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ワールドレクイエム  作者: husahusa
第一部「ワールドエンド」 第三章:過去編
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真9話 ゼノの記憶Ⅱ

 疲れが溜まっていたのだろう、気づけば部屋の外の壁にもたれかかり寝てしまっていたゼノが起きる。


(毛布だ……)


 あの男が掛けたのだろうか、ゼノは毛布を羽織りながら緊急手術室へと入る。


(いない……)


 手術室はもぬけの殻で、リリーも男もいなかった。

 途方に暮れるゼノは、手当たり次第に他の部屋を探す。

 何個目かの部屋で気持ちよさそうに眠るリリーを見つける。

 安堵のため息をつきながらヘタリ込むゼノの後ろから声がする。


「おはよう、少年」


 振り返ると男がいた。


「リリーは?」

「大丈夫、彼女は助かったよ」

「良かった……」


 ようやく張っていた気が抜ける。

 男も少し笑っていた。


「さて、何から話せばいいのか」


 男はゼノに悪魔と取引するという言葉の意味を説明しようとしていた。


---


「まずは自己紹介から始めようか、僕の名前はネシア。エデン管理局本部の局長、つまりリーダーをしている者だ」

「エデン管理局の局長……ブリッツさんは?」

「彼は第二支部の局長だね、No.2といったところだよ。とても我の強い男だった、アルビオンを見ただろう? 実はあれは殆ど第二支部だけで制作していた物なんだ、情けない話だが、実権は殆ど彼に握られていてね、彼を止められなかった」


 まさかこんな結末になるとは、そう言いながらネシアはうなだれる。


「君の名前は?」


 気分転換とばかりにゼノの名前を聞いてくる。

 正直に答えて良いものかと迷ったが、素直に自分の名を名乗る。


「ゼノ、8才……です」

「そうかい、ゼノと言うのかいよろしくね」


 ネシアは笑顔で握手を求める。

 戸惑いながらも握手にこたえるゼノの手を、ネシアは強引に自分の方に引き込む。

 何事かとネシアの顔を見ると笑顔を絶やさなかった先ほどまでとは違い、真面目な顔付きでこう言い放つ。


「ゼノ、君にこの世界での出来事を全て話そうと思う」


 ネシアの迫真の表情に思わず生唾を飲み込む。

 ゼノはこれからネシアに聞かされる話がどれ程壮絶なものなのかと子供ながらに覚悟する事になる。


---


 事の発端は約1000年前にも遡る。

 その時代には今の時代と同じく、『魔法』と言う概念が存在していた。

 しかし、今の時代とは違い、四大元素という概念は無かった。

 人々は自由に様々な魔法を使い、時には空を飛び、時には自身を獣の姿に変えたりもしていた。

 一口に魔法と言っても1000年前のそれは幅がとても広かったのである。


 世界が壊れ始めた発端は、エデン管理局を設立した初代管理局長である男が、幼馴染の二人と一緒に、一つの遺跡に迷い込む。

 その遺跡の中は狭く、壁一面に大きな壁画があるだけの殺風景な場所だった。

 何気なくその壁画に触れた男は途端に魔法に目覚める。


 初めて世界に魔法が生まれた瞬間だった。

 それから男は3年足らずでエデン管理局を立ち上げ、世界に魔法と言う概念を生み出したのである。


 エデンは順調にその功績を広めていた。

 しかし行き過ぎた技術はエデンを破滅へと導く。

 この世界以外の存在を確認したエデンは、その世界への侵入を試みる。

 『次元転送』と呼ばれた技術は、エデンの人々を別次元へ飛ばし、尚且つ帰って来る事にも成功した。

 決してその時代や世界の人間と関わらない様にし、どのような技術を持っているのか、どのようにものを利用しているのかを探る為だけに次元転移を行っていた。


 しかしある世界に次元転移した際にトラブルを起こす。

 次元転移に成功した職員は、いつも通り転移先の世界の調査に移ろうと準備をしていた。

 その最中に突然転移装置が暴走を始め、その世界の至る所に亀裂を入れ始めた。

 やがてその亀裂は職員達を飲み込みながら消滅する。


 職員達も奇跡的に無傷で帰還する事が出来たが、トラブルが一つ。

 転移先の世界の人物である女性が職員達に巻き込まれる形でエデンの世界に来てしまっていた。

 職員達は大慌てで元の世界に戻す方法を探る。

 しかし、同じ情報を打ち込んでも、似た世界の情報からその人物の世界を割り出そうとしても、とうとう元の世界に帰る事は出来なかった。

 職員達が落ち込む中、その女性だけが目を輝かせる様に言った。


「この世界はまるで御伽話の様な世界だわ」


 彼女は自分の職業を『科学者』だと名乗った。

 科学というものはエデンの職員達にとって、それこそ彼女が言うように御伽話の世界のものだった。


 しかし彼女は持ち前の頭脳で魔法を利用し、科学と言える技術を生み出した。

 それがアンドロイドだ。

 アンドロイドはまさに科学と魔法の融合といった代物で、後の世界の技術を大きく成長させる。


 昔のアンドロイドは試作品という事もあり、今のものとは比べ物にならないぐらい粗末な物だった。

 人間の補助なしでは歩く事さえままならない。

 そのアンドロイド達は個別番号と言うものが与えられた。

 試作品、つまりはプロトタイプの頭文字を取って『P型』と呼ばれる事になる。


 P型は惜しくも作業投入される事は無かったが、その時代から更に200年たった頃。

 エデンの技術は更に成長を遂げていた。

 ある職員がとある地下施設でとっくの昔に機能停止していたはずのP型アンドロイドを発見する。

 その事を皮切りにエデン内でクーデターが起き、エデンは崩壊への道をたどる事になる。


---


 ネシアから渡された『データログ』というものを読み終える。


「因みにこのデータログって奴も、この文章の中に出てくる科学という要素がふんだんに詰め込まれているものだ」


 ゼノも昔子供に読み聞かせられた本の中で科学というものが出てきたのを覚えていた。


「でもこれって1000年前の出来事ですよね?」

「ああそうだ、僕も到底信じられなかったんだが、現にアンドロイドという存在が生まれた、いや、蘇ったと言うべきか。とにかく奴らは目の前に現れ人々を襲った、それは紛れもない事実なんだ」


 ゼノもアンドロイドを目の前で見ていた。

 とてもその存在を否定することなどできなかった。


「僕は他のデータログも見てみたんだが、このエデンのクーデターを切っ掛けに人類の数と共に生活レベルも落ちてしまっている」


 ゼノにも心当たりがあった。

 もし科学が存在していてこのデータログの通り、魔法の技術と科学の技術が合わさればこの世界の技術レベルは今よりもっと高かった筈だ。

 しかし現実は科学どころか魔法すら消滅していた。

 人類の人数は大幅に減少していた、エデンと言う一組織だけでその人数を把握できる程に。

 その少ない人類もアンドロイドにより虐殺されてしまった。


「あの、エデンにいた人達はどうなったんですか?」

「隠しても意味がなから言うけど、おそらくもう……」


 では今この世界で生きている人間はネシア、ゼノ、リリーの3人だけと言う事になる。


「今アルビオンがどういう状態なのかはわからない、そもそも何故暴走したのかさえ……とにかく! しばらくここに身を隠す必要がある。幸い食糧にはまだ備えがある筈」


 そういって部屋の壁をコンコンと叩く。

 すると何かのスイッチが入った音がする。


「よいしょっと」


 ネシアが壁を横にずらすと、埃が経ち、悪い空気が流れる。

 ネシアは構わず咳を抑えながら中へ入っていく。


「あったよ!」


 ネシアの嬉しそうな声が響く。

 ネシアの手招きでおそるおそる中へ入っていくゼノは、歓喜の悲鳴を上げる。


「すげー!」


 実に子供らしいリアクションに、自然とネシアの顔も緩む。


「原始的な保存方法だけどね、ほら!」


 ネシアがゼノにある物体を見せる。

 中身にはコッペパンが入っていた。

 長期間放置されていたにも関わらず、鮮度を落とさずにいたそれにゼノは喜んで噛り付く。


「密閉された入れ物の中に、保存したい食べ物を入れることで通常よりも長く持たせる知恵だよ」


 得意げに語る。


「その方法を応用して、この小部屋を密閉空間にしていざという時に役に立つようにある程度保存食を入れておいたのさ、10年前にね」


「どうやら密閉し切れてなかったみたいだけどね」と埃を眺めながら笑みをこぼす姿に、初めて人間味を感じる。


 この人は信用するに値する人物だろう。

 ゼノはそう思う。

 同時に食料を確保したという安心感も得る。


 これならリリーもしばらく大丈夫だ。

 やさしさからそう考えたゼノは、ネシアに問いかける。


「リリーはいつ起きるの? ごはんとかは大丈夫?」


 その問いにネシアが凍りつく。

 何かまずかったのか、もしかしたらリリーは助からないのか不安がゼノを襲う。

 問いに対しての沈黙に、泣きそうになっているゼノを見て、ネシアが慌てた様子で答える。


「大丈夫、彼女は生きているよ。ただ……」


 ネシアは言いあぐねている様子だった。

 ゼノは急かすように再び問いただす。

 観念したようにネシアが答える。


「彼女が目を覚ます様子が無いんだ。もしかしたら一年、十年目を覚ます事が無いかもしれない。昏睡状態ってやつなのかな……」

「そ……んな……」


 動揺を隠せないでいるゼノに励ますようにネシアが肩を叩く。


「でも死んでいる訳ではないんだ! きっといつか目を覚ます。それまで二人で頑張ろう」


 ゼノを励ます姿は、出会ったころとは真反対で、きっとこの姿こそが本来のネシアなのだろう。

 ネシアのやさしさに触れながら、涙を拭い笑顔で答える。


「うん、頑張ろう!」


 極限状態の中で出会った二人の間に、確かな絆が生まれた瞬間だった。

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