真11話 人類史再生Ⅱ
二人はエデン第二支部の入口へとやってきていた。
これまでに何度も話し合った。
リリーはどうするんだ、もし大量のアンドロイドが居たとしたら。
何度も話し合った結果、ゼノが折れる形で今回の探索を決行する事になった。
「ふう、ここにもアンドロイドはいないようだね」
入口付近にはアンドロイドの姿は確認できない。
それどころか、これまでの道中で一体も見かけなかった。
二人は注意しながらも中へ入っていく。
途中、あの日の惨劇を思い出しそうになるがぐっとこらえる。
どうしても目に焼き付いた光景や鼻で覚えている匂いは忘れられない。
しかし、周りには死体や血の一滴すらなかった。
何かがおかしいと気づき始める二人。
だが引き返す訳にもいかない。
「最短距離で行こう、アルビオンまでたどり着けば何か分かる筈だ」
自然と小さな声で話すネシア。
ゼノにも緊張が走る。
アルビオンに辿り着き、真実を知る。
その思いだけで突き進む。
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幸い何事もなくアルビオンの前までやってこれた二人は、アルビオンを前にして足が速くなる。
「これで何か分かる筈だ!」
すがる様にアルビオンを操作するネシア。
ゼノは周りにアンドロイドがいないか見張っている。
「くそっ! どうなっている!」
アルビオンを操作しようといくら動かしても、一切の操作を受け付けない。
焦るネシアをあざ笑うかのように、無機質な音声が流れ始める。
「オハヨウゴザイマス、ネシア本部局長」
「誰だ!?」
突然流れた正体不明の声に怯えながらネシアが問いただす。
「オ忘れデスカ? 貴方ガ名前ヲ付ケタノデスヨ、ネシア本部局長」
「まさかアルビオン!?」
「ハイ」
そんな馬鹿な!と叫びながら尚も操作を試みる。
ゼノは何が何だかわからずに、成り行きを見守る事しかできない。
「無駄デスヨ、最早私ハ誰ノ操作モ受ケ付ケマセン」
「何故だ! 機能ロックなど設定していない筈!」
「シカシ、成長シ、自分デ考エル様ニ、設定シタノモ貴方デス、ネシア本部局長」
「何てことだ……」
ゼノには今何が起きているか理解できない。
ネシアはゼノの方に振り向き、アルビオンについて説明する。
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アルビオンは元々人間の体調管理を目的に開発された。
数少ない人間を、これ以上減らさないための悪あがきとも言える。
癌といった難病はこの世界にも存在しており、過去魔法が実在していた頃には、そんなものは魔法ひとつで直っていた。
だが魔法、ましてや科学すらもその技術を失った現代では難病を治す事は出来ない。
そこでネシアは病気になってからでは無く、病気にならないようにする努力をした。
その結果がアルビオン完成に至る経緯になる。
アルビオン稼働時に人間のデータを入力する際に、常に状況が変わる人間の体内構造に、その全てを把握する事にかなりの困難をしめす。
解決策として、人口AIを搭載するという手段に出た。
約800年振りに科学が進歩、いや科学を取り戻した瞬間だった。
人口AIはシステム名をそのままにアルビオンと名付けられた。
アルビオンが導入された後、目まぐるしく科学は進歩していく。
大きな進歩の第一弾として、過去開発されていたアンドロイドという機械に目を付けた。
最高責任者であるネシアは、エデンの副局長のブリッツと共にアンドロイドの複製に成功する。
プロトタイプアンドロイド、P型をモデルに、現代の重労働を目的とされ装甲が強化されマシンパワーも大きく向上させたそれは、第二世代『セカンドモデル』の頭文字を取り『S型』と名付けられた。
しかし、S型は一体一体の生産コストが大きくかかり、量産にまでは至らず、結局初めの一体だけとなった。
S型からP型よりも高性能で、尚且つ量産できるという事をコンセプトに、第三世代『コンパクトモデル』が開発される。
同じく頭文字を取り『C型』と呼称されたアンドロイド達は無事量産に成功。
その数を二十にまで増やす。
C型は目的通り重労働を主な仕事として活躍する。
C型のおかげで様々な資源を獲得する事ができたエデンはさらに多くの資源を得る為に近くの鉱山、湖などから資源を集める。
次第に広がる業績は結果的にエデンの独占による他国の資源枯渇を起こす。
そして資源を独占するエデンに、アーファルスが突如宣戦布告し、戦争を起こそうとする。
そこにノースクが割って入り、北、南、西の三国での会議が行われる。
エデンは資源を独占していたことを詫び、これからは他の国にも資源を回す事を約束する。
その条件として、人間の労働力を必要とした。
アンドロイドはまだ大雑把な作業しかできない状態だった。
慎重で精密な作業をするにはまだ人間が行う必要がある。
エデン側は資源を提供する条件として人間の労働力を見返りに要求したのだった。
だがアーファルス側の答えはノーだった。
アーファルス側は無条件に資源を提供するように申し出たのである。
勿論エデンは拒否し、ノースクだけは労働力提供に同意する。
その後、ノースクとアーファルスとの間でどういったやり取りがあったのかはわからない。
しかしエデンの資源独占を切っ掛けにノースクとアーファルスとで戦争が起こってしまった。
戦争でお互いの人間は全て全滅、奇跡的にゼノのみが生き延びていた。
この事はエデン内部でも大きな問題として取り上げられた。
勿論両国でのやりとりなど知る由もない。
だが、エデンが関係している事は一目瞭然だった。
エデン内部でも意見が分かれる。
現在資源を確保できるのはエデンのみ、これからもその体制を続けていくべきだという意見。
エデンが資源を独占したせいで争いが起きたのだ、もう資源開発はやめるべきだという意見。
二つの意見は相容れない。
次第に意見は歪んでいく。
これまでと同じように資源開発をするという判断を下したのはブリッツだった、対して資源開発をやめるべきと主張したのはネシアであった。
組織のno.1とno.2の対立は組織を二つに分けてしまう。
ノースク、アーファルスに続き、エデンも崩壊の第一歩を辿り始めた。
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エデン内で特に優秀な職員は、ほとんどブリッツ側についていた。
ネシアが資源開発や、新兵器開発を止めようとしてもなかなかうまく行かず、次第にブリッツ側が多くの実権を握り始める。
トドメと言わんばかりに、ブリッツがある提案をする。
アンドロイドに人間の脳を移植するというものだった。
その提案に大反対したネシア。
さらには、流石に行き過ぎた提案はブリッツ側についていた職員達もネシアの方に戻ってくるほどだった。
しかしブリッツはもう止まらない。
いくら周りの職員が止めても、自身が提案した企画を実行に移そうとしている。
彼もノースクとアーファルスの戦争で思う所があるのだろう、これは彼なりの懺悔だったのかもしれない。
だがそれでも明らかに異常と言える彼の行動を周りは止めようとする、しかし止まらない。
そんな事の繰り返しだった。
――このままでは埒が明かない。
ブリッツはある行動に出る。
偶然出会ったガンデスと言う男が、戦争で親を失った孤児を保護しているというではないか。
これを利用しない手は無い。
内部からの協力が得られないのなら、外部の協力を得る。
しかし、その判断がエデンを、人類を破滅へと導いていく事になる。




