真6話 リリーの記憶
「リリー!」
誰かが私を呼ぶ。
声の方を向くと、ガンデスが帰って来ていた。
私はガンデスへと駆け出す。
「ガンデス、おかえりなさい」
「他の奴らは?」
ガンデスは両手にたくさんの荷物を抱えている。
その中の一つを受け取りながらアジトの方へ向かう。
「パコイサスの様子はどうだったの?」
「ああ、相変わらず賑やかだったよ、街中も城の中も」
「そう、よかった」
ガンデスは久しぶりに故郷のパコイサスへと里帰りしていた。
「おねいちゃん! おじさん! お帰りなさい!」
「ナーファ、いい子にしていたか?」
8歳になる少女ナーファは、戦争で両親を亡くしている孤児であり、このアジトはそんな孤児を保護する為に建てられた養護施設の様な物だ。
ここには後もう一人、ナーファと同じ8歳のゼノという少年がいる。
彼も戦争で両親を亡くしここに拾われた、しかし、両親の死というショックからか、あまり喋らない。
ガンデスは、今は時間が必要なタイミングだから、もう少し様子を見ようと言っていたが、本当にそうだろうかとリリーは思い悩んでいた。
リリー自身も、戦争ではないが、母が事故で行方不明になっているので、少しは気持ちがわかるのだが、少なくとも時間が解決してくれることは無かったどころか、増々やるせない気持ちになっていた。
だからこそリリーはゼノに積極的にいかなければならないと思っている。
「積極的にといってもなあ……具体的にどうする?」
……それを一緒に考えて欲しいのだけど。
心の中で悪態をつく
ガンデスは余り協力的では無いようだ。
「あ、そうだ」
都合が悪くなったのか、ガンデスが別の話題を出す。
いつもこうだ全く話が先に進まない、結局ガンデスのペースになってしまう。
うんざりしながらも、ガンデスの話の続きを聞く。
「たまたまエデン管理局の人に会ってこの施設の事を話したんだが、大いに感動してくれてな、ぜひその活動に協力させてくれと申し出があったんだ!」
「本当に!?」
「ああ、早速翌日にこっちに来てもらえる事になっているんだ」
よかったと思わず胸をなでおろす。
エデン管理局といえばこの世界の平和を第一に活動し、戦争撲滅を掲げている組織の第一人者だった。
これで今の現状も少しはいい方向に変わるかもしれないと前向きな方向で考える。
(こうしちゃいられないわ、色々話す事を考えておかないと……)
リリーはガンデスに準備してくると言い部屋へと向かう。
その様子を後ろから満足げに眺めるガンデス、これまで余り協力的にできなかった自分が、初めて力になれた気がした。
「俺も色々準備しなきゃな!」
ガンデスもリリーにならい部屋へと向かおうとしたが、ナーファとゼノに止められる。
「おじさん、お腹減った……」
思わず笑みがこぼれる。
「もうそんな時間か……そうだなご飯にしようか!」
この子たちの為にも出来る限りの事はしようと改めて決意を固めるガンデス。
明日、この状況を大きく変える、いい方向に、戦争の無い世界に、
それぞれの決意を胸に時間は明日へと進む……。
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「おはよう、リリー」
翌日、先に目を覚ましていたのはガンデスだった。
「おはよう、ところでエデンの人は何時に?」
「もう少しで来るはずだが……」
ガンデスが言うと同時にドアをノックする音が聞こえる。
「来たようだ」
ガンデスがドアを開け扉の前の人物と軽く挨拶を交わす。
親しげに話す様子からお目当てのエデン管理局の人物がやってきたのだろう。
「リリー、紹介しよう、エデン管理局の総務部のブリッツさんだ」
ガンデスに紹介されたブリッツと名乗る男が「どうも」と頭を下げる。
リリーも「どうも」と一言、第一印象はごく普通、悪く言えば平凡な顔つきといった印象だった。
失礼だが、エデン管理局なんて大きな組織に所属しているとは思えないが、見た目だけで判断するのはよくないと、とにかく詳しい話をことにする。
何か突出している才能があるからこそ、エデン管理局に入る事が出来たのだろうから。
「実は私あるプロジェクトの提案をしているんです……」
ガンデスに案内され、テーブルに腰を落ち着ける。
一息ついた後、開口一番にブリッツは話し出す。
「というと?」
ガンデスは興味津々といった様子で、ブリッツの提案というものを待っている。
「ええ、貴方方も今の現状は知っているでしょう? 意味の無い戦争、特にアーファルスとノースクの戦争が激しいです。貴方方もそんな戦争で生まれた孤児を引き取っていると聞いています……そこで私が考案するプロジェクトというのがこちらです」
そう言うとブリッツは一つの分厚い資料を取り出しテーブルの上に置く。
テーブルの上に置かれた資料には「業務用アンドロイド導入・運用計画」と書かれていた。
「アンドロイド……ですか?」
アンドロイドという聞きなれない単語に、いまいちピンとこないガンデスにブリッツはさらに続ける。
「年々人の数は減っていき、さらには農作物といった食糧。つまりは人間が生きるためのものが足りなくなっているのはご存知でしょう? そこで私はこのアンドロイドを人手の足りない場所に送り、人間の代わりに働いてもらおうと考えているんです」
「そんな事が可能なのですか?」
リリーは到底信じられない物事を聞いて思わず口を挟む。
言葉には出さなかったが、ガンデスも同じく信じられない様で口を紡いでいる様だった。
そもそもガンデスにはアンドロイドというものがどういうものなのかの検討すら付いていない。
対してリリーは、思いのほか食いついているようだ。
そんな姿を見て、ブリッツは満足げに答える。
こちらが予想通りのリアクションを取ったのか、よほどこのプロジェクトに自信があるのか、とにかくブリッツは自信たっぷりといった様子で答える。
「もちろん可能です、といってもどうやら信じられない様子ですねぇ……」
こちらの様子に気付き、一つの提案をする。
「であれば実際に見てもらいましょう!」
そう言ってブリッツは立ち上がり、二人にナーファとゼノも含めたエデン管理局への招待見学を申し出た。
ガンデスは「そこまでしていただくわけには」とブリッツの申し出を断ろうとしていたが、話を密かに聞いていたナーファとゼノは大喜びで二人に駆け寄る。
リリーとガンデスは困惑しつつも、子供たちにせがまれてはしかたいとブリッツの提案を了承するのであった。
ブリッツはその様子を見ながら、笑みを浮かべていた……。
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後日、再びやってきたブリッツ。
傍にはエデンの職員であろう人物が数人笑顔で挨拶をしてくる。
その姿からブリッツだけでなく、職員それぞれがこのアンドロイド導入プロジェクトに自信を持っているのがよくわかる。
リリーとガンデスはその姿をみて少し安心する。
ブリッツの独りよがりのプロジェクトでは無く、周りの職員達も自身を持って進めているプロジェクトならば、ある程度は安心できる。
しかし、完全に信用したわけで無い。
ブリッツもその事には気づいているだろうが、リリー達を納得させるだけのものを見せられると確信している様子だった。
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ブリッツの案内でエデン管理局に着いたリリー達は、さらに職員の案内で個室に案内される。
「ここでお待ちくださいと」ブリッツに案内されたが、向こうにも何か準備があるのだろう。
特に気にせず待つことにする。
「何があるんだろうね!」
無邪気にはしゃぐナーファをガンデスが宥める、心なしかゼノも落ち着きが無い様だ。
リリー自身も慣れない土地で少し不安だった。
(アンドロイド・・・本当に信じていいのだろうか?)
ブリッツとのやりとりを思い出し、彼が言っていた事がもし本当なら、確かに現状の労働力といった問題が解決するのは間違いないが……どうにも裏がありそうで素直に納得できない。
――戦争の道具になるのではないか?
ブリッツ自身も言っていたアーファルスとノースクの戦争はもう何年も前から起こっている、それに決着を付ける為にどちらかにアンドロイドを導入する為に動いているのではないだろうか、という最悪の展開も頭をよぎってしまう。
(いまならまだ遅くない、ガンデスに話してみよう)
そう決意し、リリーが立ち上がると同時にドアをノックする音が聞こえる。
リリーは間の悪さを感じながら立ったついでにドアを開ける。
そこにはエデン職員と一緒に得意げな顔をしたブリッツがいた。
「おまたせしました、ご案内します」
待ってましたと言わんばかりにナーファが駆け出す、それを止めようとガンデスもナーファの後を追いかける。
ブリッツはにこやかに「どうぞ」と言ってリリーに退出を促す。
不安そうにゼノが見つめる。
リリーも自身の考えが間違いであることを願いながら部屋を出てブリッツの後をついていく。
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先に出ていたナーファとゼノも、ガンデスに捕まりリリー達の元へともどってきた。
「こちらです」
ブリッツの案内で長い通路に出る。
両側は透明なガラスが貼られており、下の様子を伺える。
(地下もあるんだ……)
何気なくリリーが地下の様子を見る。
地下ではブリッツが言っていたアンドロイドが次々開発されており、本格的にアンドロイドの世界進出を目論んでいる事がわかる。
予想以上の規模の大きさに、リリーはどうしても疑念を晴らさずにおけなく遂に口に出してしまう。
「ブリッツさん! 単刀直入に言います、貴方はこのアンドロイド達を軍事利用しようとしているんじゃないですか?」
「お、おいリリー……」
ガンデスが止めようとするもリリーは止まらない。
「貴方は戦争で家族を失った人の為に動いていると言った……でも私にはそれが信用できない! 貴方が今作っているものがその戦争を肥大化させてしまう事になるんじゃないですか!?」
「リリー! もうやめろ……」
ガンデスの制止でようやく止まるリリーに、ブリッツは変わらない笑顔でリリーの意見を否定する。
「確かにその通りですね」と前置きを言いながら、その様な意見が出るのは当然だ、それを踏まえて貴方達の信用を得るものをお見せしましょうと誇らしげに言いながら、ブリッツが次の場所へとリリー達を案内する。
肩透かしを食らった様で脱力するリリーを、励ます様にガンデスが肩に手を置く。
「行こう」
その一言がリリーの不安や焦りを全て見透かしてる様に聞こえる。
――大丈夫だから。
そう言っている様に感じた。
それほどリリーはガンデスを信頼していた。
ガンデスに優しく諭されて、リリーも言い返せなくなり、黙ってガンデスに着いて行くのだった。




