真7話 リリーの記憶Ⅱ
「さあ、着きました! これがアルビオンです!」
ブリッツが自信満々に『アルビオン』と呼称した巨大な機械は、リリー達を圧倒し、それを目にしたリリー達は言葉が出ない。
ナーファも口をあんぐりと開けており、ゼノも少し怯えている様だった。
ガンデスは「凄い」と一言呟いたまま黙ってしまっている。
リリーも圧倒されてしまっている。
一つの巨大な機械アルビオンには多くの職員であろう人間が、様々な作業をして機械を操作している様だった。
今までに見たことが無い光景にどの様に表現したらいいのかわからず、言葉に詰まるリリー、その様子に満足したようにブリッツが続ける。
「先ほど量産していたアンドロイドがいるでしょう? 貴方達はそれらをどう管理しコントロールするのかという部分が引っかかっているかと思います。」
ブリッツが見透かしたかのように言う。
「その答えがこれです! このアルビオンこそが大量のアンドロイドを管理できるものになります!」
両手を大きく広げながら高らかに言うブリッツの姿に、周りの職員達もくすくすと笑い声を上げている。
「き、君たち!? 何故笑う!」と顔を赤くしながら職員達の方に詰め寄る。
よほど仲がいいのか、この場所には笑顔が絶え無い様だ。
「ちょっと待ってくれ! このアルビオンという巨大な物はなんなんだ!」
ガンデスの言葉に水を差されたブリッツは少し苛立ちを露わにしながら、『アルビオン』という機械の説明を忘れていたことを詫び、再び自慢げに語りだした。
「このアルビオンという機械は、先ほども申し上げた通りあくまでアンドロイドを管理する為のものです。何時、どの場所に、どの数のアンドロイドがいるのか、又どの様な事をしているのかをアルビオンで把握する事ができます。
さらには、このアルビオンを使えば好きなタイミングでアンドロイド達に個別に命令できるのです、人間の代わりに力仕事をさせるもよし、人間が入れないような危険地帯に向かわせるもよし、今は人間が働かずに代わりアンドロイドが働く時代なのです!」
ブリッツは満足し、話し終えると改めて二人のリアクションを見る。
リリーとガンデスは話のスケールの大きさに、我々二人がこのプロジェクトに協力できることなんてあるのかと考える。
考えた結果当然手伝える事など無いと言う結論になる。
「それは本当に可能なのか……?」
最終確認としてもう一度ガンデスが尋ねる。
「ええ、勿論! ……もっともここの管理局長には余りよく思われてませんがね……」
途端に暗い顔になるブリッツ。
どうやら管理局長とはうまくやっていけていないらしい。
このプロジェクトにも協力的ではないのだろう。
リリーはようやく今日ここに呼ばれた意味がわかった。
要は署名活動と一緒だ、内部の者からよく思われていない以上、今以上の協力を得る事はできない。
そこで外部の者を見学と称し、アルビオンやアンドロイドの素晴らしさを説明する。
そうやって外部の者の署名を集め、直談判か何かをし、管理局長の協力を得ようと言った算段なのだろう。
(なかなか考えているのね、てっきり考えなしに行動してるのかとも思ったけど……)
リリーが関心していた頃、ブリッツに職員の一人が耳打ちしに来る。
何を耳打ちされたのか、途端に血相を変えてアルビオンの方へ走り出すブリッツ。
「そんな筈はない」と叫びながら職員を跳ね除けアルビオンに繋がれている機械を操作する。
その様子にリリー達も何かトラブルがあったのだと悟る。
やがて突然他の職員に退出を促され、何が何だかわからないままリリー達は部屋から出て、再びガラス張りの長い通路へと出る。
「此方です」と職員に案内された先は来た道とは違う道だった。
何かあったのかと問いただしても、職員は「大丈夫ですから」とだけ言い、リリー達を早く外に連れ出そうとしている様だ。
明らかに何かあったに違いないと感じながらも、リリーは指示に従う。来た道とは違う扉へと案内され先に進もうとした矢先、リリー達の後ろ側から
――ガシャンっ!
と大きな音が鳴り、上からガラスの破片が落ちてくる。
ガラスが割れた音だと理解するが、同時に先程地下に居たアンドロイドが飛び出してきていた。
「え、どういう事……?」
リリーが戸惑っている数秒の間にアンドロイドが距離を詰め、リリーの目の前までやって来たアンドロイドは、リリー目掛けて拳を振り降ろす。
間一髪ガンデスが身を挺してリリーを助けるが、アンドロイドの拳はガンデスの左足へと振り下ろされていた。
「うわあああああああっ!」
左足が潰された痛みと驚きでガンデスが悲鳴をあげる。
「ガンデス!? ガンデス!!」
必死にガンデスに呼びかけるリリー、恐怖で体が震えているナーファ、ゼノも戦争での出来事を思い出しガタガタと震えている。
そんな事は御構い無しにアンドロイドは再びリリーに狙いを定め拳を振り下ろそうとしていた。
リリーはそれに気づかずに、ガンデスに声をかけ続ける。
そして再びアンドロイドの腕が振り下ろされようとしたとき、今度はリリー達を逃がそうとしていた職員が、アンドロイド目掛けタックルをしていた。
「その人と子供たちを連れて逃げて下さい!」
必死にアンドロイドにしがみつく職員がリリー目掛けて言う、リリーも戸惑いながらも扉へと向かうが、職員は簡単に壁に跳ね除けられ衝撃で即死していた。
三度リリーの前に立ちふさがるアンドロイドは、今度こそ仕留めまいと拳を振り上げる前にリリーを捕まえようとその手を伸ばすが、重傷を負っているガンデスが最後の力を振り絞りアンドロイドの腕を掴む。
「リリー! 早く逃げろ!」
「でも貴方が!」
「いいから! 早く!」
ガンデスの決死の覚悟を見たリリーは、涙ながらもナーファとゼノを抱えてエデン管理局の外へ脱出する為、扉へと走り出す。
その様子を見届けたガンデスはアンドロイドに向き合う、人間と一緒の形をしていながら決して人間ではないその物体を前に呪文のように呟く。
「俺は無敵だ、俺は無敵だ……絶対にこいつを倒して皆の元に向かうんだ!」
しつこく付きまとうガンデスに、アンドロイドは標的を変え、瀕死のガンデスに向かって襲い掛かる。
「俺は無敵だあああああああ!」
ガンデスは自分に言い聞かせるようにそう叫びながらアンドロイドへと立ち向かう。
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気づけば辺りから幾つもの悲鳴が聞こえる。
暴走したアンドロイドを止めようと職員たちが体を、命を張っている。
リリーはそんな光景から逃げるようにナーファとゼノを連れてエデンの外へと足を進める。
(あと少し……あと少しで出口だ。)
そう考えながら足を進めると、すこし開けた場所に出る。
扉がいくつかあるが、来たときとは違う場所なのでどれに進めばわからない。
「何処に進めばいいの……」
リリーは力なくその場にへたり込む。
その様子を隣で見ていたナーファとゼノが言う。
「こっちに行こう!」
「いや、こっちだ!」
この状況で言い争いを始める程の元気を持っている事に驚く。
だが、彼らは足を止める事無く先に進もうとしている。
そんな彼らを見て、リリーはこんな調子じゃダメだと気を引き締める。
「ナーファ、ゼノ! こっちから来たんだからあの扉に行きましょう!」
リリーは二人をこちらに誘導する、その瞬間上から2体のアンドロイドが降ってくる。
そのアンドロイド達にナーファとゼノは捕まってしまう。
「ナーファ! ゼノ!」
一瞬の出来事に反応が遅れる。
このままでは二人が連れ去られてしまうと感じたリリーは、とっさにアンドロイド達に向かうが、容赦なく殴られ壁に激突する。
そしてさらに3体目のアンドロイドが上から降ってき、リリーも捕えられてしまった。
リリーは必死に抵抗するが、リリーの力では何の意味もなく3人は連れ去られてしまう。
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連れ去られる過程でリリーはある巨大なモニターを見る。
そこにはこの世界の人間の情報が載っているのだろう、リリーとの距離では詳しく文字を読み取る事は出来なかったが、中でも一番大きく表示されているものだけはその距離でも読み取ることが出来た。
そこには残りの人間の生存人数が記載されており、その数は50、40、30とどんどん数を減らしている。
リリーはエデンで残りの人間を監視していたり管理していた事を知ったと同時に、もうほとんど人間が生き残っていないと理解する。
そのあまりに大きな事実にショックを受け、リリーはとうとう気を失ってしまう。
アンドロイド達はその様子に気づいても構わず進み続けていた……。
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次にリリーが目を覚ました場所は見知らぬ部屋のベットの上だった。
「ここは……」
リリーの目の前に男が一人。リリーが目覚めた事に気づいたのかこちらに近づいてくる。
リリーは警戒するも思うように体が動かない、ふと体に違和感を感じる。
――右腕の感覚が無い。
違和感に気づいたリリーは自身の右腕の方を見る。
「あ、ああ……ああああああっ!」
リリーの右腕は右肩から下が無くなっていた。
思わず発狂するリリー、現実を受け入れられない様だった。
そのリリーの様子に気づき、男は駆け足でやってくる。
「リリー! リリー大丈夫だ、リリー! くそっ精神安定剤を早く!」
周りにいたアンドロイドは男の命令で精神安定剤をリリーに点滴を打つ。
点滴のおかげか少しは落ちついたリリーは男の方へと向き直る、男はその様子を確認するとゆっくりと告げる。
「おはよう、リリー」
目の前の見知らぬ男が自分の名前を知っている事や、アンドロイドを操っている事からエデンでの出来事の犯人だと考え飛びかかろうとするが、身体に力が入らず、逆に男に助けられる事になってしまう。
憎き相手に助けられたことに怒りをむき出しに男を睨むとある事に気づく、どこか見覚えがあるような……。
「リリー、わかるか? 俺だよゼノだよ……」
涙ながらに自分をゼノだと言う男を見て、彼が成長したとしたらこんな男になるだろうなと思えるぐらいにその男はゼノの面影を持っていた。
しかし、ゼノはまだ子供、幾ら似ていると言っても、明らかに別人だとリリーは男の手を跳ね除ける。
その衝撃でベットから落ちてしまうリリーは回りに10体以上のアンドロイドがいる事に気づく。
(やはりこいつがエデンでの出来事を起こしたのか!)
そう思うと怒りが抑えられないリリーはゼノと名乗る男に叫ぶ。
「お前がやったんだろう! 全部お前がっ!」
必死に叫ぶが、やがて声を出すのもつらくなりその場にうずくまってしまう。
そんなリリーを男はベットへ戻そうと抱き上げる。
「さわ……るな」
力なくつぶやくリリーを横目に布団を掛ける男は語り出す。
「リリー、よく聞いてくれあの時からもう十年も経っているんだ、俺はもう18才になるんだよ」
こいつは何を言っている?目の前の男は先ほどからリリーには理解しがたい事ばかり言い放つ。
リリーの怒りは収まらないが、彼女には男を睨みつけることしかできない。
「信じられないのはよくわかるよ、俺もこんな事現実に起きてほしくなかった」
悲しげに語る男はこの十年間で何があったのかをリリーに一つ一つ説明していく。
「まずはエデンでリリーが気を失ってからの事を話そうか」
そう言うと男はゆっくりとしかしはっきりとした口調で語り出していくのだった。




