真1話 新たなる朝
-元の月第4日-
(うるさいな……)
ベルは誰かの大声で目が覚める。
不愉快な大声で目覚めたことに苛立ちを覚えながらも、ベッドから起き上がり、部屋のドアを開けようとする。
すると、起き上がった拍子に何かが落ちる。
「なんだこれ……」
ベルは落ちた物を拾い上げる。
それはイデアルに貰ったベルナンドだった。
そのベルナンドを手にした瞬間に、消えていた記憶が蘇る。
(そうだ!そうだった!)
ベルはベットから飛び上がり、慌てて部屋を出る。
急に飛び出してきたベルに驚くノースクの兵士達は、話を聞かれていたと勘違いしたのかどもりながら言う。
「な、なんだ!何か文句があるのか!」
たどたどしく、そして明らかに怯えながら言うノースクの兵士達を意に介さず、ベルは真っすぐにイデアルの元へと向かう。
「ど、どうしたベル?」
一直線にこちらに向かってくるベルに、戸惑いながらイデアルが言う。
「イデアル、少しいいか?」
ベルはイデアルを連れ外に出ていった、そんな二人をオメガのメンバー達とノースクの兵士たちは不思議そうに眺める。
兵士達の横を通ろうと、邪魔な兵士たちをベルが睨みつけながら進む、兵士達はベルの気迫に圧倒され黙って道を開ける。
「おい、どうしたんだ一体!?」
無理やり連れられたイデアルはベルに疑問を投げる。
余りにも強引だったので、ただ事ではないと感じていた。
「イデアル、これに見覚えはあるか?」
ベルが見せた物は2つの『魔石ベルナンド』、大きさは違えど、イデアルそしてオーから受け継いだ魔石だった。
その魔石をイデアルに見せながら言う。
「イデアル、色々と話したいことがある」
---
(あいつら、今まであんな行動しなかった筈だ……何回も同じことの繰り返しで油断していたな)
急に外へ出た二人の事が気になる。
ベルとイデアルの会話が気になる、明らかに何か知っている様だった。
今すぐにでも向こうに向かいたいが……。
(邪魔だなこいつら)
その人物は内心とても焦っていた。
今現在もどうでもいいことで押しかけて来たノースクの兵士達を皆殺しにしてでも、ベル達の元へ行きたいぐらいだったが、ここでそんな事をするわけにもいかない。
悶々としながら対応を進める。
その人物は表情は崩さずに、今までと全く同じ対応をする。
---
「そうか、オーが……」
「ああ、ベルナンドがあれば記憶を維持できるって、実際に今朝起きてからこれを拾ったらとたんに、一気に記憶が蘇ったんだ」
ベルがありのままを言うとイデアルが考え込む。
「どうしたイデアル?」
「いや、少し引っかかるんだ、ベルナンドの効果は知っているか?」
「ああ、資料を呼んだから……」
「そうか、ならわかると思うが、こいつはあくまで魔法を妨害する物質なんだ。それと持った瞬間記憶が蘇るってのがかみ合わなくないか?」
「どういう事だ?」
イデアルが詳しく話し始める。
「いいか、この世界は4日から14日間をループし続けているんだ、つまり決められたタイミング間で時間が固定されているって事だ」
「なあ、正直もうついていけてないんだが……」
ベルに構わずイデアルが続ける。
「これを見てくれ」
そう言ってイデアルが一つのコップを取り出す。
「それ、いつも大事そうに持ってるけど、もうボロボロじゃな……」
ぼろぼろじゃないかと言おうとしてハッとするベル。
「そうだ、そうなんだよベル、時間が戻るというのならいつも使う物も、何もかも全て4日の状態に戻る筈なんだよ、だがこのコップはいつもボロボロのままだ。
ループするといっても毎回完全に同じ行動を取るわけじゃないんだ。
俺もそうだ、何時かに間違えてこのコップに傷をつけてしまった。そしてループしまた4日に戻った時、このコップの傷はそのままだった……」
「じゃあ!」
ベルとイデアルが声を合わせて言う。
「「時間は巻き戻っちゃいない!」」
にやりとイデアルが笑う。
「ベルから聞いたベルナンドの事で確信が持てた、ループしているこの現象は魔法だ! 俺達の世界はちゃんと時間が進んでいる! だが……」
これまでのイデアルの勢いが止まる
「それだけではこの世界が同じことを繰り返し続ける説明には不十分だ」
「なんでだ?」
「俺達は何度も死んでいる筈だ、なのに生き返ってまた4日から繰り返す、これに関しては時間が戻っているとしか言いようがないんだ」
確かにそうだ、イデアルの仮説でいくなら、何故生き返るのかの説明がつかない。
「アンドロイド……」
ふとベルが口に出す。
「アンドロイドだ」
「何?」
「アンドロイドなんだ! 俺はエデンの資料で見たんだ昔エデンで起きた事、アンドロイドの反乱で殆どの人間が死んだって」
「そうか……成程な、でもノースクやパコイサスの人々はどうなる? 奴らはアンドロイドだって言うのか?」
顔を強張らせながらベルが答える。
「多分そうなると思う」
もし仮にノースクやパコイサスの人々がアンドロイドなら、突如おかしくなったのにも説明が付く。
誰かに操られたのか、もしくはあれが本性なのか……真意はわからないが、人間ではないのだろうとベルは考えていた。
「ベル、一つだけいいか?」
「どうした?」
「右腕を見てくれ」
不思議に思いながらもイデアルの言う通り自身の右腕を見る。
右腕には『|P-2001-type-O《ピーニセンイチ-タイプゼロ》』と書かれていた。
「何もないぞ?」
「そう、か……」
ベルは特に気にもせず、イデアルに告げる。
自身の腕に書かれてる数字に、なんの疑問も無く答える姿をみて、イデアルは少し気を落とす様なそぶりを見せる。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
イデアルは帰ろうとベルに言いながら立ち上がる。
ベルもその後を不思議そうにしながら後を追いかける。
(何かまずかったのか?)
二人は先程の事に触れる事無くアジトへと向かう。
---
「おかえり、二人で何をしていたんだ?」
ガンデスが笑顔で二人を出迎える。
「少しな」
はぐらかすベル。
ガンデスは不審そうにベルを見るが、「まあいいか」と小さく呟く。
帰ってきた二人にリリーが先程の兵士達の事情を説明する。
「さっきのノースクの兵士達の事なんだけどね……」
リリーが話し始める。
ノースク国の王女の護衛依頼。
前と同じ事情、同じ内容を話すリリー。
話を聞いていく内にベルが思う。
(また始まるのか……)
ベルは、今度こそは誰もかける事無く、ブリッツの元に辿り着いてみせると覚悟を決める。




