04
キリがいいところで切ったので、少し短いです。
「お姉さま、お姉さま! すごいですね、学園ってこんなに大きいのですね!」
「そうですね、アリス、危ないので座りましょう」
「はい、お姉さま!」
学園の入学式当日。
アリスは馬車から見える景色に興奮して声を上げた。
淑女らしくありません、と言っても良いが、これこそが彼女の良さでもある。
それに、にこにこと楽しそうにしているのに水を差すのは折角のおめでたい日にどうかとも思ったのだ。
お姉さまと同じクラスになれたら嬉しいです! とにこにこと話すアリスとは乙女ゲームのシナリオとは違い、険悪な中などではない。
むしろ。
「お姉さまと同じクラスなら家でも学園でもずっと一緒ですね! そうだと良いのになあ…」
シスコンなのでは? と思うような言動が最近は増えている。
仲がいい分にはいいか、と自分に言い聞かせる。
ゲームでは私もアリスも攻略対象者達同じクラスになっていた。同じクラスにならないのは学年が違う攻略対象者だけだ。
がたん、と少し揺れ、馬車が停まった。
アリスと共に馬車から降り、息をのむ。
――ゲームで見た風景だ。
今更ながらにどきり、とした。
これから乙女ゲームのシナリオが本格的に始まる。
ゲームの期間は確か一年だ。
ゲームのシナリオを変えるためにしたことといえば、アリスと険悪な仲にならないように気を付けただけだ。
ヒロインのアリス視点でしかゲームではえかがれていなかったので、ゲームが始まるまでのリリアーヌと攻略対象者たちの仲が良かったのかどうかはわからない。今のところは関わっていないか普通に接することができているかのどちらかである。
「お姉さま!」
「リリー」
アリスの呼ぶ声と一緒に名前を呼ばれた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
アリスの声にならない声を聞きながら、声の聞こえた方を向く。
「クリス様、もういらしてたのですね」
「まあね。とは言っても先程着いたばかりだよ。リリーが来ないかなと思って少し待ってたんだ。リリーの制服姿はきっと可愛いんだろうなとおもって」
にこり、と甘く微笑まれる。
それだけだと婚約者にとても愛された令嬢として周囲に思われていることだろう。
ゲームの設定を知らずにいたら私もきっとそう思えていたのではないかと思う。
ーー第一王子がドSな設定なのと同じように、クリスにも宰相を務める侯爵家の嫡男という家柄以外にも性格についての設定がある。
私を見ていた視線が、私の横に。
そして、クリスはふ、と強気な顔をして笑う。
ーークリスはツンデレキャラだった。
彼と会ってからこの方、ツンの片鱗も見せたことは無いと思う。
それに比べ、アリスに対してはちょっと意地悪そうな、そんな表情をしつつ、アリスがいない時には彼女の声をする方を気にしたりしている。
婚約者を大切に扱うように、ときっと誰かから言われたのだろう。
元から冷たく扱われることもなかったが、社交というものを幼いながらにするようになってからはそれに加えて彼が私に甘く微笑んだりするようになった。
クリスと私の仲は悪くない、きっと幼馴染として親しい方だ。親愛の情はもってくれているかもしれない。
ーーけれど、クリスは私に恋をしていない。
それは漠然とした確信だった。
「お姉さまお姉さまっ! クリス様とはまたいつでもお会いできるでしょうし、入学式に向かいましょう?」
「こらアリス、そんな物言いをしてはいけませんよ」
ごめんなさい、と言いつつアリスは私の腕に自身のそれを絡めた。
そして、ふふふ、と私に微笑む。
アリスからクリスに向けるのはまだ恋とかの感情ではないようだ。
いつもクリスに張り合うように私と一緒に居ようとしている。
仕方ない、入学前にアリスとクリスが会ってしまったことはシナリオにないことなのだ。
シナリオ通りで進むとするのであれば、アリスがクリスに好意を持つようになるのは学園に入学してイベントを何個かこなした後なのだから。
「ではクリス様、また入学式でお会いしましょう」
「ああ、また後で」
微笑み、先に学園へと向かうクリスの背中を見る。
シナリオの強制力なのかもしれない。
ずっと、そう考えるようにしていた。
クリスがアリスに恋をするのも。
ーーー私が、クリスのことを好きになってしまうのも。