真10話 人類史再生
あれから三か月がたった。
何度か外の様子を確認したが、この辺りにはアンドロイドの姿はないようだ。
「今日は少し遠くまで偵察してみようと思う」
ネシアはこれまでの探索で成果が得られなかった事に焦りを感じていた。
ゼノが危ないからと止めようとしても、全く譲らなかった。
一人では不安だと、しかたなくネシアについていくことにするゼノ。
「何処まで行くの?」
「そうだねどうしようか」
目的地をどうするか悩んでいると、ネシアが思いついたように提案する。
「ここからすこし北に行った場所にアーファルスという国がある筈だ。そこに行ってみよう」
アーファルスという名を聞いてゼノは思い出す。
3年前ノースクとアーファルスの戦争で両親を失ったこと思い出す。
少しトラウマがフラッシュバックしたが持ちこたえる。
「大丈夫かい?」
「うん、大丈夫」
まだ完全にトラウマを乗り越えたわけでは無かったが、立ち止まってはいられない。
意を決してアーファルスへと向かう二人。
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「ここももう……」
アーファルスへとたどり着いた二人だったが、国はボロボロで人の気配など微塵も感じられなかった。
「戦争した後から人がいないみたい」
ゼノが何気なく口に出したその言葉通り、アーファルスに人がいない事にアンドロイドは関係無い様だった。
しばらくアーファルスを探索していら二人だったが、ガシャン、ガシャンという聞きなれない音を聞き耳を澄ませる。
「こっちの方から聞こえる」
ネシアは音を立てない様にゆっくりと動く。
物陰に隠れながら音の鳴る方を確認した後、ゼノにもこちらに来るように言う。
ゼノもネシアと同じように音を立てない様にゆっくりネシアの方に向かう。
無事物陰までたどり着いたゼノはそっと物陰から顔を出す。
(ひっ……!)
思わず叫び声を出しそうになった所をネシアが口を塞ぐ。
――アンドロイドがいた。
エデンでゼノ達を襲い、ナーファやリリーに危害を与えたアンドロイドがだ。
何の目的でこの場所にいるのか?
我々を探しているのか?
目的は不明ながらも、ばれないようにアンドロイドを観察する。
アンドロイドはキョロキョロと辺りを見回しながら落ちている木材やガラクタ等を拾い上げては捨て、拾い上げては捨てを繰り返している。
「何をしているんだ……」
ネシアの問いに答える事はできなかった。
何の見当もつかない、聞きたいのはゼノの方も同じだった。
やがてもう一体アンドロイドがやってくる。
後から来たアンドロイドは、前からいたアンドロイドとは違い、木材などには目もくれずこの場所全体を捜索しているような雰囲気を感じる。
このままいればいずれ見つかる。
そう判断したネシアはゼノを連れアーファルスを後にする。
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「一体なんだったんだ」
帰ってきて早々ネシアがため息交じりに呟く。
勿論ゼノには答える事が出来ない。
「一度ここの資料を洗いざらい読み直してみるよ」そう言い残しネシアは部屋を出ていく。
ゼノもリリーが眠る部屋の方へ向かう。
部屋の中で、リリーの安らかな顔を見て安心する。
同時にガタガタと震えが止まらなくなる。
(怖い……)
もし見つかっていたら……。
もしあの場に一人だけだったら……。
考えれば考える程震えが止まらなくなる。
どうしてもエデンでの出来事が頭をよぎる。
もう一つの戦争でのトラウマなどかき消すように、どんどん大きくなっていくのがわかる。
戦争の時は5歳、正直に言って記憶があやふやな部分が多い。
だがエデンでの出来事はたった数か月前の出来事。
より鮮明に、生々しく残っている。
アンドロイドに持ち上げられた時の感触、人間味を感じない冷たさ、人々の悲鳴、血の匂い。
全て鮮明に覚えているからこそ、ゼノを恐怖のどん底に落とし込む。
いくら勇気を振り絞っても、実際に目の前に立つと何もできなかった。
対して、ネシアはアンドロイドをじっと観察し、少しでも情報を得ようとしていた。
きっと怖かっただろう。
今にも逃げ出したかっただろう。
だがネシアは目をそらすことなく凝視していた。
強いと感じた。
自分には無い強さだと思った。
ネシアも同じように大切な人を失ったはずだ。
だが彼はそれに正面から向き合おうとしている。
これでは駄目だともう一度自分を奮い立たせる。
リリーが目覚めたとき、胸を張っておはようと言えるように。
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「ゼノここに居たのか」
何枚かの紙束を持ってきながら帰ってきたネシア。
その中の一枚をゼノに見せる。
「多分さっきのアンドロイドはこのタイプを元に作られていた筈だ」
その資料には『プロトタイプアンドロイド』と書かれていた。
同時に何枚かの写真を渡される。
確かにアーファルスで見たアンドロイドと似ていた。
ネシアの言う通りで間違いないとは思ったが、結局なぜあの場所にアンドロイドが居たのかの説明がつかない。
「そこなんだよねえ……」
同じくネシアも頭を悩ませていた。
結局この日は大した収穫も無く終わりを迎える。
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アンドロイドの暴走からさらに2年がたった。
あの時以来一切アンドロイドを見かけなくなった。
何度かアーファルスやノースク、パコイサスにまで足を運んでも大きな収穫は無く、ただ時間だけが過ぎていく。
あれから変わった事と言えば、食糧の限界が近くなり、偶然にもあった作物の種を使い自給自足の生活が始まった事だろうか。
今日も例外なく外にある畑へと足を運ぶ。
いつもの様に水をやりに畑の中へ入ろうとしたときに気づく。
作物がいくつか抜かれていたり折られていたりしていた。
大慌てでネシアの元に向かうゼノ。
「ね、ネシア! 作物が荒らされている!」
息を切らせながら慌てた様子で言う。
「何だって!?」
ネシアは慌てて外へ出る。
畑まで来た二人は興奮を抑えきれないまま中へ入る。
「ここだよ」
ゼノが案内した場所には荒らされた作物の他に足跡がいくつかあった。
「これは」
間違いなかった。
アンドロイドだ。
この世界で人間はネシアとゼノとリリーの三人だけ。
であれば誰が畑を荒らしたのか?
アンドロイドしかいないのである。
何故今になって?
2年姿を現さなかったアンドロイドが、突然痕跡を残してきたのだ。
何かのメッセージなのだろうか、もしかすると場所がばれたのだろうか。
様々な考えが思い浮かんでは消える。
埒が明かない。
考えても結論は出ない。
ネシアは決意したように一つの提案をする。
「ゼノ……エデンの第二支部に行ってみないか?」
その決断は後のゼノの運命を大きく動かす事になる。




