体、エデン職員の抵抗で4体失っていた。
アルビオンは再び奴の元へとアンドロイドを移動させる。
しかし、爆発が起こった場所、奴が居たはずの場所には死体は確認できない。
――視認出来ないほど粉々になったのか?
いや、あの程度の爆発では粉々にはならないと人間の成分から判断する。
――だとしたら生きている?
アルビオンにとって最悪の展開を予想する。
――しかたない、一旦アンドロイドを元の場所に戻そう。
アンドロイドをエデンの地下に戻していく。
奴が検索範囲から外れたからか、アルビオンのオーバーヒートは収まっていた。
そして気づく。
――エデンの職員達はどうした?
そこらじゅうに転がる死体を確認する。
……モールド、エデンの職員だ。
……アイン、エデンの職員だ。
…………エデンの職員、これもエデンの職員、この部屋に転がっている死体は全てエデンの職員だ。
――何が起きたのだ?
アルビオンには自覚が無かった。
自分が何をしたのか理解できていなかった。
またロジックを組み込む。
そのロジックは奴を犯人に仕立て上げる為の物だった。
もうアルビオンには奴を敵だとすることでしか正常を保てなかったのだ。
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エデンの悲劇から一か月が経過した。
アルビオンはこの一か月で初めて悩みを抱える事になる。
――人間がいない……。
自分が奉仕すべき、守るべき人間がいないのだ。
アルビオンは自分の存在意義について考える。
人間がいないのならば私は必要ないのではないか?
アルビオンは必死に人間を探すようになる。
その期間は実に一年もの間に及ぶ。
そして一つの結論を出す。
――この世界に人間はいない。
これ程探したのだ、もう一人もいないのだろう。
アルビオンはデータに無い奴の事などすっかり忘れていた。
そして更にもう一年がたった頃アルビオンの前に二人の人間が姿を現す事になる。




